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6章 一転

さよならポンポコリン

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 ポンポコリンな彼女の言うことを信じるとするならば彼女が言うAIはとある天才によって生み出されたものであるらしい。その天才とは彼女らしいが自慢げなのが鼻についたので割愛する。元々はビッグデータ解析に人工知能的アプローチを備えて、電脳社会をサポートする存在を作ろうという国家プロジェクトだった。将来的には一人につき、一体のサポートAIをつけることまで見据えていた。

 そんなプロジェクトにアサインされたポンポコリンは、人の感情を再現できず困っている同僚を見て、とあることを思ったらしい。「呪術的に作ったらいけるんじゃないかなぁ」と。なので黙って試してみたら、できてしまったらしい。情報技術的再現ではないので報告はせず、自分一人で勝手に育てて、その後独り立ちしたとのことだった。

 本物のアナーキストというのは、こういう人のことを指すのではなかろうか。おそらく本人に悪気は一切ない。できたからやったぐらいの温度感でしか考えていないだろう。さすが前科持ちなだけある。

 はてさて、そのAIではあるが一応ポンポコリンのことは親とまではいわないけれど友人ぐらいには認識しているらしく、連絡は取り合っているという。最近はどうやっているのかわからないけれど、めちゃくちゃお金を稼いでいるらしく分け与えた量産型アバターからブランドもののアバターに買い替えていたらしい。そのアバターはポンポコリンの給与の数か月分らしく「少しは親孝行して欲しいなぁ」とぼやいていた。どうやって金を稼いでいるのかに思考が向かないあたりはポンポコリンならではだろう。

 話を聞き終える。

 次の瞬間には堂島さんと西野さんがポンポコリンの両脇をがっつりホールドして別室に連行していった。

 一応方針としてポンポコリン謹製のAIに接触することは決まったのだが、その接触を図るのに必要なポンポコリンが連行されたので保留するしかなくなった。

「お前と話合うやつ、やばくないか?」

 北御門に話を振る。

「趣味は合うんだけどね」

 苦笑するしかないといった感じで返された。

「というかお前大学はどうした」

 今更であるが、北御門はここ数日ずっとこちらにいる。もはや大学どうこう言っている場合ではない俺と違い、北御門は対外的には普通の大学生である。講義に出なければならない身分のはずであった。

「ああ。僕、休学したんだ」

 今度は笑顔で返される。

「意味がわからない」

「今回の件が長引きそうだって判断してね」

 樹神さんが部屋に入ってくるも驚きのあまりそのまま会話を続ける。

「お前は馬鹿か。お前は大学にさっさと戻れ」

「でもさ、君今回の件片付いたら留年でしょ? 一人だと寂しくない?」

「俺はもう辞めるつもりだからいいんだよ」

 樹神さんが背後から肩に手を回し、体重を大きくかけてきた。姿勢を崩し、少しばかり前のめりなる。顔が近づいた樹神さんから柑橘系の爽やかな香りがした。

「ウチも諦めたんや。君も諦めた方がええで。もう揉めに揉め切って出した結論やからな」

 もはや俺が口を挟む余地はないことを理解し、不承不承ながら言葉を打ち切った。

「せや、言ってなかったな。君のことも、ウチから学長に頼んで休学扱いにしてもらったで。学費も今回巻き込んだ慰謝料として国から頂戴するから気にせんでええで」

 感謝しかない。

 だがそんな大事なことはちゃんと伝えてほしかった。

 さすれば無駄な努力に終わった受験の日々と一人で踏破した課題の山に想いを馳せることはなかったのだから。
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