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必要なのは、一歩を踏み出す勇気
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僕が、よくわからないギフトを与えられている横で、ほかの子達は大魔道士とかのギフトを与えられて盛り上がっていた。
今年はどうやら、珍しいギフトを与えられる子が多いらしい。
なんなら、
「聖女もいるぞ!!」
「どうなってんだ、今年は?!」
と大変盛り上がっている。
お祭り騒ぎだ。
「……えと、ありがとうございました」
僕は神官様にお礼を言って、頭を下げ、その場を後にする。
分からないことは図書館に行って調べればいい。
いつも、そうしてきた。
そして、何よりも図書館と記念館は、学校と違って僕を嗤う人もいなければ、嘘つき呼ばわりする人もいなかった。
僕はチラリと、アーサーとジェニーを見た。
二人とも、それぞれの冒険者ギルドの勧誘員らしき人達と話をしていた。
こちらもとても盛り上がっている。
当たり前だ。
なにしろ、【剣聖】と【賢者】のギフトを与えられたのだ。
そんなギフトを与えられた存在を迎え入れて、盛り上がらない方がおかしい。
声を掛けようかなとも思ったけど、やめた。
下手に声をかけて、勧誘員の人達に妙な疑いを持たれても嫌だし。
僕は都民体育館を出た。
さらに人が増えている。
家族と一緒に来た子もいるらしい。
賑やかなその長蛇の列を横目に、僕は図書館に向かおうとした。
でも、
「終わったのね」
声を掛けられた。
女性だった。
記念館の館長さんだ。
金髪に長い耳、緑色の瞳をしたエルフだ。
「あ、館長さん。
おはようございます」
「君は寝坊助さんだから、起こしに行こうと思ったんだけど下宿に行ったらエマちゃんにここだって聞いたの」
「はあ」
「それで?どんなギフトをもらったの??」
館長さんは興味津々だ。
あ、そうだ。
館長さん、エルフで長生きだからなにか知ってるかな。
僕は身分証カードを見せた。
館長さんは、僕のギフトを見ると顔をほころばせる。
そして、
「おめでとう」
「はぁ、ありがとうございます」
「さて、それじゃプレゼントを渡すわ。
来て」
なんて言って、館長さんは僕の腕を掴むと歩き出した。
やってきたのは、もはや実家のように通い慣れた勇者記念館だ。
僕の数少ない居場所の一つだ。
ここには、休館日というものが無い。
だから毎日通ったし、休息日はそれこそ一日中入り浸ったのはいい思い出だ。
しかし、いつもそうだが、人気がまるでない。
館内にある休憩スペースに連れてこられた僕に、館長さんは古びた分厚い本を渡してきた。
申し訳程度に、リボンでラッピングされている。
なんか、ものすごく見覚えがある本だ。
「えっと、これは?」
「勇者直筆の日記」
「は、え?
はい?!?!」
「そんな驚かなくてもいいじゃない。
毎日見てたでしょ??」
いやいやいやいや!?
国宝級のものだ、それを渡すなんて何を考えて、ってあ、もしかしてレプリカとかかな?
「ちなみに、本物だから」
「はい?!
え、ダメですよ!!
もらえませんよ!!
というか、館長さん捕まりますよ?!」
少なくとも記念館の館長さんが、勝手に国宝級の物を一般市民に渡していいはずがない。
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃないですって!!」
「だって、君にはそれを受け取る資格があるもの」
ニコニコと館長さんは断言した。
「ほら、いつだったか話してくれたでしょ?
最初の謎についての貴方の考え。
これはね、そういうゲームなの。
勇者が仕掛けた謎解きと冒険のゲーム。
この千年、誰も到達出来なかった最初の謎の答え。
それに手を伸ばしているのが、パーシヴァル、貴方よ」
館長さんの言葉に、僕は記憶を刺激され、思い出した。
そうだ。
学校のクラスメイト達に話す前に、僕は館長さんにあの考えを話したのだ。
館長さんは否定せず、ニコニコと笑って話を聞いてくれた。
その後、僕はクラスメイト達の反応から、答え合わせをするのが怖くなって結局確かめに行けずにいた。
「あとは、それこそ勇気だけ」
館長さんは言いつつ、ずいっと日記を僕の目の前へ差し出してくる。
「知ってると思うけど、勇者だって最初から勇者だったわけじゃない」
伝説の勇者――アルン。
僕が館長さんからもらった小説によると、幼少期は小柄で泣き虫だった。
少年へと成長しても、ちっとも強くはならなかった。
やがて、少年の幼なじみが勇者として見出され旅立つ時に、アルンを従者に任命したのだ。
そう、最初アルンは勇者でもなんでもなかった。
どこにでもいる泣き虫の男の子だったのだ。
戦闘どころか喧嘩も弱っちくて、そう、まるで僕みたいだなって、親近感がわいた。
「館長さんのくれた小説だと、そう書かれてましたね」
「でも、旅をしていくうちに彼は成長して、魔王を倒すまでの勇者となった。
何が言いたいのかって言うとね。
幼なじみの誘いに着いていく、って決断をしなければ彼は勇者にはなれなかったってこと。
最初に小さな勇気を振り絞った」
だから、伝説になったのだ、と館長さんは言った。
僕は勇者直筆の日記を見た。
この世界には存在しない文字で書かれ、いまだ解読されていない日記を見た。
これが日記だとわかるのは、勇者の小間使いの証言があったからだ。
宝探しのヒントがかくされているとも、小間使いは勇者から言うように頼まれていたらしく、その事もしっかりと聖杯を目指す者達に伝えられた。
だというのに、勇者はこれをこちらの世界の(当時の)言葉に訳してくれなかった。
誰も読めない日記。
価値はたしかにあるのに、無意味な日記。
僕は、少しだけ、ほんの少しだけ勇気を持ってその日記へ手を伸ばしてみた。
普段は、展示されていて決して触れることは出来なかった日記が、僕の手におさまる。
ずっしりと、重い。
開いてみたが、やはり読めなかった。
館長さんを見る。
彼女は満足そうに笑っていた。
「最初だからね、特別サービス。
貴方のギフトを使ってみなさい。
そしたら、ふふ、もしかしたら新しい知恵や知識、それに仲間ができるかも」
なんて、館長さんは助言してくれた。
「なんなら今やってみなさいな」
僕は心臓がドキドキしてきた。
ここには幸い、というべきか利用者は誰もいない。
お祭り騒ぎの都民体育館に行ってるからだ。
僕は、言われるがままギフトを使用してみた。
すると、僕の目の前にステータス画面と呼ばれるものが現れた。
これらも勇者が魔王を倒した後、ギフト発現の儀式をやるようになってから現れたものだった。
しかし、僕が知っているものとは違っていた。
どう違うのか。
まず、文字が違った。
その文字の形に、僕は見覚えがあった。
勇者の日記に記されている文字と同じなのだ。
それらの文字が、短い文章を形成していた。
その短い文章は、それぞれ枠で囲われている。
僕は館長さんを見た。
「これって」
しかも、読めるのだ。
意味がわかる。
僕は、もう一度日記を開いてみた。
「読める」
書いてある内容が理解できた。
日記の最初にはこんな一文が添えられていた。
【名も知らぬ冒険者へ。
どうか、楽しい旅路を】
さっきまで読めなかったのに。
ずっと、読めなかったのに。
僕は戸惑い、館長さんをもう一度見た。
「あ、あの、えっと……」
「さて、私は仕事があるから。
あ、ちなみに他の子には日記のレプリカを渡すことになってるの。
一位の貴方は特別にオリジナルがもらえたってわけ。
無くさないようにね」
館長さんはそう言って事務所に行ってしまった。
一人残された僕は、日記を手にウロウロした。
だって、どうしていいかわからないのだ。
急にいろんなことが起きすぎた。
「えとえと、あ!
そうだ、アーサーに話してみよう!!」
幼なじみにこの事を話そうと、一瞬考えたがすぐにやめた。
また、あの微妙な顔をされたら悲しいからだ。
ジェニーも同じ理由で却下する。
なによりも、二人は僕なんかのことよりこれからの事で頭がいっぱいのはずだ。
考え直して、すぐに興奮が湧き上がってくる。
この日記が読める。
読むのだ。
僕は、日記の一ページ目を開いてみた。
そうして読み進めてわかったことだけど、これは正確には日記ではなかった。
回顧録であり、回想録であり、そして僕への手紙だった。
この回顧録は、誰かが目を通すことを前提に書かれていた。
だから、その誰かへ向けての手紙だった。
少し読み進めたところで我に返る。
「……っは!ヤバいヤバい。
ついつい読んじゃった。
こっちの方もチェックしなきゃ」
僕は回顧録から、文字が流れ続けている画面へと向けた。
回顧録には、僕に与えられたギフトとそしてこの画面についての説明が記載されていた。
これらから考えるに、この回顧録を手に入れるには、【スレ民】というギフトを与えられる必要があったらしい。
そして、そのギフトを与えられるためには三つの条件を満たす必要があったことも書かれていた。
一つ、この世界で生まれた者であること。
二つ、記念館、あるいはそれに類する施設に千回通うこと。
三つ、最初の謎の答えに、たどり着くこと。
最初の謎解きは誰だってできる。
年齢も才能も、種族も性別も関係ない。
そう、誰にだって挑戦する権利が与えられていた。
僕は、偶然にもこれらの条件全てを満たしたのだ。
だからこそ、あのギフトが与えられた。
むしろ、なぜ勇者の没後間もない時代のもの達がギフトを与えられなかったのか不思議だった。
何故なら、ギフト発現の儀式は、勇者が魔王を倒した後に出来た儀式だとされているから。
勇者が魔王を倒すまで、ギフト発現の儀式などというものは存在しなかったのだ。
なぜ、どうやってこんな儀式が出来たのか?
その答えも回顧録に書いてあった。
それによると、聖杯探しゲームのために勇者がこの世界に書き加えたシステムらしい。
魔王を倒した勇者には、神から特別な力が与えられた。
いや、神と同等の力が与えられた。
その力を使って、勇者はこの世界のルールの一部を書き換えたのだ。
そして、神が勇者にその力を与えるために渡したのが聖杯だった。
【聖杯を手にした者が、この世界を手にする】というのは、つまり全くの嘘ではないのだ。
これらを知れたのは大きかった。
だって、誰も知らないのだ。
授業でも、図書館の本にも書いていないことがこの回顧録には書かれていた。
僕は心臓がドキドキした。
だって、本当に見つけられるかもしれないのだ。
なんの取り柄もない、落ちこぼれの僕でも聖杯を見つけられるかもしれないのだ。
僕は回顧録に書かれている、【匿名掲示板】のページを読んだ。
そのページを頼りに、いろんな【掲示板】を覗いてみた。
こことは別の、勇者が元々いた世界のものらしい。
というのも、勇者は生まれ変わってこちら側の世界に来た、【転生者】という存在だったらしい。
回顧録には、しかし、聖杯がどこにあるかまでは書かれていなかった。
答えは欠片も書かれていない。
書いてあるのは、旅の道中に食べた物や美しかった景色、そして時折元いた世界についての思い出話等だ。
「おちつけ、おちつくんだ」
とにかく、この数十分の間にいろんな事が起こりすぎた。
僕は深呼吸して、心臓の高鳴りを鎮めようとする。
「よし」
考えを整理する。
いま、僕は最初の鍵の在り処まで手を伸ばしている。
でも、正確にそれがどこなのかはわからない。
ヒントは勇者の名前。
その由来となった木、植物。
そこで、閃いた。
そうだ。
勇者の名前。
【アルン・ド・インディカ】という名前。
これが元々、この世界に無い言葉、植物の名前だったとしたら??
僕は、匿名掲示板を見た。
いろんな掲示板がある。
その使い方は、この回顧録に書いてある。
ごくり、と喉がなった。
「勇気だけ、少しだけ、勇気を出すだけだ」
僕は自分に言い聞かせた。
そして、僕は回顧録を頼りに掲示板を立てた――スレ立てをしたのだった。
今年はどうやら、珍しいギフトを与えられる子が多いらしい。
なんなら、
「聖女もいるぞ!!」
「どうなってんだ、今年は?!」
と大変盛り上がっている。
お祭り騒ぎだ。
「……えと、ありがとうございました」
僕は神官様にお礼を言って、頭を下げ、その場を後にする。
分からないことは図書館に行って調べればいい。
いつも、そうしてきた。
そして、何よりも図書館と記念館は、学校と違って僕を嗤う人もいなければ、嘘つき呼ばわりする人もいなかった。
僕はチラリと、アーサーとジェニーを見た。
二人とも、それぞれの冒険者ギルドの勧誘員らしき人達と話をしていた。
こちらもとても盛り上がっている。
当たり前だ。
なにしろ、【剣聖】と【賢者】のギフトを与えられたのだ。
そんなギフトを与えられた存在を迎え入れて、盛り上がらない方がおかしい。
声を掛けようかなとも思ったけど、やめた。
下手に声をかけて、勧誘員の人達に妙な疑いを持たれても嫌だし。
僕は都民体育館を出た。
さらに人が増えている。
家族と一緒に来た子もいるらしい。
賑やかなその長蛇の列を横目に、僕は図書館に向かおうとした。
でも、
「終わったのね」
声を掛けられた。
女性だった。
記念館の館長さんだ。
金髪に長い耳、緑色の瞳をしたエルフだ。
「あ、館長さん。
おはようございます」
「君は寝坊助さんだから、起こしに行こうと思ったんだけど下宿に行ったらエマちゃんにここだって聞いたの」
「はあ」
「それで?どんなギフトをもらったの??」
館長さんは興味津々だ。
あ、そうだ。
館長さん、エルフで長生きだからなにか知ってるかな。
僕は身分証カードを見せた。
館長さんは、僕のギフトを見ると顔をほころばせる。
そして、
「おめでとう」
「はぁ、ありがとうございます」
「さて、それじゃプレゼントを渡すわ。
来て」
なんて言って、館長さんは僕の腕を掴むと歩き出した。
やってきたのは、もはや実家のように通い慣れた勇者記念館だ。
僕の数少ない居場所の一つだ。
ここには、休館日というものが無い。
だから毎日通ったし、休息日はそれこそ一日中入り浸ったのはいい思い出だ。
しかし、いつもそうだが、人気がまるでない。
館内にある休憩スペースに連れてこられた僕に、館長さんは古びた分厚い本を渡してきた。
申し訳程度に、リボンでラッピングされている。
なんか、ものすごく見覚えがある本だ。
「えっと、これは?」
「勇者直筆の日記」
「は、え?
はい?!?!」
「そんな驚かなくてもいいじゃない。
毎日見てたでしょ??」
いやいやいやいや!?
国宝級のものだ、それを渡すなんて何を考えて、ってあ、もしかしてレプリカとかかな?
「ちなみに、本物だから」
「はい?!
え、ダメですよ!!
もらえませんよ!!
というか、館長さん捕まりますよ?!」
少なくとも記念館の館長さんが、勝手に国宝級の物を一般市民に渡していいはずがない。
「大丈夫よ」
「大丈夫じゃないですって!!」
「だって、君にはそれを受け取る資格があるもの」
ニコニコと館長さんは断言した。
「ほら、いつだったか話してくれたでしょ?
最初の謎についての貴方の考え。
これはね、そういうゲームなの。
勇者が仕掛けた謎解きと冒険のゲーム。
この千年、誰も到達出来なかった最初の謎の答え。
それに手を伸ばしているのが、パーシヴァル、貴方よ」
館長さんの言葉に、僕は記憶を刺激され、思い出した。
そうだ。
学校のクラスメイト達に話す前に、僕は館長さんにあの考えを話したのだ。
館長さんは否定せず、ニコニコと笑って話を聞いてくれた。
その後、僕はクラスメイト達の反応から、答え合わせをするのが怖くなって結局確かめに行けずにいた。
「あとは、それこそ勇気だけ」
館長さんは言いつつ、ずいっと日記を僕の目の前へ差し出してくる。
「知ってると思うけど、勇者だって最初から勇者だったわけじゃない」
伝説の勇者――アルン。
僕が館長さんからもらった小説によると、幼少期は小柄で泣き虫だった。
少年へと成長しても、ちっとも強くはならなかった。
やがて、少年の幼なじみが勇者として見出され旅立つ時に、アルンを従者に任命したのだ。
そう、最初アルンは勇者でもなんでもなかった。
どこにでもいる泣き虫の男の子だったのだ。
戦闘どころか喧嘩も弱っちくて、そう、まるで僕みたいだなって、親近感がわいた。
「館長さんのくれた小説だと、そう書かれてましたね」
「でも、旅をしていくうちに彼は成長して、魔王を倒すまでの勇者となった。
何が言いたいのかって言うとね。
幼なじみの誘いに着いていく、って決断をしなければ彼は勇者にはなれなかったってこと。
最初に小さな勇気を振り絞った」
だから、伝説になったのだ、と館長さんは言った。
僕は勇者直筆の日記を見た。
この世界には存在しない文字で書かれ、いまだ解読されていない日記を見た。
これが日記だとわかるのは、勇者の小間使いの証言があったからだ。
宝探しのヒントがかくされているとも、小間使いは勇者から言うように頼まれていたらしく、その事もしっかりと聖杯を目指す者達に伝えられた。
だというのに、勇者はこれをこちらの世界の(当時の)言葉に訳してくれなかった。
誰も読めない日記。
価値はたしかにあるのに、無意味な日記。
僕は、少しだけ、ほんの少しだけ勇気を持ってその日記へ手を伸ばしてみた。
普段は、展示されていて決して触れることは出来なかった日記が、僕の手におさまる。
ずっしりと、重い。
開いてみたが、やはり読めなかった。
館長さんを見る。
彼女は満足そうに笑っていた。
「最初だからね、特別サービス。
貴方のギフトを使ってみなさい。
そしたら、ふふ、もしかしたら新しい知恵や知識、それに仲間ができるかも」
なんて、館長さんは助言してくれた。
「なんなら今やってみなさいな」
僕は心臓がドキドキしてきた。
ここには幸い、というべきか利用者は誰もいない。
お祭り騒ぎの都民体育館に行ってるからだ。
僕は、言われるがままギフトを使用してみた。
すると、僕の目の前にステータス画面と呼ばれるものが現れた。
これらも勇者が魔王を倒した後、ギフト発現の儀式をやるようになってから現れたものだった。
しかし、僕が知っているものとは違っていた。
どう違うのか。
まず、文字が違った。
その文字の形に、僕は見覚えがあった。
勇者の日記に記されている文字と同じなのだ。
それらの文字が、短い文章を形成していた。
その短い文章は、それぞれ枠で囲われている。
僕は館長さんを見た。
「これって」
しかも、読めるのだ。
意味がわかる。
僕は、もう一度日記を開いてみた。
「読める」
書いてある内容が理解できた。
日記の最初にはこんな一文が添えられていた。
【名も知らぬ冒険者へ。
どうか、楽しい旅路を】
さっきまで読めなかったのに。
ずっと、読めなかったのに。
僕は戸惑い、館長さんをもう一度見た。
「あ、あの、えっと……」
「さて、私は仕事があるから。
あ、ちなみに他の子には日記のレプリカを渡すことになってるの。
一位の貴方は特別にオリジナルがもらえたってわけ。
無くさないようにね」
館長さんはそう言って事務所に行ってしまった。
一人残された僕は、日記を手にウロウロした。
だって、どうしていいかわからないのだ。
急にいろんなことが起きすぎた。
「えとえと、あ!
そうだ、アーサーに話してみよう!!」
幼なじみにこの事を話そうと、一瞬考えたがすぐにやめた。
また、あの微妙な顔をされたら悲しいからだ。
ジェニーも同じ理由で却下する。
なによりも、二人は僕なんかのことよりこれからの事で頭がいっぱいのはずだ。
考え直して、すぐに興奮が湧き上がってくる。
この日記が読める。
読むのだ。
僕は、日記の一ページ目を開いてみた。
そうして読み進めてわかったことだけど、これは正確には日記ではなかった。
回顧録であり、回想録であり、そして僕への手紙だった。
この回顧録は、誰かが目を通すことを前提に書かれていた。
だから、その誰かへ向けての手紙だった。
少し読み進めたところで我に返る。
「……っは!ヤバいヤバい。
ついつい読んじゃった。
こっちの方もチェックしなきゃ」
僕は回顧録から、文字が流れ続けている画面へと向けた。
回顧録には、僕に与えられたギフトとそしてこの画面についての説明が記載されていた。
これらから考えるに、この回顧録を手に入れるには、【スレ民】というギフトを与えられる必要があったらしい。
そして、そのギフトを与えられるためには三つの条件を満たす必要があったことも書かれていた。
一つ、この世界で生まれた者であること。
二つ、記念館、あるいはそれに類する施設に千回通うこと。
三つ、最初の謎の答えに、たどり着くこと。
最初の謎解きは誰だってできる。
年齢も才能も、種族も性別も関係ない。
そう、誰にだって挑戦する権利が与えられていた。
僕は、偶然にもこれらの条件全てを満たしたのだ。
だからこそ、あのギフトが与えられた。
むしろ、なぜ勇者の没後間もない時代のもの達がギフトを与えられなかったのか不思議だった。
何故なら、ギフト発現の儀式は、勇者が魔王を倒した後に出来た儀式だとされているから。
勇者が魔王を倒すまで、ギフト発現の儀式などというものは存在しなかったのだ。
なぜ、どうやってこんな儀式が出来たのか?
その答えも回顧録に書いてあった。
それによると、聖杯探しゲームのために勇者がこの世界に書き加えたシステムらしい。
魔王を倒した勇者には、神から特別な力が与えられた。
いや、神と同等の力が与えられた。
その力を使って、勇者はこの世界のルールの一部を書き換えたのだ。
そして、神が勇者にその力を与えるために渡したのが聖杯だった。
【聖杯を手にした者が、この世界を手にする】というのは、つまり全くの嘘ではないのだ。
これらを知れたのは大きかった。
だって、誰も知らないのだ。
授業でも、図書館の本にも書いていないことがこの回顧録には書かれていた。
僕は心臓がドキドキした。
だって、本当に見つけられるかもしれないのだ。
なんの取り柄もない、落ちこぼれの僕でも聖杯を見つけられるかもしれないのだ。
僕は回顧録に書かれている、【匿名掲示板】のページを読んだ。
そのページを頼りに、いろんな【掲示板】を覗いてみた。
こことは別の、勇者が元々いた世界のものらしい。
というのも、勇者は生まれ変わってこちら側の世界に来た、【転生者】という存在だったらしい。
回顧録には、しかし、聖杯がどこにあるかまでは書かれていなかった。
答えは欠片も書かれていない。
書いてあるのは、旅の道中に食べた物や美しかった景色、そして時折元いた世界についての思い出話等だ。
「おちつけ、おちつくんだ」
とにかく、この数十分の間にいろんな事が起こりすぎた。
僕は深呼吸して、心臓の高鳴りを鎮めようとする。
「よし」
考えを整理する。
いま、僕は最初の鍵の在り処まで手を伸ばしている。
でも、正確にそれがどこなのかはわからない。
ヒントは勇者の名前。
その由来となった木、植物。
そこで、閃いた。
そうだ。
勇者の名前。
【アルン・ド・インディカ】という名前。
これが元々、この世界に無い言葉、植物の名前だったとしたら??
僕は、匿名掲示板を見た。
いろんな掲示板がある。
その使い方は、この回顧録に書いてある。
ごくり、と喉がなった。
「勇気だけ、少しだけ、勇気を出すだけだ」
僕は自分に言い聞かせた。
そして、僕は回顧録を頼りに掲示板を立てた――スレ立てをしたのだった。
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