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表に出ろ、は喧嘩の際のお誘いの言葉でもある。

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 店内が、シンっと静まり返った。
 うぅ、視線が痛い。
 よし、ここは、アレだ!
 昔とった杵柄使っちゃおう。

「とりあえず、ここだと他の方のご迷惑になるので外に出て話しましょうか」

 直訳すると、【表に出ろ】である。
 スケイルの男たちが、にわかに殺気だった。
 そして、俺と男たちは外へと出た。
 そこには、さらに五十人ほどが集結しており、先程の大男が介抱されていた。
 大男が、俺を睨む。

「さて、言いたいことがあるでしょうが。
 俺も乗りかかった船ってやつなので、逃げるには忍びないんですよ。
 だから、どうです?
 一戦やりませんか??
 全員相手しますよ?」

 その提案に、今度は背後でエールが声をあげた。

「え、ええ?!」

 信じられない、と言いたげだ。
 いや、君が巻き込んだんでしょ。
 俺は、そのエールの叫びを無視して、大男と集結していた五十人を見る。
 相棒は、使わなくていいかな。
 そう判断して、ずっと持っていた相棒を、エールに預ける。

「ちょっと持ってて」

「は、え、ちょ?!」

 エールの困惑の声を背中で聞きつつ、俺はスケイルの集団の中へと降り立った。
 そして、本当に久々に声を張り上げた。

「おら、どうした?!
 かかって来やがれ!!」

 スケイルの集団が声をあげ、殴りかかってくる。
 それを、蹴りや拳で潰していく。
 あの大男も参戦してきた。
 そうこなくっちゃ!!
 俺は、ジャンプして大男の顔まで飛び上がる。
 大男は、俺に殴りかかってきた。
 けれど、それよりも速く、俺は空中で回し蹴りをはなった。
 男が意識を失って倒れる。
 いっちょあがりっと。
 そこからは、乱戦となったものの、すぐに方がついた。

 ぱんぱん、と手を叩いて俺は店を振り返る。
 いつの間にか、他の客たちが喧嘩を肴に酒を飲んでいた。
 客たちから歓声が上がる。
 いい見世物として、満足して貰えたようだ。
 次があったらお金とろう。

 呆然と、俺たちの喧嘩を見ていたエールのところに行く。
 すると、

「す」

「す?」

「すっっっごく、強いじゃないですか!!
 あのあの!順番が滅茶苦茶になっちゃいましたけど、是非是非【神龍の巣シェンロン】に来てください!!」

 目をキラキラさせてそう勧誘された。
 うん、ほんとに順番滅茶苦茶だよね。
 ただ、断る理由も無かった、というより渡りに船だったのも事実なので、

「俺なんかで良ければ」

 俺は、そう返事をしたのだった。


 善は急げとばかりに、その後。
 俺はエールに案内されて、【神龍の巣シェンロン】のアジトにやってきた。
 より正確に言えば、衛兵が駆けつけてくる前に逃げてきた。
 だって、昼間のこともあって時間かかりそうなんだもん。
 俺は、案内されたアジトを見た。
 月明かりでわかったのは、レンガ造りの建物だということだった。

「今は私一人なんですよ」

 そんなことをポツリと彼女は漏らした。
 アジトの客間に案内される。
 エールはお茶を出しつつ、簡単に現状を説明してくれた。

 それによると、彼女の兄が亡くなってから少しずつ人が離れて行ったのだという。
 ある者は、別のクランに移り。
 ある者は、独立して新たにクランを作ったらしい。
 彼女自身、それは納得していた。
 それぞれの人生があるのだから、無理に引き止めはしなかったのだという。
 だから、旧メンバーに戻ってきてもらおうとは考えていないのだとか。
 とにかく、この場所を維持するため彼女は日々頑張っていた。
 彼女も冒険者だった。
 昼間、あの路地に居たのは冒険者としての仕事を終えてそれを依頼主に報告に行く途中だったのだとか。
 そこを、スケイルの連中に見つかり、アジトを明け渡せと脅されたのだとか。
 しかも、これが初めてではないときている。

「私にとって、ここは兄の形見みたいなものなんです。
 だから、私が生きている間だけでも残しておきたくて」

 そう、話してくれた。

「理由はわかった。
 でも、見ず知らずの、それも他所から来た人間にいきなりヘッド、じゃなかった総長マスターをやれってのは無理があるんじゃ??」

「せっかくですから、何もかも新しく始めたかったんです」

 まぁ、そういうものなのかな??

「けれど、兄のいないこの場所は誰にも魅力的に映らなかった」

 かつての【神龍の巣シェンロン】は、この王国で知らない人はいない冒険者クランだったらしい。
 でも、彼女の兄が二年前に急逝してから一気に落ちぶれて行ったらしい。

「かつては、王国のテッペンをとったクラン、つまり王国一のクランとして有名だったんです」

 二年前、急逝したのは彼女の兄だけでは無かった。
 当時、彼女の兄を支えていた幹部たちも皆亡くなったらしい。
 なにせ冒険者だ。
 いつ死んでもおかしくはない職業だ。
 彼女の兄と、その幹部たちも例に漏れず仕事先で亡くなった。
 その時請け負っていたのは、ドラゴンの討伐だった。
 大量発生したドラゴンの討伐。
 それに失敗したらしい。
 その噂が広まって、【神龍の巣シェンロン】の名前は地に落ちた。
 それから二年。
 いまや、このクランの名前すら思い出す人はいないのだという。

「テッペン、か」

 呟いてみる。
 どん底から這い上がる。
 並大抵のことではないだろう。

「エールは、そこに行ってみたいか??」

 いつの間にか、敬語は外れていた。
 そんな俺の言葉に、エールは顔を伏せた。
 そこで、俺の脳裏に母さんの顔が浮かんだ。
 無茶無謀、問題は山積み。
 そんな時に、いつだって母さんは笑っていたじゃないか。
 父さん達だって楽しんでいたじゃないか。
 そのことを思い出す。
 不思議と、昼間のようなネガティブな感情は出てこなかった。
 そして、現状を見る。
 俺も、この冒険者クランも底辺だ、どん底だ。
 でも、だからこそ、

「目指すのは楽しそうだ」

 エールは顔をあげた。
 俺は、そんなエールを見た。

「もう一度、目指すってのはどうだ?
 俺とさ、テッペンってヤツを」

 エールは目を見開いた。
 そして、笑顔で頷いてくれた。


 ***

 そして、この日。
 王国に存在する冒険者クランに激震が走った。
 ウィンがそうと知らず、結果的に潰してしまったクラン――【龍の鱗スケイル】は、この王国内でもそれなりの強さを誇るクランだったのだ。
 端的に言えば、【神龍の巣シェンロン】が消えたあと、長いこと空白になっていたテッペンの座。
 王の座と言っても過言ではない、そこ。
 その座を争ってきたクランのひとつが消えたことを意味する。
 パワーバランスが崩れたのだ。
 二年の間に、様々なクランがテッペンを目指した。
 しかし、いまだ何処のクランも、【神龍の巣シェンロン】には及ばなかったのだ。

 そうして、いつからかテッペンを目指しているはずの冒険者クランには、停滞の空気が漂っていた。

 そこに今回の【龍の鱗スケイル】の件である。
 この冒険者クランの件は、大小様々なクランへと瞬く間に広がっていったのだった。

 それもそのはずで、なんだかんだ各冒険者クラン同士のパワーバランスを保つのに一役買っていた、戦闘系クランでもあったからだ。

 さて、噂を聞いた冒険者クラン。
 その中には他ならないウィンを門前払いしたクランが全て含まれていた。
 けれど、各クランの幹部たちはそんなことは知らなかった。
 だからこそ、ウィンの情報を集め始めた。
 戦力になるのなら、ほしい。
 それが戦闘系クラン上層部の共通の考えだ。
 この、ウィンからすれば、他愛ない喧嘩は、再びテッペンの座をかけた熾烈な争いの火蓋を切ることになったのである。
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