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5章 平等な戦い
罰のないルールは破っていい
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ここにいてはまた怒られると思い、場所をプライベートスペースに移すことを提案する。
アンジェラは提案を受け入れるも妹が「こいよ、やってやる」とシャドーボクシングの真似をする。
「妹さん、躾がなっていなくてよ」
「親のせいだな」
「甘い親御さんなのかしら」
「俺には厳しいけどな」
「ならあたしが甘えさせてあげてもよくてよ」
妹が画面から出てきそうなぐらい顔をドアップにする。
「私をダシにいちゃつくんじゃないっ!」
妹がまた切れ散らかして長くそうなのですみやかにプライベートスペースへの移動を開始した。到着するもアンジェラの姿はまだなかった。
妹は俺が到着するやいなや背後に回り、ケツに蹴りを入れてくる。
「なにするんだ」
「八つ当たり」
それだけ言って妹は舌を鳴らし、アンジェラを待つ姿勢に移る。俺と同じかそれ以上のことをアンジェラにもするつもりなのだと悟った。
カメラ越しに映る現実の自室にはアンジェラの姿はなかった。
このやり取りを見てはいないはずだが、あえて遅れているような気がする。
「さあ来い!」
拳を掌にぶつけて気合十分な妹。
その思いに答えるように来訪者が現れる時のエフェクトが再生される。
前後にステップをして身体が現れたらすぐさま一発当ててやろうとする妹。
エフェクトの再生が終わり、身体が出現しても、文字通り手も足も出なかった。
なぜなら現れた身体は金髪を携えた少女のものではなく、黒く無機質な巨躯であったからだ。少女に一発くれてやろうという全年齢平等主義の妹も意気消沈してしまった。
妹が上手いこと黙ったので二人を椅子につくよう勧める。妹が座り、アンジェラもそれを見届けてから少女の姿に戻り、席につく。俺も席につき、話し始める。
「確認、相談したいことがある」
議題は三つ。
模倣犯の目的と禁忌について。
妹の安全と今後の活動方針について。
俺の力について。
この三つはできる限り早くはっきりさせておきたいことであった。
アンジェラもその意図を汲んでくれて模倣犯の目的について話し始める。
「あの模倣犯――名前は知らないから便宜上、名無しと呼ぶことにするわ。名無しの目的は最初はあたしの邪魔だと思っていたけれど、禁忌を犯したことでハッキリしたわ。アレも神になろうとしてる。邪道な方法でね」
俺は尋ねる。
「禁忌とはなんなんだ?」
「禁忌は存在を喰らうことよ。そもそも私達がどういう生命体なのかという話をしなくてはいけないわね」
オカルトな生物には大まかに分けて三つの分類がされる。
一つは肉体を持つもの。妖怪や神話の生物とされ超常的な力を扱える。寿命の多寡はあれど、人と同じように子をなし、血を紡いでいく。
一つは肉体を持たぬもの。精霊がこれに該当し、魂のみの存在であり、魂がこの世界に紐付いているものを指す。
一つは神。この世界の権能を司るもの。
「精霊はこの世界そのものの分霊みたいなものなの。だから殺してもしばらく待てば生き返る。分霊の存在は世界そのものに記憶されてるから。けれどその存在を取り込むことで力を得た場合、取り込んだ側がいることで分霊は世界に存在してることになり、生き返ることはなくなる」
「……バグみたいなもんか?」
「そうね、大まかな認識としては合っているわ」
妹が手を挙げる。
「それさ、なんでやっちゃいけないの? 神様になる手段なんでしょ?」
「簡単よ。人手が足りなくなるの。例えば一人のパーフェクトな人と百人の普通の人、大量の事務仕事を与えた場合どちらがすぐに終わらせられるかで考えてみて。百人いたほうが早く終わるでしょう。神様がいっぱいいた時代にそれをやりすぎたとある地域では、精霊がいなくなって大地が死んだの。自然豊富な土地だったのに今じゃ砂漠ね」
「ゆえの禁忌か。しかし、禁忌っていうぐらいだ。犯したからには相応の罰があるんだろう?」
「ないわ」
信じられない一言が返ってくる。
「正確には罰を与えられる存在はもう地上からは去ってしまった、ね」
樹神さんも初めて出会った時、そんなことを言っていた。地上に残った数少ない神様の一人、と。
「樹神さんでは駄目なのか? あの人も神様だろう?」
「無理だと思うわ。まともに相対できれば彼女が間違いなく勝つでしょう。でも彼女の権能と私たちが今から成ろうとする神の権能は真逆過ぎる存在なの。彼女は文字通り樹を司る自然の神様。現実の神様。私たちが目指すのは電脳の神。虚構を司るの。彼女が対処できずに逃げる手段はいくらでもあるの」
アンジェラが自身を指差す。
「あたしがいい例ね」
少し自慢げにそう言った。
アンジェラは提案を受け入れるも妹が「こいよ、やってやる」とシャドーボクシングの真似をする。
「妹さん、躾がなっていなくてよ」
「親のせいだな」
「甘い親御さんなのかしら」
「俺には厳しいけどな」
「ならあたしが甘えさせてあげてもよくてよ」
妹が画面から出てきそうなぐらい顔をドアップにする。
「私をダシにいちゃつくんじゃないっ!」
妹がまた切れ散らかして長くそうなのですみやかにプライベートスペースへの移動を開始した。到着するもアンジェラの姿はまだなかった。
妹は俺が到着するやいなや背後に回り、ケツに蹴りを入れてくる。
「なにするんだ」
「八つ当たり」
それだけ言って妹は舌を鳴らし、アンジェラを待つ姿勢に移る。俺と同じかそれ以上のことをアンジェラにもするつもりなのだと悟った。
カメラ越しに映る現実の自室にはアンジェラの姿はなかった。
このやり取りを見てはいないはずだが、あえて遅れているような気がする。
「さあ来い!」
拳を掌にぶつけて気合十分な妹。
その思いに答えるように来訪者が現れる時のエフェクトが再生される。
前後にステップをして身体が現れたらすぐさま一発当ててやろうとする妹。
エフェクトの再生が終わり、身体が出現しても、文字通り手も足も出なかった。
なぜなら現れた身体は金髪を携えた少女のものではなく、黒く無機質な巨躯であったからだ。少女に一発くれてやろうという全年齢平等主義の妹も意気消沈してしまった。
妹が上手いこと黙ったので二人を椅子につくよう勧める。妹が座り、アンジェラもそれを見届けてから少女の姿に戻り、席につく。俺も席につき、話し始める。
「確認、相談したいことがある」
議題は三つ。
模倣犯の目的と禁忌について。
妹の安全と今後の活動方針について。
俺の力について。
この三つはできる限り早くはっきりさせておきたいことであった。
アンジェラもその意図を汲んでくれて模倣犯の目的について話し始める。
「あの模倣犯――名前は知らないから便宜上、名無しと呼ぶことにするわ。名無しの目的は最初はあたしの邪魔だと思っていたけれど、禁忌を犯したことでハッキリしたわ。アレも神になろうとしてる。邪道な方法でね」
俺は尋ねる。
「禁忌とはなんなんだ?」
「禁忌は存在を喰らうことよ。そもそも私達がどういう生命体なのかという話をしなくてはいけないわね」
オカルトな生物には大まかに分けて三つの分類がされる。
一つは肉体を持つもの。妖怪や神話の生物とされ超常的な力を扱える。寿命の多寡はあれど、人と同じように子をなし、血を紡いでいく。
一つは肉体を持たぬもの。精霊がこれに該当し、魂のみの存在であり、魂がこの世界に紐付いているものを指す。
一つは神。この世界の権能を司るもの。
「精霊はこの世界そのものの分霊みたいなものなの。だから殺してもしばらく待てば生き返る。分霊の存在は世界そのものに記憶されてるから。けれどその存在を取り込むことで力を得た場合、取り込んだ側がいることで分霊は世界に存在してることになり、生き返ることはなくなる」
「……バグみたいなもんか?」
「そうね、大まかな認識としては合っているわ」
妹が手を挙げる。
「それさ、なんでやっちゃいけないの? 神様になる手段なんでしょ?」
「簡単よ。人手が足りなくなるの。例えば一人のパーフェクトな人と百人の普通の人、大量の事務仕事を与えた場合どちらがすぐに終わらせられるかで考えてみて。百人いたほうが早く終わるでしょう。神様がいっぱいいた時代にそれをやりすぎたとある地域では、精霊がいなくなって大地が死んだの。自然豊富な土地だったのに今じゃ砂漠ね」
「ゆえの禁忌か。しかし、禁忌っていうぐらいだ。犯したからには相応の罰があるんだろう?」
「ないわ」
信じられない一言が返ってくる。
「正確には罰を与えられる存在はもう地上からは去ってしまった、ね」
樹神さんも初めて出会った時、そんなことを言っていた。地上に残った数少ない神様の一人、と。
「樹神さんでは駄目なのか? あの人も神様だろう?」
「無理だと思うわ。まともに相対できれば彼女が間違いなく勝つでしょう。でも彼女の権能と私たちが今から成ろうとする神の権能は真逆過ぎる存在なの。彼女は文字通り樹を司る自然の神様。現実の神様。私たちが目指すのは電脳の神。虚構を司るの。彼女が対処できずに逃げる手段はいくらでもあるの」
アンジェラが自身を指差す。
「あたしがいい例ね」
少し自慢げにそう言った。
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