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スライム退治に来て、死者と出会う 前編

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 畑に案内された。
 事前に説明された通り、そこは荒らされていた。
 あちこちに、食い荒らされた作物の残骸が散らばり、なんなら土も掘り返されている。

「……こりゃ酷い」

 思わず、呟いた。
 それくらいに酷い惨状だった。
 しかし、スライムの姿はない。

「人が襲われたのは、ここですか?」

 案内してくれた村長に訊ねる。

「あっちの方です」

 村長はそちらを指さす。
 しかし、動こうとはしなかった。
 怖いのだろう。
 カタカタと体が震えている。

「わかりました。
 ちょっと調べてみます。
 案内はここまででいいですよ」

 そう言って、俺は村長を家へと帰した。
 村長が指さした先へ、歩を進める。
 それは、畑の端っこだった。
 本来なら害獣避けでもある柵が壊されていた。

「…………」

 その壊された柵を見る。
 スライムや害獣が突進して壊した、というよりも、コレは……。
 俺は壊された柵に触れる。

「焦げてる」

 スライムが火の魔法を使ったのだろうか?
 そういう個体がスライムの中にいる、とは聞いたことがないけど。
 ここに来る前に、簡単にこの村周辺の魔物の分布も調べてみた。
 けれど、火の魔法を使える魔物がいる、という情報は無かった。
 この村はスライムの被害が出る度に、冒険者ギルドに依頼を出している言わば常連だった。
 だから、周辺の魔物の情報に関してはこまめに更新されていた。
 火魔法を操ることが出来る、新しい個体が出てきたということだろうか。

 続いて畑を見て、周囲を確認する。
 やはり、スライムの姿は無かった。
 今朝も被害者が出たということだった。
 ひょっとして、朝だけ出るのだろうか?
 疑問に思っていると、壊されていた柵の先。
 森の中から、落ちた枝や生えている草を踏み潰し、さらには木々が折れていくような音が聞こえてきた。
 音はこちらに向かっているようだ。

 柵を越えて、俺はその先を見据える。
 やがて、それは現れた。
 木々を踏み倒し、飲み込みつつ現れたのは、巨大なスライムだった。
 俺は、布で包み、肩に掛けていた相棒を取り出す。
 すらり、と鞘から相棒を抜いて、構えた。

 それは、ここらではあまり見ない武器――刀だ。

 スライムが止まる。
 そして、いきなりスライムは跳んだ。
 俺を押しつぶす気かな。
 なにしろ俺の真上に落ちてきたのだ。
 俺は刀を一閃させて、そのスライムを斬った。
 スライムは空中で、真っ二つに切り裂かれる。
 そして、ベタベタとした雨になって降り注いだ。
 ベタベタになるのは嫌なので、すぐにそこから離れる。
 しかし、少しだけ手についてしまった。
 すぐに、服で拭う。

「……デカいけど、普通だな」

 魔法も使っていなかった。
 一応、今回受けた依頼は討伐数も決められている。
 今回の討伐予定数は、五十匹だ。
 大きくても小さくてもまだ、一匹だ。
 先は長そうだ。

「待つか、探すか……っ痛てぇ?!」

 ふと見ると、先程スライムの死骸の一部が付いた場所が焼けただれていた。
 拭ったところも焼けている。

「妙な個体が出てきてるんだな」

 本来、スライムの粘液や死骸には、焼けただれさせるような効果はなかったはずが。
 むしろ、王都では逆にその成分が美容にいい、と分かってきていて、密かなブームになりつつあるとも聞いた。
 凶暴化と関係あるかはわからない。
 けれど、少なくとも容易に触れられない個体がいるのは確かだった。
 とりあえず、薬と包帯っと。
 俺は手早く、その傷の処置をする。

「あれま、殺されちゃってる」

 処置を終えたところで、そんな声がかかった。
 見ると、青年が立っていた。
 二十歳くらいの、エールと同じ銀色の髪と赤い瞳をした青年だった。
 色合いが似てるからか、なんとなく顔立ちもエールに似ている気がした。
 青年が俺を見て、口を開いた。

「……村人、じゃねーな。
 大方スライム退治を依頼された冒険者ってとこか」

 なにやら勝手に推測して納得している。

「でも、運が無いなぁお前」

 なんて言って、魔族がパチンと指を鳴らした。
 それだけで、大量のスライムが出現した。

「俺を見たからには、生きて返せねぇんだわ」

 俺は刀を構え直して、問いかける。

「何者だ、あんた??」

 明らかにその辺の村人でないことはわかった。
 そして、言動からこのスライム騒動に、この青年が関わっていることも察せられた。
 捕まえた方が良さそうだな。
 青年は、俺の質問には答えなかった。
 もう一度、指を鳴らそうとした。
 瞬間、怪我人の処置が終わったのか、エールが駆けつけてきた。
 そして、青年を見るや叫んだ。

「お、お兄ちゃん?!」
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