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 農業ギルドで、スリングショットを修理に出して、そういえば近くに書店があったと思い出す。
 そこで何冊か買い込んで、リアさんと一緒に帰路についた。

 「そういえば、シン君って本読むの好きだよねぇ」

 「暇つぶしにはちょうどいいんですよ。
 話したことありませんでしたっけ?
 今まで組んだパーティだと、まぁ農民ってのを理由に荷物番させられることが多かったんですよ。
 その間、暇で暇で。
 それで母に送り付けられた小説を読み始めたのが最初でしたねぇ」

 まあ、農業ギルドからの採取依頼や、転移魔法を使って討伐依頼なんかをこなしたりもしてたから、潰そうと思えばいくらでも暇は潰せたけど。

 「それで、お金に余裕がある時とかたまに買って読んでます」

 「おもしろい?」

 「まぁ、おもしろいですね」

 「そういえば、素朴な疑問なんだけど。
 ほら、さっき武器を修理に出してたでしょ?
 なんで農業ギルド?
 武器屋とかそれこそ冒険者ギルドで修理に出すイメージなんだけど。
 実際私も現役時代はそうしてたし」

 「あぁ、それは」

 俺は説明した。
 あのスリングショットは、狩猟用の道具として農業ギルドから買ったこと。
 だから、農業ギルドで直してもらうのだということ。
 たしかに武器屋や冒険者ギルドでも修理はできる。
 そもそも、あれが壊れたのは色んな事情が重なって農業ギルドで修理に出すことができなくて、やむなく冒険者ギルドで修理に出してもらったら、見た目こそ直ったものの、付与してた魔法が消されているわ、耐久性もガタ落ちしてるわという、嫌がらせを受けたからだ。
 念の為に試し打ちしたら、持ち手がポキッと逝ってしまったのだ。

 「なんと言うか、それは」

 リアさんが言葉に困っている。
 無理もない。

 「だから、受ける依頼以外、俺は冒険者ギルドのことを信じてません。
 報酬だって、ただでさえ安いのを受付の人があれこれ理由をつけてピンハネして懐に入れてましたし」

 まぁ、それは前に利用していた冒険者ギルドでの話だ。
 今利用している冒険者ギルドはそういうことが無いからマシだ。
 でも、他のところがそうだったので、もう何も冒険者ギルドに対して期待も何も持っていない。

 「そこまでされたら、普通、嫌になるもんじゃないの?
 こう言っちゃなんだけど、よく続けてられるね」

 「我ながらマゾだなぁって思ってますよ。
 でも、そうですね。
 やっぱりなんだかんだ、俺はこの仕事に憧れを持ってて、好きなことをしてるって割合の方が大きかったんでしょうね。
 だから、正直辛いことの方が多かったですけど、それでも仕事を続けてこられたんだと思います」

 あと、モラハラパワハラはクソ親父で慣れていたというのもある。
 お前は子供だからと、働いた分の賃金はくれない。
 他所じゃ家族の悪口を言う。
 身内か他人かの違いでしかないので、そもそものダメージが少なかったというのもあるかもしれない。
 うん、経験って大事。

 「なるほど。でもやっとその我慢が報われたんだ」

 「ええ、ランクが上がったのはいい事です。
 たまには頑張ってみるのもありですね」

 「まぁ、それだけ苦労してきたんだし、これから良いことが、きっとたくさん起こるよ」

 「だといいんですけどねぇ」

 これから起こってほしい良いことは、とりあえず元仲間連中の粘着ストーカー行為が無くなることだろうか。
 この前の偽ダンジョンのことと言い、ほんと勘弁してほしいし。
 そういえば、偽ダンジョンのことを冒険者ギルドに報告したら、そもそもダンジョン出現は、とある貴族から報告されたということだった。
 あの辺の土地を所有する貴族から報告が出され、もし回すなら俺にその依頼を回すようにと言われてたらしい。
 はい、黒確定!
 そこからは、農業ギルドのギルドマスターに相談してその貴族が誰なのかを調べてもらったら、あのごっこ遊び農園をしていた貴族の一人だとわかった。

 俺の予想がほぼ当たっていたというのも、それで知った。

 ほんと、なんとかしなきゃなぁ。
 と、リアさんと笑い話にしながら、その日は終わった。
 その数日後、そのリアさんが件の貴族と、元仲間連中の結託により誘拐されるなんてことが起こらなければ、なあなあで終わっていただろうに。
 しかも、元仲間連中が彼女が誘拐されたのは俺のせいだと下宿の人達に言いふらすなんて愚行をおかした時点でお察しである。 
 おおかた、下宿連中に石を投げられ追い出された俺を拾ってやるつもりだったんだろう。
 そういう話、母の所有してた小説で読んだことあるし。
 ただ、ガバガバ過ぎて、苦笑も出てこなかった。

 「今日の夕飯カレーの予定らしいから、夕方、ご飯の準備が間に合うようにリアさん迎えに行ってね」

 とは、元仲間連中の言葉を聞いた下宿仲間の一人が、出勤前に俺に言った言葉だった。
 心配してない訳じゃないだろうが、リアさんがただの賄いさんって訳では無いことを彼ら彼女らはよく知っているのだ。
 なにせ、彼女もここの仕事につくまでは冒険者をしていたらしいのだから。

 どうでもいいが、緊急事態だったので朝食は俺が作った。
 余り物全部ぶち込んだ雑炊だったけど、とりあえず下宿仲間達の登校と出勤に間に合って良かった。

 むしろ、下宿人達の俺へ対する態度が微塵も変わらないことに、面食らっていた。
 過ごしてきた時間なら、下宿仲間の方がお前らよりも長いんだよ。
 思い知ったか、バーカ。
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