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後編
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目を覚ますと、アルトの視界に入ったのは清潔な真っ白の天井だった。
目だけを動かして、そこがどこなのか把握しようとする。
すると、すぐ隣から紙が擦れる、そうまるで本のページを捲るような微かな音が聞こえた。
そちらを見ると、金髪に緑色の瞳をした人形のように整った顔立ちの少女が静かに本を読んでいた。
とても分厚い本だが、タイトルからして子供向けの童話集のようだった。
そこで、少女がアルトの視線に気づいて声をかけてきた。
「起きたか。野盗か魔物か知らないが、いや刃物による傷から察するにヒトの仕業だとは思うが、とりあえず生還おめでとう」
その言葉に反射的に返そうとして、しかし声が出なかった。
いや出るには出たが、枯れていて上手く声が出せなかったのだ。
「あぁ、無理はするな。ハイなら瞬きを一回、イイエなら二回してくれ。
とりあえず、水を飲むか?」
その問いに、アルトは瞬きで答えた。ハイだった。
病人用の水差から、少女はゆっくりとアルトへ水を飲ませる。
それから、アルトへ説明を始めた。
「妾の名は、ソプラ。本名はあきれるほど長いから割愛させてもらう」
名乗った後、ソプラは瀕死のアルトを見つけて助けたこと、助けてから数日経過しておりその間ずっとアルトが眠ったままで、医者にはずっとこのままかもしれないと診断されたことを説明した。
「まぁ、元気になるまでそこで寝てることだ。遠慮はいらない。君の名は回復してから教えてもらおう。
どうせここには妾と身の回りの世話をする侍女しかいないからな」
そう言って、まるで女王のような不敵な笑みを浮かべた。
少しずつ時間が流れるにつれ、アルトは順調に回復していった。
半年もたつ頃には、歩けるにまで回復していた。
しかし。
「アルト、茶にしよう」
様々な花が咲き誇る、豪華な庭園。
その庭園をアルトは松葉杖をつき、義足に慣れようとリハビリをしていた。
かけられたソプラの声に、設置されているテーブルへ向かう。
だいぶ義足にもなれてきたので、転ぶことはなく席につく。
「今日のおかしはなんですか?」
意外と甘いものがアルトの好物なのだと知ったソプラは、彼が笑顔になるようにと毎日違う茶菓子を用意させていた。
お茶と菓子のよういだけして、侍女はさがった。
この時間は、ソプラとアルトが二人だけで過ごす時間なのだ。
「兄上からの贈り物で、チョコだ」
様々な形の高級菓子の一つであるチョコが、綺麗に皿に並べられていた。
さて、そんな茶菓子を贈ってきたソプラの父だが、なんとこの国の王である。
つまり、ソプラは王女様なのだが少々生い立ちが複雑なのだ。
彼女は王の隠し子らしい。
所謂、ご落胤というやつだ。
複雑な事情から、時期国王でもある兄に保護され、ここで暮らしているらしい。
兄妹仲は良く、どこの馬の骨ともわからないアルトを拾ったと報告したら執務を放ったらかしてやってくるぐらいには妹想いである。
アルトの意識が回復したのを聞くやすぐにきたくらいだ。
しかし、その頃はまだ声が出せなかった。
リハビリを重ね、ようやく普通に会話できるようになった時に再訪してきて事情聴取をうけた。
もちろんソプラもその場に同席していた。
事情を聞いた二人はとても同情した。
とりあえず、ちゃんと動けるようになるまでソプラが面倒を見るという方向で話がまとまっていた。
若い男と一つ屋根の下で妹が暮らすことに思うところが無かったといえば嘘になるが、彼女は保護しているとは言っても身分は一般人だ。
貴族の古い仕来たりに縛られない。
「良いですね、前にもいただきましたよね。俺大好きなんです」
そう、恋愛だって自由なのだ。
リハビリの一環で、アルトは自主的に侍女の監視のもと料理もした。
その料理によってソプラは胃袋を掴まれてしまったのだ。
そうして更に、一年、二年と時が過ぎた。
この時間はゆっくりと進んで行ったが、二人の仲が男女のそれになるのには充分であった。
ソプラの兄は国王になった。そして、ソプラを娘にして降嫁させた。
兄は彼女をちゃんとした王族として迎えた上で、結婚させた。
生まれながらにして不幸だった妹の晴れ姿を見たかったのだ。
そんな新婚生活を楽しんでいた妹へ兄はとある仕事を頼んできた。
内容をきいて見たことのない邪悪な笑みを浮かべたが、チョコとお茶を楽しんでいたアルトは気づかなかった。
翌日。王の代理として王宮の一室でソプラは護衛を従えてその冒険者パーティの相手をしていた。
凶悪なドラゴンを倒したという冒険者達は勇者としての称号が貰えるのだと、期待していた。
でなければ、降嫁したとはいえ王族が相手をすることはないだろうと。
「ところで、リーダー殿。貴殿達に称号を与えることについてだが少々調べさせてもらった。いや、これが仕来たりなのだ。
清廉潔白の者にしか称号が与えられないのだ。
調べた結果、貴殿らの元にはもう一人パーティメンバーがいたはずだな。
しかし今から二年前、遠征中に行方不明になったということだが」
ソプラの疑問に、リーダーとその仲間たち、そして鼻につくほどの悪臭(たぶん香水)を放っている少女はあらかじめ口裏あわせをしてきたのだろう。
でっちあげた作り話をしてくる。
それを聞き、大きく息を吐き出して今や夫となった男の人相描きを見せる。
「行方不明となったのは、この者か?」
パーティメンバー全員が頷いた。
おそらく嘘をついていないというパフォーマンスなのだろう。
しかし、その返答にソプラの目が怪しく光った。
そして、応接間の外に控えている兄から与えられた兵士を鈴を鳴らして呼ぶと、告げた。
「この者達は称号を与える価値はない犯罪者です。
すぐに拘束し、処分なさい」
兵士が雪崩れ込んできて、冒険者パーティを取り押さえる。
何がなんだかわからないままの彼らに、残酷な死刑宣告がくだった。
「貴殿らが殺そうとした者は生きています。我が愛する夫です。
婚姻前といえど、王族と親戚関係にある者を害したのは事実。
よって貴殿らは吊るし首と打ち首となります」
そこで事態が飲み込めたらしく、ギャーギャー騒いだが時すでに遅しであった。
「おかえりなさい、お仕事はどうでした?」
家に帰ると、侍女とアルトが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま戻った。疲れた。なので旦那様。頑張った妾を今日は目一杯甘やかしてくれ」
目だけを動かして、そこがどこなのか把握しようとする。
すると、すぐ隣から紙が擦れる、そうまるで本のページを捲るような微かな音が聞こえた。
そちらを見ると、金髪に緑色の瞳をした人形のように整った顔立ちの少女が静かに本を読んでいた。
とても分厚い本だが、タイトルからして子供向けの童話集のようだった。
そこで、少女がアルトの視線に気づいて声をかけてきた。
「起きたか。野盗か魔物か知らないが、いや刃物による傷から察するにヒトの仕業だとは思うが、とりあえず生還おめでとう」
その言葉に反射的に返そうとして、しかし声が出なかった。
いや出るには出たが、枯れていて上手く声が出せなかったのだ。
「あぁ、無理はするな。ハイなら瞬きを一回、イイエなら二回してくれ。
とりあえず、水を飲むか?」
その問いに、アルトは瞬きで答えた。ハイだった。
病人用の水差から、少女はゆっくりとアルトへ水を飲ませる。
それから、アルトへ説明を始めた。
「妾の名は、ソプラ。本名はあきれるほど長いから割愛させてもらう」
名乗った後、ソプラは瀕死のアルトを見つけて助けたこと、助けてから数日経過しておりその間ずっとアルトが眠ったままで、医者にはずっとこのままかもしれないと診断されたことを説明した。
「まぁ、元気になるまでそこで寝てることだ。遠慮はいらない。君の名は回復してから教えてもらおう。
どうせここには妾と身の回りの世話をする侍女しかいないからな」
そう言って、まるで女王のような不敵な笑みを浮かべた。
少しずつ時間が流れるにつれ、アルトは順調に回復していった。
半年もたつ頃には、歩けるにまで回復していた。
しかし。
「アルト、茶にしよう」
様々な花が咲き誇る、豪華な庭園。
その庭園をアルトは松葉杖をつき、義足に慣れようとリハビリをしていた。
かけられたソプラの声に、設置されているテーブルへ向かう。
だいぶ義足にもなれてきたので、転ぶことはなく席につく。
「今日のおかしはなんですか?」
意外と甘いものがアルトの好物なのだと知ったソプラは、彼が笑顔になるようにと毎日違う茶菓子を用意させていた。
お茶と菓子のよういだけして、侍女はさがった。
この時間は、ソプラとアルトが二人だけで過ごす時間なのだ。
「兄上からの贈り物で、チョコだ」
様々な形の高級菓子の一つであるチョコが、綺麗に皿に並べられていた。
さて、そんな茶菓子を贈ってきたソプラの父だが、なんとこの国の王である。
つまり、ソプラは王女様なのだが少々生い立ちが複雑なのだ。
彼女は王の隠し子らしい。
所謂、ご落胤というやつだ。
複雑な事情から、時期国王でもある兄に保護され、ここで暮らしているらしい。
兄妹仲は良く、どこの馬の骨ともわからないアルトを拾ったと報告したら執務を放ったらかしてやってくるぐらいには妹想いである。
アルトの意識が回復したのを聞くやすぐにきたくらいだ。
しかし、その頃はまだ声が出せなかった。
リハビリを重ね、ようやく普通に会話できるようになった時に再訪してきて事情聴取をうけた。
もちろんソプラもその場に同席していた。
事情を聞いた二人はとても同情した。
とりあえず、ちゃんと動けるようになるまでソプラが面倒を見るという方向で話がまとまっていた。
若い男と一つ屋根の下で妹が暮らすことに思うところが無かったといえば嘘になるが、彼女は保護しているとは言っても身分は一般人だ。
貴族の古い仕来たりに縛られない。
「良いですね、前にもいただきましたよね。俺大好きなんです」
そう、恋愛だって自由なのだ。
リハビリの一環で、アルトは自主的に侍女の監視のもと料理もした。
その料理によってソプラは胃袋を掴まれてしまったのだ。
そうして更に、一年、二年と時が過ぎた。
この時間はゆっくりと進んで行ったが、二人の仲が男女のそれになるのには充分であった。
ソプラの兄は国王になった。そして、ソプラを娘にして降嫁させた。
兄は彼女をちゃんとした王族として迎えた上で、結婚させた。
生まれながらにして不幸だった妹の晴れ姿を見たかったのだ。
そんな新婚生活を楽しんでいた妹へ兄はとある仕事を頼んできた。
内容をきいて見たことのない邪悪な笑みを浮かべたが、チョコとお茶を楽しんでいたアルトは気づかなかった。
翌日。王の代理として王宮の一室でソプラは護衛を従えてその冒険者パーティの相手をしていた。
凶悪なドラゴンを倒したという冒険者達は勇者としての称号が貰えるのだと、期待していた。
でなければ、降嫁したとはいえ王族が相手をすることはないだろうと。
「ところで、リーダー殿。貴殿達に称号を与えることについてだが少々調べさせてもらった。いや、これが仕来たりなのだ。
清廉潔白の者にしか称号が与えられないのだ。
調べた結果、貴殿らの元にはもう一人パーティメンバーがいたはずだな。
しかし今から二年前、遠征中に行方不明になったということだが」
ソプラの疑問に、リーダーとその仲間たち、そして鼻につくほどの悪臭(たぶん香水)を放っている少女はあらかじめ口裏あわせをしてきたのだろう。
でっちあげた作り話をしてくる。
それを聞き、大きく息を吐き出して今や夫となった男の人相描きを見せる。
「行方不明となったのは、この者か?」
パーティメンバー全員が頷いた。
おそらく嘘をついていないというパフォーマンスなのだろう。
しかし、その返答にソプラの目が怪しく光った。
そして、応接間の外に控えている兄から与えられた兵士を鈴を鳴らして呼ぶと、告げた。
「この者達は称号を与える価値はない犯罪者です。
すぐに拘束し、処分なさい」
兵士が雪崩れ込んできて、冒険者パーティを取り押さえる。
何がなんだかわからないままの彼らに、残酷な死刑宣告がくだった。
「貴殿らが殺そうとした者は生きています。我が愛する夫です。
婚姻前といえど、王族と親戚関係にある者を害したのは事実。
よって貴殿らは吊るし首と打ち首となります」
そこで事態が飲み込めたらしく、ギャーギャー騒いだが時すでに遅しであった。
「おかえりなさい、お仕事はどうでした?」
家に帰ると、侍女とアルトが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま戻った。疲れた。なので旦那様。頑張った妾を今日は目一杯甘やかしてくれ」
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