上 下
3 / 23
ハジマリの話

後編

しおりを挟む
そこからまた、言われるがまま用意された服に着替え、別の部屋に案内された。
身体検査が行われ、結果がすぐに出た。
この時、いろいろ予防注射とかもされた。

「あー、やっぱりそうだ。
お前、神様の血引いてるわ。
俺たちの世界だと天使――神族とか本来の魔族とか、そっちの血が入ってる」

結果がプリントされた綺麗な紙に視線を落としつつ、ピンクが言った。
見てみるか、と言われ紙を受け取った。

「他の世界のやつでも読めるようになってるはずだ」

しかし、ウカノには文字が読めなかった。
ウカノがいた世界でも義務教育が普及しつつあったが、父親と祖父母の無理解により学校よりも、畑仕事をしろと言われていたからだ。
これは、他の兄弟姉妹も同じだった。
そのことを説明すると、ピンクは、

「じゃぁ、覚えなきゃだなぁ」

なんて言った。
あまりにも、簡単すぎるほど簡単に言ってのける。

「どうした??」

「バカは何してもダメだから」

滑らかに、その言葉はウカノから滑りでた。

「きっと何しても無駄に終わりますよ」

それは、何度も向けられてきた言葉だ。
父親から。
祖父母から。
同じ部落の人間から。
街からきた、赤の他人から。
言葉はちくちくと、それでも確実にウカノの中から何かを削り取っていった。

「んー、どうだろうなぁ」

ピンクは、どこか楽しそうに言い返してきた。

「俺たちは、これでも子育て経験は豊富なんだぞ?」

「はぁ」

「色んな子がいた。
でも、何をしても無駄になった子はいなかったし、1人としてバカもいなかった。
あえて言うなら、得手不得手、向き不向きがあっただけだ。
お前の言うところのバカはいなかった」

「……お子さんは今何歳なんですか?」

「んー、一番上の子はお前と同い年だ。
んで、俺たちにとって記念すべき初の卒業生でもある」

「何人お子さんを作ったんですか」

農民でない限り、せいぜい五人くらいだろうとウカノは予想した。

「んー、俺が産んだのはゼロだな」

「捨て子ですか」

「それでも、俺たちの子供だ」

「で、いったい何人いるんですか?」

「たくさん。
まさに八百万やおよろずってやつだ。
でも、今はお前のことだ。
話を戻そう。
お前には、滅んだ世界を救ってもらう。
今、そのプロジェクトが進行中なんだ。
そうだな、さしずめ【救世主ヒーロープロジェクト】ってところか」

そこで、さらに楽しそうにピンクは笑みを深める。
そして、続けた。
どこか芝居かかった調子で、続けた。

「お前、家族を取り戻したいだろ?」

ウカノはピンクを見る。
ピンクは続ける。

「以前の日常を取り戻したいだろ?」

ピンクが手を差し出してくる。

「この手を取れ、少年。
そしたら、お前は、お前の家族も、今までの日常も全て取り戻せる」

その何もかもが芝居がかっていた。
しかし、生憎ウカノは生まれてから部落を出たことはなく。
時折外から齎される僅かな、そう本当に微々たる知識くらいしか持ち合わせていなかった。
だから、ピンクのそれまでの言動が、ただただ胡散臭く感じてしまった。
なにしろ、芝居すら見たことがなかったのだから、仕方ない。

ウカノはピンクの手を見る。
差し出された、その手を見る。
その手へ、ウカノは自分の手を差し出そうとする。
あのキラキラと輝いているように見えた手へ、自分の手を伸ばす。
そんなウカノへ、

「さぁ、世界を救おうじゃないか、少年♡」

ダメ押しとばかりにピンクが言った。

壊れた世界を救う。
滅んだ世界を救う。

「違う」

ウカノはけれど、それを否定する。
救うのは。
救いたいのは。

「俺が取り戻したいのは――」

続いた言葉に、ピンクは頷く。
そして、始まった。
こうして、始まったのだ。
世界を救って。
壊れた世界を取り戻す、旅が始まった。
何もかもを取り戻す。
ウカノ・サートゥルヌスの、永い永い旅が始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...