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カウンセリング

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白い部屋。
やわらかい壁と床。
扉と、小窓には鉄格子。
この部屋に来て、何日経ったのだろう。
ヤマトを殺して、そのあと、たしか暴れて。
取り押さえられて。
あれからどれくらい経過したのだろう。
考えるのも億劫で、俺は部屋の隅で膝を抱えていた。
目を瞑り、顔を伏せる。
闇の中浮かぶのは、俺が殺したヤマトの姿だ。

「…………」

もうとっくの昔に涙は枯れ果てて、ただただその幻影を見続けている。

「随分、重症のようだね。
まぁ、無理もないか」

ふと、そんな声が耳に届いた。
顔をあげる。
そこには、いつの間にか椅子が用意され、その椅子に男が一人座っていた。
黒髪、黒目の人間種族。

「またアンタか」

この男はカウンセラーらしい。
男は、ニコニコと微笑みながら俺に話しかけてくる。

「君次第で、ここは堅牢な城にもなるし、はたまた牢獄にもなる。
誰にでもある場所だ。
全ては君次第だ。
さて、話をしよう。
どんな話しをしようか?」

「話すことなんてなにもない」

「俺にはある」

「…………」

「君に死なれちゃ困るからね。
なにしろ、君のために彼は死んだんだ。
君を取り戻すために、彼は死を選んだ。
いや、本当は死ぬつもりは欠片もなかった。
だって彼は、君たちのところに帰りたがっていたから。
彼はこう、なんていうのかな?
視界がちょっと狭くなっちゃうところがあるみたいだからね」

ここ数日、この男はそう一方的に言葉を投げてくる。
俺を死なせないために。
自殺させないために。
話しをしようとしてくる。
最初は無視していた。
でも、この男は放っておくと、いつまでも何時間でも喋り続けるのだ。
だからいつの間にか、反応を返すようにした。

「アンタはヤマトのなんなんだ?」

もう何度目になるかもわからない、その質問。
口ぶりから、ヤマトと知り合いなのだろうとは察しがついた。

「んー、そうだなぁ。
君には内緒。
だって君は、彼の友達で俺の友達じゃないから」

なんて、少し悲しそうに言う。
悲しそうに笑いながら、言う。

「君は、彼に守られた。
今も守られてる。
そうでなかったら、君は女神に喰われていた。
あそこで、あの場面で、君が女神に襲いかかっていたらきっと君は女神に喰われて、存在が消えていた。
そうさせないために彼は頑張った。

だって、簡易契約とはいえ、彼は君に身も心も捧げることを誓っていたから」

その言葉が、ずしりと重く突き刺さった。
思い出すのは、学園での光景だ。
売店での、やりとりだ。

靴下を買ったのだ。
欲しいと言われて、買ったのだ。
古い、とても古い契約、誓いのそれ。
アレのせいで、ヤマトは死んだ。
俺が殺した。

「だから、あぁなったのは彼の意志だ。
君を守るために、救うために、やれることをやった。
それだけだよ。
でも、君は自分を責め苛んだままだ。
それじゃ、彼は浮かばれないよ。

彼は君を救って、自分も救ったんだ。
間接的にだけれど、君は彼を救った。

彼の人生は、いつだって誰かに振り回されてきた。
決定権はいつだって他人に、握られてきた。
誰も助けちゃくれなかった。
龍神は才能があるからと後継に選んだ。
精霊王達は、次代の主だからと彼に仕えていた。
でも、それは生まれてから死ぬまで続く牢獄に他ならない。
逃げたくても逃げられない。
やりたいことも、本当の意味で出来なかった。
彼の人生は、牢獄そのものだった。
両親や祖父母からは疎まれた。
なんで生きてるんだと責められ、詰られ続けた。

そんな自分とは違って、兄と弟は家族に愛された。

逃げたくても逃げられない、愛されたくても愛されない、そんな人生だ。
どこにいても精霊王の誰かの目がある。
言いたいことも言えない。
言ったら、いい子で無くなるから。
いい子でいるためには、自分を殺すしかない。
自分を通そうとした事もあった。
けれど、誰もそれを本当の意味でそれを支持しなかった。。
本当の意味で話を聞こうとすらしなかった。

だから、彼は少しずつ歪んで壊れていった。

先祖代々受け継いできた性質もあったのだけれど、それでも彼はずっと人形だった。

呪いを受けて、自分の死期を悟った時、彼は嬉しかったんだ。
肉を抉られて、死ぬかもと悟った時も、本心は喜んでいた。
ようやく終われる、と。

本当は、それこそ賢者の一件で死のうとしていた。
彼はね死にたがっていたんだよ。
ずっとね。
この操り人形のような、人生を終わらせたがっていた。
誰も彼もが、彼を必要としていながら、誰も彼という存在をみていなかった。
だから、いつしかその終わらせることすら諦めた。
諦めれば、幸せになれたから。
嘘の幸せに、彼の心はいつも悲鳴をあげていた。
それにすら蓋をして、色々なことを諦めた。
諦めて、人形になれば苦しみが少しやわらいだから。

幼なじみの女の子に好きだと言われても、信じることが出来ないほどに。
彼の心は壊れて歪んでいた。

でも、気が変わった。
少しずつ、変わっていったんだ。
君が変えた。
君たちが、変えた。

世界は広いのだと、君たちが彼に教えたんだ」

そこで、男は言葉を止めた。
俺は、男を見る。
男は優しく微笑んでいた。

「なんでそんなことまで、アンタは知ってるんだ?」

そう問う。
そこで初めて、男の首からネームプレートがぶら下がっていることに気づいた。
【アキラ】と書かれている。
それがこの男の名前なのだろう。

「さて、何故だろうね?」

俺の問いに、男――アキラはニコニコと答えた。
ただ、どこか遠くをみているようだった。

「ただ、いつも君は優しいから。
いつだって、君は優しかったから。
だから、これは俺の贖罪なんだ。
本当は君から彼の記憶を消すのが1番いいんだろうけど。
でもさ、それは嫌だろ?」

「…………」

「記憶を消せば、君の中の彼の存在も消える。
そうすれば君の中から、辛いことを消せる。
辛いことが消えたなら、君のために命を捧げた彼はきっとよろこぶ。
でも、君はそれを望まないだろ?」

「…………」

「だから、話そう。
俺と話をしよう」

アキラが何を言っているのか、よくわからなかった。 
言葉の意味も、半分すら理解出来ないでいる。

「幸い、時間はたっぷりあるからさ」

彼はどこかヤマトに似た笑顔で、そう言った。

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感想 13

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みんなの感想(13件)

灰雲
2022.09.26 灰雲

速報)邪神、害獣扱いで駆除される模様

解除
penpen
2022.05.06 penpen

更新来た〜٩(。˃ ᵕ ˂ )وイェーィ♪

解除
ユリシロ
2020.11.11 ユリシロ

実況者=レイドさんに思わず同情(爆笑)しちゃった。強く生きて!

解除

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