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ちゃんとわかる形でって、えー、めんどい。
「そう言われても」
「なに、簡単なことだ。
俺を連れてこの山脈の山頂まで連れて行って、目の前で災害級モンスターを倒せばいい。
ここまでの君の証言が真実で事実なら、なんら問題は無いはずだ」
「いやぁ、やんごとなき身分の人をそんな危険地帯に連れてくなんて出来ませんよ。
あなたに何かあったら、俺死罪になっちゃうじゃないですか。
俺まだ死にたくないんで」
そんなことで死にたくない。
せっかく、【創世邪神】のダンジョンを見つけたのに。
俺の冒険はここからだと言うのに。
「あはは、面白いことを言うんだな」
「そうですか?」
「君の実力がSSS級冒険者と同じかそれ以上なら、大人しく捕まるなんてことしないだろ。
逃げるには十分過ぎる、まさに一騎当千の力を有してるはずだが?
それとも、逃げられない理由でもあるのかな?」
この人はわかってて聞いているのか、それともわからずに聞いているのか微妙だ。
「前科持ちになりたくないだけです」
村八分が怖い、というのはある。
俺が仮に前科持ちにでもなったら、実家が他の村人から石を投げられる可能性だってある。
昨日の隣人は今日の暴漢だ。
「ふむ、なら譲歩しよう。
そうだなこちらはこちらで護衛を用意する。
そして君についてこの山脈の山頂まで行って、君の実力を見せてもらう。
もちろん、私や護衛の者が命を落としても君の責任にはならない」
ドヤ顔で提案されるが、これ、そもそも王族命令だから断れないんだよな。
諦めるか。
「わかりました。
その代わり、山頂に行くのは無しでもいいですか?」
「?
どういう意味だい?」
「道具を使って災害級モンスターを誘き寄せる方法があります
それを使います。
それでもいいですか?」
「あぁ、構わない」
「あと」
「まだ何か?」
「今日はもう日が落ちてるので、明日の正午にやるということで、いいでしょうか?」
夜間の行動はなるべく控えたい。
普通に危ないからだ。
「なるほど、もちろんそれでいい」
エルドレッド殿下はその申し出を受け入れてくれた。
こんな感じで話が纏まったのだった。
しかし、その後の会場の空気がもう最悪だった。
俺に対して石を投げ、ついでとばかりに農民に対して罵詈雑言を捲し立てていた人達が、逆に農民達から冷たい態度をとられている。
同じように石を投げたりはしないが、ただいつそうなってもおかしくは無い。
仕事だからこそ、屋台を出している人達は表向きは普通にしているが、どこか農民じゃない人にはよそよそしかった。
なんでわかったのかって?
屋台に並んでいた農民出身者が、農民ではない客の特徴をこっそり伝えて行くのだ。
良かれと思って伝えて行くのだ。
それは、あっという間に会場の農民出身者にシェアされてしまう。
村八分はこれをもっとえげつなくしたやつだ。
「あー、疲れた」
俺は会場の隅で座り込んで呟いた。
場所が場所なので、冒険者ギルドや農業ギルドが提供するテントを使った宿泊施設が増設されていた。
客の何割かはここに泊まるようだ。
もちろん有料である。
「お疲れ様。ほれ、食え食え。奢りだ。
我らがリーダー殿」
そう言って屋台から買った食べ物を持って、ヒュウガさんが現れた。
それは、紙に包まれたハンバーガーだった。
ハンバーガーを受け取りつつ、俺は答える。
「本当に、疲れました。
あと、リーダーってのはやめてください。
呼び捨てで構いませんよ、ヒュウガさん」
いや、そもそもこの人は最初から呼び捨てだった気がする。
「そうか?
なら、こっちに対してもその敬語はやめてほしいんだが。
なんだかむず痒いというか」
「いや、ヒュウガさんは歳上でしょう」
「ミナクに対しても敬語だった気がするが」
「優秀で天才な人には敬意を表するものですよ」
「その言い分じゃ、お前は優秀でも天才でも無いって言ってるようなもんだぞ」
「まぁ、事実ですね。
農民を知らない人から見たら、災害級モンスターそれぞれ十頭討伐は物珍しいから凄い凄いっていってますけど、ヒュウガさんやミナクさんだって、出来るでしょ?」
「まぁな。実家じゃカカシ作りをよく手伝わされた」
「俺もです。どこも田舎は一緒ですね。
ただ、場所が変わればそれが凄いになるだけです。
それは、知らない人からの凄いです。
そして、その凄いは、知らない人達の世界じゃ認められないものになってるわけです」
「異端の魔女扱いだもんなぁ」
「あはは、たしかにそうですね。
でも、異端で異質な強さと評される農民の普通の中でも、俺はとくにドベの部類に入りますよ。
冒険者になってからもそうですけど、実家に居た時だってクソ親父や兄たちにドベだ下手くそだって貶されこそすれ、仕事を認められるなんて無かったですもん。
あ、エリィさんはべつですよ!
あの人は、初めて俺の仕事を認めてくれた人ですから。
初めて誰かに認めて貰えた時は嬉しかったですね」
「……身の上話はいいから、敬語とってくれないか?」
「そんなにむず痒いですか?」
「あぁ。リーダー殿呼びをしていいのならそのままでもいいが」
「わかりましたよ。
ヒュウガ、ご飯おごってくれてありがとう」
別にタメ口や砕けた口調が出来ないわけじゃない。
「どういたしまして、シン。
しかし、王族まで出てくるとは、出世の予兆じゃないのか?」
ヒュウガさん、いや、ヒュウガがおどけて言ってくる。
「大衆娯楽小説じゃあるまいし。無い無い」
俺は手をパタパタ振ってそれを否定し、ハンバーガーにかぶりついた。
「そう言われても」
「なに、簡単なことだ。
俺を連れてこの山脈の山頂まで連れて行って、目の前で災害級モンスターを倒せばいい。
ここまでの君の証言が真実で事実なら、なんら問題は無いはずだ」
「いやぁ、やんごとなき身分の人をそんな危険地帯に連れてくなんて出来ませんよ。
あなたに何かあったら、俺死罪になっちゃうじゃないですか。
俺まだ死にたくないんで」
そんなことで死にたくない。
せっかく、【創世邪神】のダンジョンを見つけたのに。
俺の冒険はここからだと言うのに。
「あはは、面白いことを言うんだな」
「そうですか?」
「君の実力がSSS級冒険者と同じかそれ以上なら、大人しく捕まるなんてことしないだろ。
逃げるには十分過ぎる、まさに一騎当千の力を有してるはずだが?
それとも、逃げられない理由でもあるのかな?」
この人はわかってて聞いているのか、それともわからずに聞いているのか微妙だ。
「前科持ちになりたくないだけです」
村八分が怖い、というのはある。
俺が仮に前科持ちにでもなったら、実家が他の村人から石を投げられる可能性だってある。
昨日の隣人は今日の暴漢だ。
「ふむ、なら譲歩しよう。
そうだなこちらはこちらで護衛を用意する。
そして君についてこの山脈の山頂まで行って、君の実力を見せてもらう。
もちろん、私や護衛の者が命を落としても君の責任にはならない」
ドヤ顔で提案されるが、これ、そもそも王族命令だから断れないんだよな。
諦めるか。
「わかりました。
その代わり、山頂に行くのは無しでもいいですか?」
「?
どういう意味だい?」
「道具を使って災害級モンスターを誘き寄せる方法があります
それを使います。
それでもいいですか?」
「あぁ、構わない」
「あと」
「まだ何か?」
「今日はもう日が落ちてるので、明日の正午にやるということで、いいでしょうか?」
夜間の行動はなるべく控えたい。
普通に危ないからだ。
「なるほど、もちろんそれでいい」
エルドレッド殿下はその申し出を受け入れてくれた。
こんな感じで話が纏まったのだった。
しかし、その後の会場の空気がもう最悪だった。
俺に対して石を投げ、ついでとばかりに農民に対して罵詈雑言を捲し立てていた人達が、逆に農民達から冷たい態度をとられている。
同じように石を投げたりはしないが、ただいつそうなってもおかしくは無い。
仕事だからこそ、屋台を出している人達は表向きは普通にしているが、どこか農民じゃない人にはよそよそしかった。
なんでわかったのかって?
屋台に並んでいた農民出身者が、農民ではない客の特徴をこっそり伝えて行くのだ。
良かれと思って伝えて行くのだ。
それは、あっという間に会場の農民出身者にシェアされてしまう。
村八分はこれをもっとえげつなくしたやつだ。
「あー、疲れた」
俺は会場の隅で座り込んで呟いた。
場所が場所なので、冒険者ギルドや農業ギルドが提供するテントを使った宿泊施設が増設されていた。
客の何割かはここに泊まるようだ。
もちろん有料である。
「お疲れ様。ほれ、食え食え。奢りだ。
我らがリーダー殿」
そう言って屋台から買った食べ物を持って、ヒュウガさんが現れた。
それは、紙に包まれたハンバーガーだった。
ハンバーガーを受け取りつつ、俺は答える。
「本当に、疲れました。
あと、リーダーってのはやめてください。
呼び捨てで構いませんよ、ヒュウガさん」
いや、そもそもこの人は最初から呼び捨てだった気がする。
「そうか?
なら、こっちに対してもその敬語はやめてほしいんだが。
なんだかむず痒いというか」
「いや、ヒュウガさんは歳上でしょう」
「ミナクに対しても敬語だった気がするが」
「優秀で天才な人には敬意を表するものですよ」
「その言い分じゃ、お前は優秀でも天才でも無いって言ってるようなもんだぞ」
「まぁ、事実ですね。
農民を知らない人から見たら、災害級モンスターそれぞれ十頭討伐は物珍しいから凄い凄いっていってますけど、ヒュウガさんやミナクさんだって、出来るでしょ?」
「まぁな。実家じゃカカシ作りをよく手伝わされた」
「俺もです。どこも田舎は一緒ですね。
ただ、場所が変わればそれが凄いになるだけです。
それは、知らない人からの凄いです。
そして、その凄いは、知らない人達の世界じゃ認められないものになってるわけです」
「異端の魔女扱いだもんなぁ」
「あはは、たしかにそうですね。
でも、異端で異質な強さと評される農民の普通の中でも、俺はとくにドベの部類に入りますよ。
冒険者になってからもそうですけど、実家に居た時だってクソ親父や兄たちにドベだ下手くそだって貶されこそすれ、仕事を認められるなんて無かったですもん。
あ、エリィさんはべつですよ!
あの人は、初めて俺の仕事を認めてくれた人ですから。
初めて誰かに認めて貰えた時は嬉しかったですね」
「……身の上話はいいから、敬語とってくれないか?」
「そんなにむず痒いですか?」
「あぁ。リーダー殿呼びをしていいのならそのままでもいいが」
「わかりましたよ。
ヒュウガ、ご飯おごってくれてありがとう」
別にタメ口や砕けた口調が出来ないわけじゃない。
「どういたしまして、シン。
しかし、王族まで出てくるとは、出世の予兆じゃないのか?」
ヒュウガさん、いや、ヒュウガがおどけて言ってくる。
「大衆娯楽小説じゃあるまいし。無い無い」
俺は手をパタパタ振ってそれを否定し、ハンバーガーにかぶりついた。
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