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ハジマリの話
後編
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そこからまた、言われるがまま用意された服に着替え、別の部屋に案内された。
身体検査が行われ、結果がすぐに出た。
この時、いろいろ予防注射とかもされた。
「あー、やっぱりそうだ。
お前、神様の血引いてるわ。
俺たちの世界だと天使――神族とか本来の魔族とか、そっちの血が入ってる」
結果がプリントされた綺麗な紙に視線を落としつつ、ピンクが言った。
見てみるか、と言われ紙を受け取った。
「他の世界のやつでも読めるようになってるはずだ」
しかし、ウカノには文字が読めなかった。
ウカノがいた世界でも義務教育が普及しつつあったが、父親と祖父母の無理解により学校よりも、畑仕事をしろと言われていたからだ。
これは、他の兄弟姉妹も同じだった。
そのことを説明すると、ピンクは、
「じゃぁ、覚えなきゃだなぁ」
なんて言った。
あまりにも、簡単すぎるほど簡単に言ってのける。
「どうした??」
「バカは何してもダメだから」
滑らかに、その言葉はウカノから滑りでた。
「きっと何しても無駄に終わりますよ」
それは、何度も向けられてきた言葉だ。
父親から。
祖父母から。
同じ部落の人間から。
街からきた、赤の他人から。
言葉はちくちくと、それでも確実にウカノの中から何かを削り取っていった。
「んー、どうだろうなぁ」
ピンクは、どこか楽しそうに言い返してきた。
「俺たちは、これでも子育て経験は豊富なんだぞ?」
「はぁ」
「色んな子がいた。
でも、何をしても無駄になった子はいなかったし、1人としてバカもいなかった。
あえて言うなら、得手不得手、向き不向きがあっただけだ。
お前の言うところのバカはいなかった」
「……お子さんは今何歳なんですか?」
「んー、一番上の子はお前と同い年だ。
んで、俺たちにとって記念すべき初の卒業生でもある」
「何人お子さんを作ったんですか」
農民でない限り、せいぜい五人くらいだろうとウカノは予想した。
「んー、俺が産んだのはゼロだな」
「捨て子ですか」
「それでも、俺たちの子供だ」
「で、いったい何人いるんですか?」
「たくさん。
まさに八百万ってやつだ。
でも、今はお前のことだ。
話を戻そう。
お前には、滅んだ世界を救ってもらう。
今、そのプロジェクトが進行中なんだ。
そうだな、さしずめ【救世主プロジェクト】ってところか」
そこで、さらに楽しそうにピンクは笑みを深める。
そして、続けた。
どこか芝居かかった調子で、続けた。
「お前、家族を取り戻したいだろ?」
ウカノはピンクを見る。
ピンクは続ける。
「以前の日常を取り戻したいだろ?」
ピンクが手を差し出してくる。
「この手を取れ、少年。
そしたら、お前は、お前の家族も、今までの日常も全て取り戻せる」
その何もかもが芝居がかっていた。
しかし、生憎ウカノは生まれてから部落を出たことはなく。
時折外から齎される僅かな、そう本当に微々たる知識くらいしか持ち合わせていなかった。
だから、ピンクのそれまでの言動が、ただただ胡散臭く感じてしまった。
なにしろ、芝居すら見たことがなかったのだから、仕方ない。
ウカノはピンクの手を見る。
差し出された、その手を見る。
その手へ、ウカノは自分の手を差し出そうとする。
あのキラキラと輝いているように見えた手へ、自分の手を伸ばす。
そんなウカノへ、
「さぁ、世界を救おうじゃないか、少年♡」
ダメ押しとばかりにピンクが言った。
壊れた世界を救う。
滅んだ世界を救う。
「違う」
ウカノはけれど、それを否定する。
救うのは。
救いたいのは。
「俺が取り戻したいのは――」
続いた言葉に、ピンクは頷く。
そして、始まった。
こうして、始まったのだ。
世界を救って。
壊れた世界を取り戻す、旅が始まった。
何もかもを取り戻す。
ウカノ・サートゥルヌスの、永い永い旅が始まった。
身体検査が行われ、結果がすぐに出た。
この時、いろいろ予防注射とかもされた。
「あー、やっぱりそうだ。
お前、神様の血引いてるわ。
俺たちの世界だと天使――神族とか本来の魔族とか、そっちの血が入ってる」
結果がプリントされた綺麗な紙に視線を落としつつ、ピンクが言った。
見てみるか、と言われ紙を受け取った。
「他の世界のやつでも読めるようになってるはずだ」
しかし、ウカノには文字が読めなかった。
ウカノがいた世界でも義務教育が普及しつつあったが、父親と祖父母の無理解により学校よりも、畑仕事をしろと言われていたからだ。
これは、他の兄弟姉妹も同じだった。
そのことを説明すると、ピンクは、
「じゃぁ、覚えなきゃだなぁ」
なんて言った。
あまりにも、簡単すぎるほど簡単に言ってのける。
「どうした??」
「バカは何してもダメだから」
滑らかに、その言葉はウカノから滑りでた。
「きっと何しても無駄に終わりますよ」
それは、何度も向けられてきた言葉だ。
父親から。
祖父母から。
同じ部落の人間から。
街からきた、赤の他人から。
言葉はちくちくと、それでも確実にウカノの中から何かを削り取っていった。
「んー、どうだろうなぁ」
ピンクは、どこか楽しそうに言い返してきた。
「俺たちは、これでも子育て経験は豊富なんだぞ?」
「はぁ」
「色んな子がいた。
でも、何をしても無駄になった子はいなかったし、1人としてバカもいなかった。
あえて言うなら、得手不得手、向き不向きがあっただけだ。
お前の言うところのバカはいなかった」
「……お子さんは今何歳なんですか?」
「んー、一番上の子はお前と同い年だ。
んで、俺たちにとって記念すべき初の卒業生でもある」
「何人お子さんを作ったんですか」
農民でない限り、せいぜい五人くらいだろうとウカノは予想した。
「んー、俺が産んだのはゼロだな」
「捨て子ですか」
「それでも、俺たちの子供だ」
「で、いったい何人いるんですか?」
「たくさん。
まさに八百万ってやつだ。
でも、今はお前のことだ。
話を戻そう。
お前には、滅んだ世界を救ってもらう。
今、そのプロジェクトが進行中なんだ。
そうだな、さしずめ【救世主プロジェクト】ってところか」
そこで、さらに楽しそうにピンクは笑みを深める。
そして、続けた。
どこか芝居かかった調子で、続けた。
「お前、家族を取り戻したいだろ?」
ウカノはピンクを見る。
ピンクは続ける。
「以前の日常を取り戻したいだろ?」
ピンクが手を差し出してくる。
「この手を取れ、少年。
そしたら、お前は、お前の家族も、今までの日常も全て取り戻せる」
その何もかもが芝居がかっていた。
しかし、生憎ウカノは生まれてから部落を出たことはなく。
時折外から齎される僅かな、そう本当に微々たる知識くらいしか持ち合わせていなかった。
だから、ピンクのそれまでの言動が、ただただ胡散臭く感じてしまった。
なにしろ、芝居すら見たことがなかったのだから、仕方ない。
ウカノはピンクの手を見る。
差し出された、その手を見る。
その手へ、ウカノは自分の手を差し出そうとする。
あのキラキラと輝いているように見えた手へ、自分の手を伸ばす。
そんなウカノへ、
「さぁ、世界を救おうじゃないか、少年♡」
ダメ押しとばかりにピンクが言った。
壊れた世界を救う。
滅んだ世界を救う。
「違う」
ウカノはけれど、それを否定する。
救うのは。
救いたいのは。
「俺が取り戻したいのは――」
続いた言葉に、ピンクは頷く。
そして、始まった。
こうして、始まったのだ。
世界を救って。
壊れた世界を取り戻す、旅が始まった。
何もかもを取り戻す。
ウカノ・サートゥルヌスの、永い永い旅が始まった。
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