上 下
8 / 40

とにかく宣伝も忘れない

しおりを挟む
明けて、さらに翌日。
洗面台で歯を磨く。
鏡にはボサボサ頭のチビが映っている。
俺だ。
ぼうっと歯を磨いていると、昨日の盗賊団の件が思い起こされた。
あの後、事務手続きやら諸々があって疲れた。
というか、こんなに連日体を動かしたのも久しぶりなので、疲れが取れない。
今日くらい、一日寝ていたい。
朝のミーティングの時にでもエールに言おう。
なんて考えつつ、歯を磨いていたら、そのエールが洗面所へ駆け込んできた。

「ウィンさん!ウィンさん!!
見てください、これ!!」

いまだ眠気眼な俺に、エールはずいっと手にしていた新聞を見せつけてきた。
そこにはとても大きな記事で、昨日の盗賊団退治のことが載っていた。
俺の事も書かれている。

「記事になったんですよ!
すごいですよね?!」

「うーん、すごいけど。
これじゃ、駄目だな」

「……ダメ?」

「クランとして、名前が出てない。
上げたいのは俺の名前じゃなくて、このクランの名前だから」

「で、でもでも!
一歩前進ですよ!」

「ま、たしかにそうなんだけど」

あくまで俺個人として依頼を受けたのが原因だろう。
どうせなら、盗賊団の首領にクラン名を名乗っておけば良かった。

「嬉しくないんですか??
新聞に出たのに」

「いや、さすがに連日動いて疲れたから、反応鈍いんさ」

「あー、だからそんなにテンションが低いんですね」

「そーそー、だから今日は冒険者稼業は休みたい」

まぁ、まともに働いたの昨日が初めてだったけど。
思いもよらぬところで臨時収入があったので、今日くらい休んでも大丈夫だ。
ちなみに、臨時収入の内容は盗賊退治した謝礼である。

「でも、銀行口座作りに行くって言ってませんでしたっけ?」

あ、そういやそうだった。
さすがに金貨千枚を持ち帰ることは出来なかったので、一時的に冒険者ギルドに預かってもらってるんだった。
あと、冒険者ギルドだと銀行の出張所こそあるものの口座開設に時間が掛かるらしい。
本店に言って手続きしてもらった方が早い、と出張所の人に教えてもらったのだ。

「あー、すっかり忘れてた。
でも、めんどい。
また今度にしよう」

「あ、それ、ズルズルとずっとやらないやつですよ!」

「バレたか」

疲れていると、何もかもがめんどくさくなるのだ。


身支度を整えて、朝のミーティングを始める。
昨日の活動内容とか、そういうのを改めて確認して記録をつけた。
そして、これからはクランとして依頼を受けることになった。
個人として受けるのとなにが違うのか、というと、クランとして受ければ後はその依頼内容にあったランクの所属冒険者へ仕事を割り振れるというだけらしい。
あと、個人ではなくクランとしての知名度が上がりやすくなるとか。

「あ、そういえばウィンさんの冒険者ランクが上がりますよ!」

「そうなの?」

「昨日の手続きの時に受付さんが言ってたじゃないですか!」

「そうだっけ?」

書類のチェックとサインだけなのに、疲れからくる眠気もあって完全に聴き逃していた。

「そうなんです!」

「で、どのランクになるの?
一気に上がってCランクとか?」

俺が聞いた時だった。
玄関の呼び鈴が鳴った。

「誰でしょう?」

とくに、この時間に来客の予定がなかったからか、エールがクビを傾げて玄関に向かう。
ミーティングをしていたのはキッチンだ。
玄関から近い場所だったこともあって、訪問者とエールがなにやら話すのが聞こえてくる。
そして、程なくしてエールは俺を呼んだ。

「ウィンさん、お客さんですよ!」

玄関に向かう。
すると、そこには昨日冒険者と一緒にボコボコにされ、それでも運良く生き残った、あの男の子がいた。
その横には、老婆。
どうやら男の子の祖母らしい。
二人は、改めてお礼に来たらしい。

「怪我を治したのは、エールですよ」

頭を下げる老婆へ、俺は言った。
老婆は、村のことも含めて礼を言いに来たらしい。
律儀だなぁ。
そして、せめて受け取ってくれと野菜を一輪車に乗せて持ってきた。
……待て待て待て、これ持ってこの婆さん村から歩いてきたんか?!
馬車つかうならまだしも、徒歩だと深夜に出てきたことになる。

「なんでしたらお茶でも飲んで休んでいってください。
帰りも送りますよ」

なんて提案してみる。
ギルドマスターに頼んで、荷馬車を貸してもらおうと思ったのだ。
しかし、他にも用事があるからと、お茶と送迎を断られてしまった。
そして、よくよく話を聞いてみたら他の村人と一緒に、馬車で街まで来たらしいことがわかった。
あ、そうだ。

「また困ったことがあったら、冒険者クラン【神龍の巣シェンロン】へ依頼してください。
かならず力になりますから」

宣伝も忘れない。
こういうことも、コツコツやっていかなきゃなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【緊急】村で人喰いモンスターが暴れてるらしい【事態】

一樹
ファンタジー
サメ映画をパク……、オマージュした異世界パニックモノです。 掲示板話です。 ジャンルにパニックが無かったので、ファンタジーにしてます。

田舎あるある~嘘のようなホントの話~

一樹
エッセイ・ノンフィクション
タイトル通りの内容です。 あと愚痴も含まれます。 どんな内容でも大丈夫、という方のみ閲覧をお願いします。 盛ってるとか、嘘でしょ、と言われそうですけど。 残念なことに令和でも残ってるんですよ、一部ですが悪習が(´;ω;`) 悪習に関しては、早く滅びてほしいです(´TωT`)

【ねwえww】転生して現在進行形で悪役令嬢シチュが展開してる件【助けてwww】

一樹
ファンタジー
悪役令嬢モノの王道シチュの中、突如前世の記憶が戻った主人公。 何故かスレ立て出来ることに気づき、スレ民に助けを求めることにした。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

島流しなう!(o´・ω-)b

一樹
ファンタジー
色々あって遭難したスレ主。 生き延びるためにスレ立てをした。 【諸注意】 話が進むと、毒虫や毒蛇を捕まえたり食べたりする場面が出てきますが、これはあくまで創作です。 絶対に真似しないでください。

七番目の魔王の息子

一樹
ファンタジー
五歳の時に要らない子だから、と親戚の家の子になったユウ。 十年後、兄達が次期魔王候補としてお互いを潰しあったがために、ユウがその候補にあがってしまう。 実家からの手紙を破り捨て、陰キャな彼は今日も妄想に浸る。 けれど、実家は何故か追い出したユウを魔王に就かせたいらしく、教育係兼許嫁(めっちゃ美少女)を送り込んできたのだった。

【採取】そして誰も居なくなりそうなやつ【依頼】

一樹
ファンタジー
ジェシーとハルは、二人っぼっちの冒険者パーティ。 それでもその実力は折り紙付きで、つい先日も高難易度のドラゴン討伐を終えたばかりだった。 そんな彼らの次の仕事は、とある【花】の採取依頼。 けれど、蓋を開けてみれば、【花】に関わった者が変死を遂げていた、所謂いわく付きの依頼だった。 ※こんなタイトルですが、掲示板回はありません。

生き残り冒険者の戯言

一樹
ファンタジー
冒険者ギルドに併設された酒場には、必ずといっていいほど酔っぱらいの中堅・常連冒険者がたむろっている。 この日、とある常連と新人冒険者が殴り合いの喧嘩になった。 その喧嘩はすぐおさまったものの、常連は酒場のアルバイトにぶちぶちと愚痴のようなものを話し始めた。

処理中です...