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「ん? アレはなんだ?
小屋、にしては小さいが?」
お昼になったので、一旦作業を中断しておじさん達の家で昼食となったのだが、転移魔法で転移する直前、エリィさんが畑の隅にあったそれに気づいた。
それは、小人の家と言われれば信じてしまいそうなのほど小さく、ちょっと不格好な家だった。
出入口に扉は無い。
「……おばさん、趣味は相変わらずですか」
エリィさんの言葉を受けて、俺はおばさんを見た。
おばさんが照れたように頷く。
「そうなのよー、ここに住み着いた子達がまた仔猫を産んだもんだから、ついつい猫ちゃんハウスをね、作っちゃったの」
おばさんが言うと同時に、母屋へ転移する。
「猫を飼っているんですか?」
エリィさんがおばさんに尋ねる。
「うーん、飼ってるとはちょっと違うのよ。
畑に居着いたまま、どこにも行かなくてねぇ、あの子たち。
情がわいちゃってねぇ」
とりあえず、雨風を凌げる、お手製の猫ちゃんハウスを作るのは、おばさんの趣味だ。
餌もやっているし、病気になれば獣医さんにもみせている。
それを飼ってると世間一般では言うのだが、おばさんの中では違うらしい。
さて、汚れを落とし、家の中へ入る。
すると玄関には、この村からは少し離れた場所にある町。
その町の中のとある飲食店から届けられた料理の数々が木箱に入って置いてあった。
「シンちゃん、運ぶの手伝ってね」
「はい。場所は、客間でいいですか?」
「えぇ、そっちにお願い」
料理はきちんと皿に盛られ、まるでお店で食べるのと変わらない見栄えだ。
それはこの辺では、田植えの時等では当たり前の光景なのだが、エリィさんとテトさんには新鮮に映ったらしい。
「お弁当とかじゃないんだね」
テトさんが俺に聞いてきた。
「今はそれもありますけど、まぁ労いと午後も頑張ってねという意味と、あとおもてなしも兼ねてるんですよ。
田植えや稲刈りで親戚呼んで総出で仕事する時は、ウチも同じようにご馳走をこの形でデリバリーしてもらいます」
「いや、しかし、少し豪勢過ぎじゃないか?」
エリィさんが恐縮している。
「こっちじゃ普通ですよ。
二人は座っててください。いま麦酒持ってくるんで」
「昼間から飲むのか?!」
エリィさんが驚く。
テトさんも目を丸くしている。
「???
そうですけど、それが??」
「え? いやだって昼間だぞ?」
「はい、そうですね。でも夕方には俺たち帰るし、夕食は下宿の料理があるじゃないですか」
「いや、だから昼間だぞ?」
「分かってますよ?」
どうにも話が噛み合っていない。
うーん???
あ、そうか。
「他の田舎はわかりませんが、こっちの田舎はこれが普通なんですよ。
滅多に食べられないご馳走が、この1番忙しい時に俺たちでも食べられるんです。
でも、たしかにエリィさんお酒は飲まない方がいいかもしれませんね。
テトさんは、どうします??」
「ありがたく頂くよ。せっかくだしね。
これはこれで貴重な体験だから」
テトさんがそう言い、
「い、いや私だって飲めるぞ!!」
エリィさんが叫んだ。
うん、エリィさんには二杯までだな。
おじさんにも言っておこう。
そうして、五人で食事をし、おじさんとテトさんエリィさんが昼寝休憩をしているうちに、俺はおばさんと一緒に空いた皿の片付けを済ませる。
その時に、
「あの女の人はシンちゃんの彼女じゃないの?」
なんて下世話な話題を振られる。
「アハハ、言ったじゃないですか。同じ冒険者の仕事仲間ですよ」
「でもそろそろ身を固めないと、お母さん達やきもきしてるんじゃない?
おばさんがいい子紹介してあげようか?」
「うーん、今は要らないです。
おばさんも身に覚えがあるとは思いますが、ちゃんと稼ぎがある人間じゃないと、女の子は男を好きになってくれないでしょ?」
「ま、言うようになっちゃって」
「もう成人しましたからね」
そうして片付けを済ませると、少しだけお茶を飲んで休憩する。
つかの間の休憩の後、仕事を再開。
とくにモンスターの襲撃も無く、無事にその日の作業を終えることが出来た。
エリィさんを伴って三人で下宿に帰ると、事前に事情を話していた事もあり、リアさんがエリィさんの分もちゃんと食事を用意してくれていた。
食堂にてそれを食べながら、今日一日のことについてエリィさんとテトさんが楽しげに話している。
やはり、こういう職場体験は、それを知らない人達にとっては楽しいもののようだ。
最後、二人と別れるときに俺は念の為に忠告しておいた。
「明日は筋肉痛に気をつけてくださいね」
特にテトさんなんてデスクワークだ。
普段使っていない筋肉を使っているので、動けなくなる可能性が高い。
二人は俺の忠告を話半分に受け取った。
その結果、歴戦の戦士であり冒険者であるエリィさんは、翌日痛みで呻く事になり、テトさんも同様だった。
「だから言ったのに」
野良仕事は、使う筋肉が違うのだ。
あと二人とも、首と腰、それと腕に痛みが来たらしい。
仕方ないので、俺が野良仕事の後にケア目的で飲んでいるポーションを渡すことになった。
小屋、にしては小さいが?」
お昼になったので、一旦作業を中断しておじさん達の家で昼食となったのだが、転移魔法で転移する直前、エリィさんが畑の隅にあったそれに気づいた。
それは、小人の家と言われれば信じてしまいそうなのほど小さく、ちょっと不格好な家だった。
出入口に扉は無い。
「……おばさん、趣味は相変わらずですか」
エリィさんの言葉を受けて、俺はおばさんを見た。
おばさんが照れたように頷く。
「そうなのよー、ここに住み着いた子達がまた仔猫を産んだもんだから、ついつい猫ちゃんハウスをね、作っちゃったの」
おばさんが言うと同時に、母屋へ転移する。
「猫を飼っているんですか?」
エリィさんがおばさんに尋ねる。
「うーん、飼ってるとはちょっと違うのよ。
畑に居着いたまま、どこにも行かなくてねぇ、あの子たち。
情がわいちゃってねぇ」
とりあえず、雨風を凌げる、お手製の猫ちゃんハウスを作るのは、おばさんの趣味だ。
餌もやっているし、病気になれば獣医さんにもみせている。
それを飼ってると世間一般では言うのだが、おばさんの中では違うらしい。
さて、汚れを落とし、家の中へ入る。
すると玄関には、この村からは少し離れた場所にある町。
その町の中のとある飲食店から届けられた料理の数々が木箱に入って置いてあった。
「シンちゃん、運ぶの手伝ってね」
「はい。場所は、客間でいいですか?」
「えぇ、そっちにお願い」
料理はきちんと皿に盛られ、まるでお店で食べるのと変わらない見栄えだ。
それはこの辺では、田植えの時等では当たり前の光景なのだが、エリィさんとテトさんには新鮮に映ったらしい。
「お弁当とかじゃないんだね」
テトさんが俺に聞いてきた。
「今はそれもありますけど、まぁ労いと午後も頑張ってねという意味と、あとおもてなしも兼ねてるんですよ。
田植えや稲刈りで親戚呼んで総出で仕事する時は、ウチも同じようにご馳走をこの形でデリバリーしてもらいます」
「いや、しかし、少し豪勢過ぎじゃないか?」
エリィさんが恐縮している。
「こっちじゃ普通ですよ。
二人は座っててください。いま麦酒持ってくるんで」
「昼間から飲むのか?!」
エリィさんが驚く。
テトさんも目を丸くしている。
「???
そうですけど、それが??」
「え? いやだって昼間だぞ?」
「はい、そうですね。でも夕方には俺たち帰るし、夕食は下宿の料理があるじゃないですか」
「いや、だから昼間だぞ?」
「分かってますよ?」
どうにも話が噛み合っていない。
うーん???
あ、そうか。
「他の田舎はわかりませんが、こっちの田舎はこれが普通なんですよ。
滅多に食べられないご馳走が、この1番忙しい時に俺たちでも食べられるんです。
でも、たしかにエリィさんお酒は飲まない方がいいかもしれませんね。
テトさんは、どうします??」
「ありがたく頂くよ。せっかくだしね。
これはこれで貴重な体験だから」
テトさんがそう言い、
「い、いや私だって飲めるぞ!!」
エリィさんが叫んだ。
うん、エリィさんには二杯までだな。
おじさんにも言っておこう。
そうして、五人で食事をし、おじさんとテトさんエリィさんが昼寝休憩をしているうちに、俺はおばさんと一緒に空いた皿の片付けを済ませる。
その時に、
「あの女の人はシンちゃんの彼女じゃないの?」
なんて下世話な話題を振られる。
「アハハ、言ったじゃないですか。同じ冒険者の仕事仲間ですよ」
「でもそろそろ身を固めないと、お母さん達やきもきしてるんじゃない?
おばさんがいい子紹介してあげようか?」
「うーん、今は要らないです。
おばさんも身に覚えがあるとは思いますが、ちゃんと稼ぎがある人間じゃないと、女の子は男を好きになってくれないでしょ?」
「ま、言うようになっちゃって」
「もう成人しましたからね」
そうして片付けを済ませると、少しだけお茶を飲んで休憩する。
つかの間の休憩の後、仕事を再開。
とくにモンスターの襲撃も無く、無事にその日の作業を終えることが出来た。
エリィさんを伴って三人で下宿に帰ると、事前に事情を話していた事もあり、リアさんがエリィさんの分もちゃんと食事を用意してくれていた。
食堂にてそれを食べながら、今日一日のことについてエリィさんとテトさんが楽しげに話している。
やはり、こういう職場体験は、それを知らない人達にとっては楽しいもののようだ。
最後、二人と別れるときに俺は念の為に忠告しておいた。
「明日は筋肉痛に気をつけてくださいね」
特にテトさんなんてデスクワークだ。
普段使っていない筋肉を使っているので、動けなくなる可能性が高い。
二人は俺の忠告を話半分に受け取った。
その結果、歴戦の戦士であり冒険者であるエリィさんは、翌日痛みで呻く事になり、テトさんも同様だった。
「だから言ったのに」
野良仕事は、使う筋肉が違うのだ。
あと二人とも、首と腰、それと腕に痛みが来たらしい。
仕方ないので、俺が野良仕事の後にケア目的で飲んでいるポーションを渡すことになった。
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