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門前払いした所なんて、こっちから願い下げだド畜生め 後編

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 冒険者ギルドに入って驚いた。
 まるで嵐が過ぎ去ったかのように、荒れていたからだ。
 このギルドを頻繁に利用している常連冒険者と、受付さん、そして他ならないギルドマスターが協力して後片付けをしていた。
 なにしろ、併設されている酒場の卓や椅子までがひっくり返ったり、バキバキに壊されていたのだ。
 片付けを手伝っている常連冒険者の中には、顔を赤く腫らしていたり、また青あざが出来ている者もいた。
 掃き掃除をしていた受付さんが、俺たちに気づく。

「あーー!!やっと来たーー!!!!
 ギルドマスター!!
 ウィン君とエールちゃん来ましたよー!!」

 受付さんの言葉に、ギルドマスターもこちらを見てズンズンと近づいてきた。
 俺とエールは愛想笑いを浮かべて会釈する。
 そして、

「なんか、凄いことになってますね」

 そう言った。
 その言葉に、ギルドマスターはそれはそれは大きな息を吐き出したのだった。

「大体の事情は察してます。
 表で戦闘系クランの総長達が戦ってましたから」

 ギルドマスターは、疲れきった声でそんなことを呟いた。

「……お前、朝ここに来なくて正解だったぞ」

 だろうなぁ。
 本当は玄関先まで来てたなんて言えない。

「ですね。
 先に銀行行って正解でした。
 あ、口座と通帳作ってきたんで、預けておいた報酬の手続きお願いします」

 俺が言うと、受付さんが掃除の手を一旦止めて受付カウンターへと移動する。
 俺とエールもそちらに向かう。

「もう、本当に大変だったんですよ!!」

 受付さんが、愚痴りだした。
 とんだ災難だったのはわかる。

「二人同時にギルドに来たかと思ったら、二人してウィン君を出せーって。
 で、話を聞いたらどちらもウィン君の勧誘に来たらしくて」

 うん、勧誘のことは知ってる。

「暫くは、大人しかったんですけど。
 最初はただの口論だったんだけど。
 気づいたら殴り合いの喧嘩になってて。
 騒ぎを聞きつけた、それぞれのクランの構成員も集まってきて、ほんっっっっっとに、疲れました」

 ガチで疲れたのだろう。
 最後の言葉に実感が篭もりすぎている。
 ……喧嘩するほど仲が良いっていうし、行動も似てるならもしかしたらあの総長同士は意外と気が合うのかもしれない。

「お疲れ様です」

 受付さんが、サインが必要な書類を出してくる。
 それにサインしていると、ギルドマスターが聞いてきた。

「それで、どっちのクランに入るんだ?」

「いや、入らないですよ。
 俺、その二つのクランに入会しようとしたんですけど、どっちにも門前払いくらったんで。
 そんなところに入るのはゴメンです。
 まぁ、俺に勝てたら考えなくもないですけど」

 横でエールが、またニコニコした。
 その時だった。

「聞き捨てなりませんね」

「んだこらぁ!?その言い分はぁぁあ!!??」

 冒険者ギルドの出入口から、そんな声が届く。
 見れば相打ちになったはずの総長二人が立っていた。
 もう復活したのか、凄いな。
 比較的丁寧な言葉遣いをしてるイケメンが、白くて金髪だから【白薔薇騎士団ナイツ・ローズ】の総長のラインハルトだな。
 そして、その逆に言葉遣いが荒い方が、黒くてツンツン髪だから【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】の総長、ビクターだな。
 殺気を向けられる。
 その殺気に当てられて、エールがペタンと座り込んでしまった。

「……それじゃ、報酬の振込よろしくおねがいします」

 総長二人のことは無視して、俺は手短に受付さんに言うとエールへ手を差し出す。

「立てる??」

「あ、はい」

 エールが恐る恐る俺を見た。
 そんなエールを立たせて、壊れていない椅子に座らせる。
 しかし、それが癪に触ったのかビクターがこちらに近づいてきた。
 そして、

「無視すんじゃねーよ」

 そんな言葉とともに拳が飛んできた。
 少し遅れて蹴りも入る。
 俺は拳と蹴りを両方受け止めた。

「!!?」

 ビクターの顔が驚きに変わる。

「おや」

 それを見ていたラインハルトも、興味深そうな表情になる。

「建物の中で喧嘩なんて、ほかの人に迷惑になるってわかりませんか?
 それと、俺の事を勧誘に来たってことですけど、お断りします。
 俺、根に持つタイプなんで。
 門前払いくらったところになんて、絶対入りません。
 どうしてもって言うなら、俺に勝ってから言ってください」

 なんて言ったら、ビクターのコメカミに青筋が浮かんだ。
 喧嘩を売られているのだから、買ってやる。
 午前中休めたし、丁度いい運動になるだろ。

「こんの、や……」

 ビクターが殴りかかってきたので、先日のスケイルの総長と同じように蹴飛ばしてやった。
 そのまま出入口へと吹っ飛び、ビクターは表に転がった。

「さて、ラインハルトさん、でしたか?
 貴方も一戦やります??」

 ラインハルトは、しかし考える頭はあるようで肩を竦め、苦笑を浮かべると、

「いや、止めておきます。
 あのビクターが攻撃を防げず吹っ飛ばされた。
 それは貴方の方が強い証拠だ。
 今は、私もビクターも消耗しているし。
 そう言った意味でも分が悪い。
 だから、この件は持ち越しさせてもらいましょう」

 そして、エールを見たかと思うと、

「君はクィンズさんの妹さんだったね。
 殺気をあてるつもりは無かったんだ。
 許してほしい」

 なんて言ってきた。
 そして、そのまま冒険者ギルドを出ていったのだった。
 それを見送って冒険者ギルドの片付けを手伝う。
 少しして、諦めきれなかったのかビクターがやってきたが、今度は拳骨で黙らせた。

「ラインハルトは帰ったし、ここをこんなにしたのはお前にも責任あるんだから片付けろ」

 と言ったら、また反抗してきたのでさらに拳骨をくらわせた。

「ちくしょう、あの野郎、逃げやがったな!!」

 ビクターはそんな恨み節を愚痴愚痴言っていたが、無視した。
 帰ったら、今日はすぐに寝よ。
 半休だと疲れ取れないや。
 
 余談だが、俺の冒険者ランクはSランクになっていた。
 異例の昇級だけど、盗賊団退治はそれに値すると評価されたらしい。
 首領と幹部を無力化し、生け捕りにした事も大きかったとか。
 母さん、教わった技術で昇級できたよありがとう。
 今度帰ったら焼肉奢るよ。
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