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「はい?」

 俺は思わず聞き返した。
 いや、言っている意味はわかる。
 わかるが、この国を出て人間領の他の国に行ったとしてもあまり農民の待遇は変わらないだろう。
 俺のそんな思考を読み取ったのか、リアさんは得意げに言ってくる。

 「世界はね、広いんだよ」

 「つまり?」

 「こっちがダメなら、山むこうの魔族の国に行けば良いんだよ」

 リアさんが、壁に向かって指をさす。
 その壁の向こうには、大陸を横断する山脈があり、そしてその向こうには魔族領が広がっている。
 あ、他の国って言うからてっきりそのままの意味かと。
 人間領じゃなくて魔族領の方か。
 そこでウカノ兄ちゃんが、ポンっと手を叩く。

 「あ、なるほど。
 たしかに、魔族領なら実力主義だから生まれとかは関係ないか」

 しかし、言った直後に何やら神妙な顔つきになった。
 かと思うと、
 
 「まぁ、お前シンはもう子供じゃないから止めはしないが、この前ダンジョンでちょっかい掛けてきた人達が所属する国はオススメしないなぁ」

 そんなことを、言ってきた。
 基本放任だろうに、なんでわざわざそんなこと言うんだか。

 「この前って、あー、クロッサ兄ちゃんが関わってそうな国のこと?」

 「覚えてたか」

 「そりゃあねぇ」

 俺とウカノ兄ちゃんの会話にハイラさんが割って入る。

 「どなたですか?」

 「……俺の四番目の兄です」

 俺の返答に、是非挨拶せねば、とハイラさんが意気込んだ。
 しなくていいから!!

 「ま、これはあくまでも元冒険者としての意見だから。
 参考にはなると思うよ。
 それにほら、シン君って転移魔法使えるでしょ?
 だから、手続きのために魔族領に行く手間がかかるけど、片道で済むしね」
 
 それはそうだが、その場合入国審査とかどうなるんだろう?
 使える魔法とか、そういうの報告するための書類とか書かされたりするんだろうか?

 「んー、ごめん。そこまではわかんないや」

 ですよね~。
 調べたいけど、現地に行って聞いた方が良いかな?
 そういえば、なにか忘れてるよーな??
 なんだっけ?
 あ、そうだ!

 なにか頭の隅に引っかかっている。
 それが何なのかを考えようとした時、

 「おい!! 資格剥奪されたって、どういうことだ、シン!?」

 バタバタと息せき切って、エリィさんが下宿へと駆け込んできた。
 
 「あ、そうだ、エリィさんだ」

 俺も兄ちゃんと同じ動作で手を叩いた。

 「忘れてたの?」

 リアさんが呆れたように訊いてくる。

 「報連相しなきゃなー、とは思ってたんですけど、忘れてました」

 それが聞こえていたのだろう。
 エリィさんが叫ぶ。
 
 「忘れるな!!」

 「すみません。
 でも、ちょうど良かったです。
 今リアさんにも言われたんですけど、外国で資格取り直そうかなって思ってるんです」

 そこから色々とエリィさんに説明する。
 そして、

 「別のギルドを利用したにも関わらず、これですからねぇ」

 「そう、それだ!!
 ギルドマスターの方も寝耳に水だったらしい。
 少なくとも今、お前と私が利用している冒険者ギルドは関与していないのは確かなんだ」

 「それならそれで別にいいです。
 興味もありません。
 現に俺は資格をはく奪されてるんです。
 どこの誰が関与していようが、いなかろうがどうでもいいです。
 ただ、この国の、人間領の冒険者ギルドは、もう信じられません」

 「それは、そうだが」

 「だからこそ、外国に行って取得しようと思うんです。
 人間領は期待すらできないので、魔族領に行こうかと考えてます」

 とりあえず、拠点がこの下宿なのは変わらないことなども話しておく。

 「エリィさんはSSSランクですから、依頼の関係上ここを離れられないですから。
 せっかく誘ってもらったのに、一時的にですが、こんな形でパーティ解消になるのは残念です。
 資格取り直したら、また一緒に冒険行きましょうね」

 「……珍しくやる気だな。
 もう少し怒ったらどうだ」

 エリィさんが複雑な表情で言った時、ウカノ兄ちゃんが口を挟んだ。

 「いや、こいつだいぶ腹に据えかねてますよ」

 「そうなのか!?」

 ウカノ兄ちゃんが頷く。
 
 「そうですよ。
 じゃないと、自分を取り調べた刑事の情報を愚痴として流したりしませんもん」

 兄ちゃんの言葉に、意味が分からなかったのだろう、エリィさんは先ほどのリアさんと同じく顔に疑問符を浮かべた。
 しかし、とくに説明したりはしない。
 
 「まぁ、それは置いておくとして。
 とりあえず、魔族領に行く旅程組まないとなぁ。
 そういえば兄ちゃんはどうするの?
 家見つかった??」

 俺の言葉にウカノ兄ちゃんは肩をすくませた。
 王族を助けた功労とかそういうので、剣じゃなくて家をもらえば良かったのに。

 「あ、そっか、その手があったか」

 俺の呟きにウカノ兄ちゃんがすっとぼけた反応を返してきた。
 さて、呑気な会話はここまでだった。
 刑事の噂もそうだが、俺が冒険者の資格をはく奪されたことを聞きつけたエル殿下、ヒュウガ&ミナクさん他農民冒険者さん達が、入れ替わり立ち代わりに下宿を訪れ始めて、騒然となってしまった。
 ちなみにエル殿下はこの際だから、うちに就職しろと勧誘してきた。
 ありがたいが、それを丁重にお断りした。
 その人たちに軽くこれからのことを説明して日が暮れて、妙な疲れを感じたまま、その日は終わったかにみえた。

 「あ、お邪魔します」

 最後の最後にタナトスさん達も、転職するなら、ということで勧誘に来た。
 いや、本当にありがたいことだが、こちらも丁重にお断りした。

 そんなこんなで翌日。
 エル殿下が再度下宿を訪れた。
 そして、昨日の俺の説明を踏まえて、こんな提案をしてきたのだ。

 「SSSランク冒険者だった経歴を踏まえて、シン、そしてウカノ殿、二人に改めて依頼をしたい。
 魔族領に行くなら、ついでになってしまうが、妹の護衛をお願いしたい」
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