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1章 義妹と書いて偽妹と読む
散らかし方はリアルもバーチャルも変わらない
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プライベートスペースとは、個人用の電脳を指す言葉の一つである。決まった呼称はないが、大体はこのような呼び方をしている。過疎電脳をプライベートスペースと言ったりする冗談も存在する。この場合、大体は煽りである。
プロゲーマーサクラバこと大学の友人である桜庭のプライベートスペースは、大人数が腰掛けられる数の椅子と大きな机、そこから大型スクリーンが見えるような並びになっていた。あとは各種オブジェクトが整理整頓された配置になっていた。
「わぁーここがプロゲーマーのプライベートスペースなんだ! 思ったよりシンプルなんですね!」
プロゲーマーの部屋を見てテンションが上がる偽物。キョロキョロと部屋のものを一つ一つ触って騒いでいた。
「ここはチームメンバーでミーティングするぐらいにしか使わないしな」
「えーこんな良い部屋なのにもったいない。なんなら舞香が使ってもいいっすよ」
妹のアバターを盗んだ挙句、プライベートスペースを盗ろうというのか。
「場合によってはそれも考えてるな」
「おい、桜庭。何言っているんだ」
「落ち着けって。ほら、二人とも座って」
桜庭に促され、席に着く。
大テーブルの端っこに固まって三人座る。
桜庭の向い合せに座ると、偽物が横に陣取ってきた。それに怪訝な視線を送るも、意に介すどころか妹が隣に座ってあげましたと言わんばかりのドヤ顔を披露してくれた。
「よく隣に座れるな」
苦情の一つでも言ってやったら「家ではいつも隣同士でご飯食べてたじゃん」と俺の家族しか知らないことを返される。それに戸惑い返事を窮していると桜庭が「では本題に入ろうか」と切り出した。
「最近、配信者が謎の存在――ここではエネミーと呼ぼうか。エネミーに襲われている事件が多発している。これについては二人とも知ってるか?」
「いいや、初耳だ」
「あ、私知ってる。ライバーさんとかネットアイドルとか舞香よく見てるけど、最近襲われてたとこ配信してたわ」
「そうそれ。三刀は疎いようだから説明しておくか」
「三刀だと舞香もそうだから、面倒だから名前で呼んでよー」
「ああ……たしか総司だっけ?」
「友人の名前忘れるなよ」
「普段、苗字でしか呼ばないと名前がパッと出てこないんだよ」
友達がいのない奴という文句は喉元で押さえこみ、別の文句を投げつける。
「そのエネミーとかいう奴は今関係ないだろう」
「ま、とりあえず聞けって」
そういって桜庭はエネミーの説明を始める。
最初に姿が確認されたのは五か月前、大学一年の冬のこと。奇しくも妹が死んだ時期と重なっていた。そのエネミーの出現する時間・場所に法則性はなく、配信者がいればそこに現れることだけがわかっている。
だが、それだけならはた迷惑なウイルスかクラッカーによる攻撃か、で済む話だという。
このエネミーはそれだけで済まない被害を与えているとのことだ。この情報は企業が関わっている配信者やプロゲーマーでのみ共有されているものゆえオフレコだと念を押される。
そのエネミーに撃破された者は記憶喪失になるという。記憶喪失の度合いは多岐に渡る。配信中の記憶を失うだけに留まった者もいれば数か月から数年に渡る記憶が失ってしまった者もいる。しかし、それ以上の症状はない。一件たりとも。人為的に記憶喪失になる仕組みなんて聞いたことがなく、その外れ値もないとするならば怪奇現象と呼んでしかるべきだという。
ゆえに桜庭は、この偽物が死んだはずの妹で、エネミーになんらかの形で巻き込まれたと考えたそうだ。
「それはコイツにとって都合が良い解釈が過ぎる。そもそも記憶喪失以外にはならないんじゃないのか?」
「……実はもう一つ、オレしか知らないことがある。オレはそのアバターを見たことがある。件のエネミーによく似た何かに襲われていたところを、だ」
プロゲーマーサクラバこと大学の友人である桜庭のプライベートスペースは、大人数が腰掛けられる数の椅子と大きな机、そこから大型スクリーンが見えるような並びになっていた。あとは各種オブジェクトが整理整頓された配置になっていた。
「わぁーここがプロゲーマーのプライベートスペースなんだ! 思ったよりシンプルなんですね!」
プロゲーマーの部屋を見てテンションが上がる偽物。キョロキョロと部屋のものを一つ一つ触って騒いでいた。
「ここはチームメンバーでミーティングするぐらいにしか使わないしな」
「えーこんな良い部屋なのにもったいない。なんなら舞香が使ってもいいっすよ」
妹のアバターを盗んだ挙句、プライベートスペースを盗ろうというのか。
「場合によってはそれも考えてるな」
「おい、桜庭。何言っているんだ」
「落ち着けって。ほら、二人とも座って」
桜庭に促され、席に着く。
大テーブルの端っこに固まって三人座る。
桜庭の向い合せに座ると、偽物が横に陣取ってきた。それに怪訝な視線を送るも、意に介すどころか妹が隣に座ってあげましたと言わんばかりのドヤ顔を披露してくれた。
「よく隣に座れるな」
苦情の一つでも言ってやったら「家ではいつも隣同士でご飯食べてたじゃん」と俺の家族しか知らないことを返される。それに戸惑い返事を窮していると桜庭が「では本題に入ろうか」と切り出した。
「最近、配信者が謎の存在――ここではエネミーと呼ぼうか。エネミーに襲われている事件が多発している。これについては二人とも知ってるか?」
「いいや、初耳だ」
「あ、私知ってる。ライバーさんとかネットアイドルとか舞香よく見てるけど、最近襲われてたとこ配信してたわ」
「そうそれ。三刀は疎いようだから説明しておくか」
「三刀だと舞香もそうだから、面倒だから名前で呼んでよー」
「ああ……たしか総司だっけ?」
「友人の名前忘れるなよ」
「普段、苗字でしか呼ばないと名前がパッと出てこないんだよ」
友達がいのない奴という文句は喉元で押さえこみ、別の文句を投げつける。
「そのエネミーとかいう奴は今関係ないだろう」
「ま、とりあえず聞けって」
そういって桜庭はエネミーの説明を始める。
最初に姿が確認されたのは五か月前、大学一年の冬のこと。奇しくも妹が死んだ時期と重なっていた。そのエネミーの出現する時間・場所に法則性はなく、配信者がいればそこに現れることだけがわかっている。
だが、それだけならはた迷惑なウイルスかクラッカーによる攻撃か、で済む話だという。
このエネミーはそれだけで済まない被害を与えているとのことだ。この情報は企業が関わっている配信者やプロゲーマーでのみ共有されているものゆえオフレコだと念を押される。
そのエネミーに撃破された者は記憶喪失になるという。記憶喪失の度合いは多岐に渡る。配信中の記憶を失うだけに留まった者もいれば数か月から数年に渡る記憶が失ってしまった者もいる。しかし、それ以上の症状はない。一件たりとも。人為的に記憶喪失になる仕組みなんて聞いたことがなく、その外れ値もないとするならば怪奇現象と呼んでしかるべきだという。
ゆえに桜庭は、この偽物が死んだはずの妹で、エネミーになんらかの形で巻き込まれたと考えたそうだ。
「それはコイツにとって都合が良い解釈が過ぎる。そもそも記憶喪失以外にはならないんじゃないのか?」
「……実はもう一つ、オレしか知らないことがある。オレはそのアバターを見たことがある。件のエネミーによく似た何かに襲われていたところを、だ」
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