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3章 守るべきもの

風俗とは自由恋愛であり、すなわちデートである

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 天樹会での話し合いが終わって自宅に着く頃には、日も落ちて暗くなっていた。

 電気を点け、コンビニで買ってきた弁当をレンチンしていると置いていった携帯から「やーっと帰ってきた! 遅い!」という文句が飛び出した。

「おかえりなさいの一言ぐらいあっていいんじゃないか」

「うわーにーちゃんって案外亭主関白タイプ?」

 その画面を見ると電池残量が赤くなっていた。

「てかにーちゃんってば携帯忘れるとかドジなとこあんね」

 ケラケラと残り少ない携帯画面の中で腹を抱えて笑う。ピコンと携帯が充電を欲する通知を見せてきたので、そのまま充電器に指す。そしたら妹が「あぁぁぁ生き返るんじゃぁぁ」などとマッサージチェアに腰掛ける老人の如く声を震わす。その演技は真に迫り、喉仏にジジイが住んでいるようだった。

 ジジイが引っ込んだ喉仏で訊いてくる。

「今日どこ行ってたの?」

 これについては言う気がなかった。

 下手な言い訳をして妹の勘に触れてしまうのを避けたかった。だったら最初から言う気がない意思表示をしておくのがベターだというものだ。大した情報を与えなければ妹の知能では辿り着けないだろうと確信している。

「女の子とデートしてた」

「ダウト」

 驚きやしないと思っていたが反応一つ示してくれないのは少しばかり寂しい。

「にーちゃんさー、つまんない冗談やめなー。にーちゃんとデートしてくれる人なんてこの世に存在するわけないからさ」

「舞香さんや、少し辛辣過ぎやしないか」

「妹を放ってどこかへ行った人には当たっていいという判例があるのですよ」

「どこの妹独裁国家の判例だよ」

「シスター合衆国という、妹の妹による妹のための政治という妹絶対主義政治の原則を謳った国家のものですねー」

「人種問題よりも兄妹間格差が問題になってそうな国だな」

「だからにーちゃんは私に全てを曝け出す必要があるのですよ」

「残念ながらここは日本だ、馬鹿」

 ちょうどレンジから弁当が温まった音がして、取りに向かう。

「てかさー私にも言えない場所ってどこよ」

 背後から声が届く。

「男が女に言わずに出て行くとこなんて一か所に決まってるだろう」

 妹はその意味が分からないのか声は一旦途切れる。

 その間に机につき、弁当を食べ始める。

「風俗だよ、馬鹿」

「さいてー」

「だから言わなかったんだよ」

 これでわざわざどこ行ったか掘り返されることはないだろう。

「そんで風俗どうだった? カワイ子ちゃんに当たった? それともゲテモノ? てか風俗ってどういうプレイすんの? ソープってよく聞くけど風俗となんか違うの?」

 まさか風俗について深掘りされるとは思わかった。

 我が妹ながら頭がおかしい。これでネットアイドルやっているのだから、この世はもっとおかしい。

「にーちゃんが肉欲発散してきたって聞いたら、ないはずの肉欲が滾る~!」

 頭が悪い発言に頭が痛くなるも、訊いておかねばならないことがあった。

「やっぱり身体取り戻せるなら取り戻したいか?」

「そりゃそうでしょ!」

 妹の意思もそうであるならば少女と組む方針で進めて問題なさそうだ。

「そんでにーちゃんと一緒に風俗行って、にーちゃんがどんなプレイするか見学したい!」

「……兄妹で行く場所じゃねえよ」

 あまりの馬鹿さ加減に決意が揺らぎそうになってしまった。
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