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 「沢山作り過ぎて、余ったから君にあげるよ。
 あ、そうそうSSS級冒険者に昇格したんだってね。おめでとう。
 そのお祝いってことで、これ上げるよ」

 冒険者ギルド関連のゴタゴタから数日後。
 ダンジョン攻略にはいまだ行けていない。
 なぜなら昇格からこっち、SSS級冒険者向けの仕事を押し付けられまくっているからだ。
 今日は何がなんでも休む、と決めていた日だ。
 下宿の部屋でゴロゴロしていると、知り合いの錬金術士が空間転移してきた。
 玄関から来い。
 その錬金術士は、茶髪で年齢不詳、どちらかと言うと詐欺師と言われれば納得するくらい胡散臭い男だ。
 名前はニコラスさんだ。

 「なんですか、これ、花火?」

 「そ、家庭用の小さいやつ」

 「余ってるんですか」

 「作りすぎて余っただけだよ。
 小説家のセンセーとか、こういうの好きだろうし。あの貴族のお嬢様も興味もつんじゃないかな。
 というわけで、あげるよ」

 と、こんな感じで余り物を押し付けて錬金術士は空間を裂いて、転移して行った。
 ポリポリと頭をかきかき、俺は花火の詰め合わせを見た。
 今度エリィさんが来た時にでも、遊んでみるか。
 とか考えていたのだが、意外とこの花火の出番は早く来ることになった。

 「リアさん、草取り、大変でしょ。
 除草剤余ってるんで、撒きますよ」

 炎天下の中、下宿の庭で汗を垂らしながら草刈りをしていたリアさんへ、俺は見かねて申し出た。
 機械も薬剤も揃っている。

 「え!? ほんとう??
 ありがとう、助かるわー。
 アイスレモネード作っておくから、終わったら教えてね」

 リアさんはそう言って、戦線を離脱していった。
 とくに庭で家庭菜園をやっているわけでは無いので、遠慮なく俺は除草剤を撒いた。
 その時、俺はその存在に気づいた。
 ブンブンと俺の周囲を飛び回り、威嚇してくる存在。
 蜂である。
 どこかに巣でもあるのだろうか?
 そう考えて探すが、頭より上の位置にそれらしき物は見当たらない。
 まさか、と思い鑑定を使って組まなく調べる。
 するとそれは見つかった。
 地面、いや地中に巣を作るタイプの蜂か。
 蜂を更に鑑定する。

 「ちっ、食えないや」 

 珍味扱いされて、何気に高価な値がつく種類かと期待したが違う蜂だった。
 農業ギルドで殺虫剤買って来るかなぁ、と考えたが、俺の脳裏に先程ニコラスさんにもらった花火の存在がチラついた。
 そして、俺の童心に火がついた。
 危ない遊びを、やりたい衝動に駆られる。
 下宿の人たちには蜂が出て危ないから、暫く庭には近寄らないように言おう。

 「よしっ!」

 せっかく花火も貰ったんだし、遊ぼう!
 決めたら、我ながら行動が早かった。
 リアさん含めた下宿に残っている人達に蜂のことを伝える。
 そして、危ないから庭にはしばらく出ないようにとも伝えた。
 俺は部屋から花火持ち出すと、逸る心を抑えつつ蜂の巣、その入口である穴の前まで来ると、威嚇のために出てきた蜂に顔を刺されないよう注意しつつ、花火の一つに火をつけた。
 うちのおじさん、酔っ払ってこれやってアナフィラキシーショックになって死んだからな。気をつけないと。
 そして、夜だったなら色鮮やかな火の花が咲いているのがわかるだろうが、なにせ今は昼だ。
 ただ明るい火花が煙を起てて散っているようにしか見えない。
 その花火を、ワクワクドキドキしながら蜂の巣へ突っ込んだ。
 ブシュルルルル!!
 ぼシュワァぁあ!!
 と、花火が燃えて、燃え尽きた。
 かと思うと、穴から激怒した蜂が出てくるでてくる。
 それを、二刀流花火で迎え撃つ。
 焼け落ちていく蜂、蜂、蜂。
 よし、今度は五本まとめて穴に突っ込もう!!
 ふふふ、戦闘員が尽きていないことはお見通しなのだよ。

 「たーのしいー!!」

 一人遊びで悦に入っていたところ、

 「お前はなにをやってるんだ!!?」

 いつの間に来ていたのか、現れたエリィさんに頭を叩かれた。

 「いたっ、て、あ、エリィさん。こんにちわ」

 「挨拶はいい、お前はなにをやってるんだ!」

 俺は、手に持ったまだ火のついてない花火と、いまだ蜂の巣の中で火花を散らしている花火をそれぞれ見て、胸を張って答えた。

 「暇だったんで、久しぶりに花火で遊んでました!」

 「堂々と言うな! どう見ても蜂の巣にちょっかい掛けてただろ!」

 たしかに、その通りだ。
 言い直すか。

 「花火で蜂の巣退治ごっこしてました!!」

 「SSS級冒険者が、なにが退治ごっこだ!!
 相手がモンスターじゃないなら、そういうのは業者に任せろ!!」

 「え、それじゃ花火で遊べないじゃないですか」

 「そもそも花火はそういう風に遊ぶものじゃないだろ!」

 「嫌だなぁ、危ない遊びをして痛い目を見て子供は成長するもんじゃないですか。
 まあ、俺のおじさんこの遊びして蜂に刺されて死にましたけど」

 「減らず口は、この口か??」

 と、そこで気づいた。
 蜂の羽音が消えている。
 見れば、巣に突っ込んだ花火も終わっていた。

 「ありゃ、終わっちゃった」

 どうやら蜂の巣は壊滅したようだ。
 しょんぼりしていると、俺は実家にいた頃からやっていたこの遊びについてエリィさんから説教を食らうことになってしまった。
 楽しいのに。
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