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 回復魔法かけてもらったから、油断してた。
 全回復したわけじゃないので、俺は盛大に粗相をしてしまった。
 情報酔いと、疲れていたところに【身体強化】使って無理やり調べ物したから、盛大に目を回したのが原因だった。
 つまるところ、盛大に吐いてしまった。

「わりぃ」

 俺は、ギルドマスターに貸してもらった職員用のシャツに着替えながら、謝った。
 謝った相手はビクターだ。
 ビクターも、職員用のシャツを貸してもらいそれを着ている。

「ほんとなんなんだよ、お前は!?」

 キレるのはよくわかる。
 ほんと、ゴメン。
 実はまだちょっと気持ち悪い。

「いやぁ、君もちゃんと人間だったみたいで安心しましたよ」

 なんて言ったのは、ラインハルトだ。
 人がゲロ吐いてるの見て安心するとか、変態か、変態なのか、こいつ。

「あ、あの、本当に大丈夫なんですか?
 我慢してません??」

 そう聞いてきたのはエールだ。

「してないしてない」

 俺は手をパタパタ振って答える。

「つーか、お前らも悪かったなぁ。
 わざわざ捜すとか手間取らせて」

 なんて言った時だ、バタバタと慌ただしい足音が聞こえたかと思ったら、部屋の扉がばぁんっと開いて、ミーアが現れた。

「おい! ウィンの奴が死んだってほんとか?!」

 ミーアがそんなことを言ってきたので、俺はそちらにも手を振って、

「生きてる、生きてますよー、この通りピンピンしてますよー」

 と、アピールした。
 情報の錯綜が酷いな。
 ミーアが目をぱちくりする。

「驚かせるな!」

「いや、驚いたのはこっちだって!
 生きてるのに死んだことにされちゃ、たまったもんじゃねーぞ」

 調べたら寝るつもりだったんだけどなぁ。
 事情を説明しろ、と言われてしまった。
 話すまで、帰るつもりはなかったように見えたので、簡単に説明した。

 なんで一人で街中にいたのか、という点に関しては、

「調べ物があったんだよ」

 とだけ話しておく。
 さすがに、他のクランの人間に話していい内容には思えなかったのだ。
 ちなみに、ギルドマスターは全て知っている。

「それは、本当です」

 そう言ったのはエールだった。
 ラインハルトが顎に手を当てて、考えつつ、訊ねてきた。

「それは、今回の魔族襲撃と関係があることですか?」

「まぁ、無関係ではないな。
 でも、向こうの目的はヴァルデアの仇討ちだった。
 調べていたから襲ってきた、ってわけじゃなく、ヴァルデアを倒したから襲ってきたわけだ」

「……その調べ物の延長が、この大量の記録ということでいいですか?」

「お前、そこは見ないふりしてくれよ。
 つーか、これは【神龍の巣シェンロン】の問題だからさー」

 言いつつ、俺はエールを見た。
 エールも、俺を見ている。
 話すべきかどうか、迷っているように見えた。

「おいっ、人にゲロぶちまけておいて無関係とか言う気か??」

 そう言ってきたのは、ビクターだった。
 クラン壊滅後、こいつはこいつで色々大変だと聞いていたのだが、思いのほか元気そうだ。

「ゲロ吐いたのは、ほんと悪かったと思ってる。
 でもなぁ、話すと巻き込むことになるからなぁ。
 なぁ、エール、どうする?」

 これは、少なくともエールの問題だった。
 だから、エールに聞いてみた。
 ビクター、ラインハルト、ミーアの視線がエールに集まる。

「……そう、ですね。
 これ以上のご迷惑は、掛けられません。
 ウィンさんも、巻き込んでしまったのは事実ですし」

「あ、俺のことは気にしなくていいから。
 強いヤツと戦えて、むしろエールには感謝してるくらいだからさ」

 軽く、そして笑顔で言ったら苦笑された。
 すると、ビクターが口を開いた。

「そんなこと言ったら、そもそもこいつが襲われたのは、俺たち【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】を助けに来たのが大元の原因だろ。
 あそこでヴァルデアを倒さなかったら、こんなことにはならなかった」

 その言葉に、一番驚いているのはラインハルトとミーアだった。

「あの時の借りを返してやるから、何に巻き込まれてるか言ってみろ」

「まぁ、こちらは約立たずではありましたけど、一緒にダンジョン攻略した仲ですしね。
 お陰で、こちらも生きて戻ってこれましたし」

 続いたラインハルトの言葉に、ミーアもうんうん頷いている。
 エールが俺を見た。

「これは、エールの問題だ。
 だから、エールが決めろ」

 俺の言葉に、エールは頷いた。
 そして、三人へ何を調べていたのか説明した。
 説明するにあたって、あのスライム討伐のときのことも話した。
 三人とも、先代【神龍の巣シェンロン】の総長、クィンズとは顔を合わせたことがあるし、なんなら言葉を交わしたことがあるのだ。
 だからこそ、とても驚いていた。
 俺は、魔物の凶暴化の部分について補足する程度の口を挟んだ。
 そして、話を聞き終えるとラインハルトがもう一度、記録を見た。

「なるほど、当時の事を調べていたのはそれが理由だったと」

「しかし、信じられないな。
 死んだ人間が実は生きていて、魔族側についたなんて」

 ミーアがそんなことを口にした。

「正直、私自身も自分の目が信じられないんです。
 でも、アレはたしかにお兄ちゃんでした。
 私には、そう見えました」

 シーンと静まり返る。
 んー、ここまで話したんだし、言うか。

「まぁ、ぶっちゃけるとその遭遇した人物がエールの兄だってのはほぼ確定したんだわ」

 俺の投げた言葉に、その場の全員の視線が集まった。
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