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 さて、エリスちゃんが先行してあたしがそれに続く形で開会式をした部屋を出た。
 そして、案内されたのは冒険者テイマー専門教室。
 つまり、魔物を戦わせるための勉強をする教室だ。
 その教室に入るなり、申し訳なさそうにエリスちゃんがあたしから離れる。
 その時に、エリスちゃんは顔を俯かせ、

 「ごめんなさい。ごめんなさい」

 と、謝ってきた。
 あー、もう、そんなふうに謝られると、逆に申し訳なくなるじゃん。
 あたしは、携帯端末を起動して操作する。
 ポケットに入れとくのは、うん不都合だから首から下げとこ。
 念の為にストラップ持ってきといて良かった。
 あたしは携帯端末を首から下げつつ、エリスちゃんに返した。

 「エリスちゃん、ツグミちゃん撫でさせてくれてありがとうね。
 ツグミちゃん、バイバイ」

 エリスちゃんは、でもあたしに背を向けて答えることはなかった。
 
 さて、と。
 あたしは教室を見回した。
 血の気の多そうな飼い主と、そのペット達。
 いや、各自がテイムしたモンスター達。
 あたしやタマは明らかに浮いていた。
 教室には長テーブルや椅子なんかは無かった。
 どうしたものか。このまま待ってればいいのかな?
 そう考えて、ぼんやりしていると、

 「あれ? ココロさん、教室間違ってるよ」

 そう声を掛けられた。
 とても聞き覚えのある声だ。
 内心、とても迷惑この上ない人物に話しかけられてしまったことに、あちゃーとなってしまう。
 いや、そうなるだろう。
 だってまさか、ここで話しかけられるなんて考えて無かったし。
 もっと周囲に注意しておけばよかった。

 「そうですよねぇ。普通、そう思いますよね」

 あたしは声をかけてきた相手、ジーンさんに苦笑しつつ返した。
 しかし、ここにこの人が来た、ということは、この教室の担当はジーンさんか。

 「?」

 あたしの返答に、ジーンさんが疑問符を浮かべる。
 そして、あたしの言葉の意味をなにやら違う方向で受け止めたようで、

 「もしかして、本格的に魔物使いテイマーになりたくなった?!」

 何故か物凄く目をキラキラ輝かせて、そう返してきた。
 声も心做しか弾んでいる。
 それこそ、新しい玩具を買ってもらった子供のように、無邪気な輝きが紫の瞳に宿っていた。

 「あー、いや、そういうんじゃなくて。成り行きというか」

 早く会話を切り上げよう。
 そして、この人から離れよう。
 あのエルフだけじゃなく、教室中からの視線が痛い。
 めっちゃ見られてる。
 殆どは好奇な目だ。
 いくつかは嫉妬とか、そういう目だ。
 これから大恥をかかされる予定だというのに。

 恥をかかされるのは、まぁエリスちゃんへの返礼みたいなものなので別にいい。
 納得してる。
 でも、こうやって無闇に注目の的になるのは、本来なら遠慮願いたいところだ。
 さて、あたしがどうやって会話を切り上げジーンさんから離れようか考えた時、あのエルフが話しかけてきた。

 「ジーン様。お久しぶりです。
 そちらの方は?」

 いけしゃあしゃあと、エルフは言ってきた。
 道案内の件なんて、覚えていませんわ、おほほほ、とでも意訳すれば伝わるだろうか。
 前歯へし折ってやりたい。
 あたしに末の妹のような怪力が備わっていたら、こいつの前歯へし折っていたところだ。
 いや、しないけど。
 備わってても、たぶんしなかったと思うけど。
 でも、それを夢想してしまう程度に、あたしがイラッとしたのは事実である。
 あぁ、いけないいけない。
 こういうところに、じいちゃんやお父さんから受け継いだと思われる血の気の多さ、いや、妙な凶暴さが出てしまう。
 
 「あぁ、リリアさん。
 今回も参加ありがとう。
 この人はココロさん、この前、冒険者ギルドで講義をした時に参加してくれた子なんだ」

 なるほど、お前の名前はリリアか。
 覚えたぞ。

 「ココロさん、この子はリリアさん。
 日曜のお昼の番組、知らない?
 テイマーのやつ。あれに出て優勝したことがあるんだ。
 それも、殿堂入り」

 あー、ドライブの時、妹が言ってたやつか。
 
 「へぇー、すごいですねー」
 
 棒読みで返す。

 「そんなすごい人でも、ミスってするんですねー。びっくりです」

 道案内のこと、覚えてるからなコノヤロー。
 ついでにバナナの皮で滑って転んでパンツ丸見えの大恥さらせ、コノヤロー。
 まぁ、彼女の場合女の子なので野郎ではなく、女郎が正しいかもしれない。
 いや、よく知らないけど。
 ジーンさんはあたしの言葉の意味がわからなくて、ニコニコ顔のまま疑問符を浮かべている。
 リリアさんは、

 「なんのことかわからないですね」

 私、カンペキなんです。存じ上げませんわおほほほ。とばかりに言ってくるエルフ。
 引っ叩くぞ、コノヤロー。
 あたしは反射的に内心で呟いた。
 いや、これでもあたし、もう高校生の【お姉ちゃん】だから、よその子にそんなことしないけどさ。
 でも、声に出なくて良かった。
 
 というか、やっぱり故意か。
 まぁ、分かってたけど。
 
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