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死に別れた兄貴が、実は生きてて反社の偉い人やってた件

裏話9

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 でも、改めて思うとウカノさんは相当ブチ切れていたんだと思う。
 しかも、ずっと。
 何故なら、目が笑っていなかったからだ。
 ずっと、ニコニコしていたし、なんなら口調もいつもと変わらなかった。
 けれど、愛用の大鎌で空間を切り裂いて、そこを抜けた先にあった巨大な高層ビル。
 それを見あげると同時に、ウカノさんの目がスっと細められた。
 かとおもうと、鎌を一振りした。
 それは衝撃波を生み出し、ビルの真ん中あたりに直撃した。
 ガラスが割れ、散って、落下していく。
 中で働いてた人達は阿鼻叫喚になっているだろう。

「魔王様からの情報だと、あのビル自体が犯罪組織の持ち物みたいだからね。
 これで燻り出せたらいいんだけど」

 なんて言いながら、スタスタとビルへ歩いていく。
 俺とシンは顔を見合せた。
 互いの武器を持ち直す。
 俺はいつも通りの鉈。
 シンは、大きなスリングショットを手にしている。
 ウカノさんの背を追う。
 その直後、俺たちの行く手を阻むように魔法陣がいくつも展開する。

「……ドラゴンの息吹の方が、全然マシだな」

 なんて言って、ウカノさんはその魔法陣を大鎌を一振りさせて切り裂き、無効化させた。

「シン、やれ」

 ゾッとするほど、淡々とした指示がウカノさんから出る。
 シンはそれに従って、スリングショットを撃った。
 弾は、災害級のモンスター駆除用のものだ。
 それが、先程割れた場所へと飛んでいく。
 少しして、爆発した。
 ビルから黒炎が上がる。
 そして、ぞろぞろと構成員たちが逃げ出してきた。

「それじゃ、ヤマト君。
 暴れよっか♪」

 ウカノさんの言葉に、俺は鉈を握り直した。
 有象無象の相手は、スタンピードで慣れている。
 ましてや最近はこんなのばっかりだ。
 なので、数分もしないうちにその場は片付いた。
 そこに降り立つ者があった。
 話に聞いていた、ギブリアという魔族だ。
 ウカノさんが、ギブリアを見る。
 その顔は、笑顔。
 対して、ギブリアは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「へぇ、あの人かぁ。
 十代半ばの美少女に言いよって、ベッド・インしようとしたけど失敗した変態ロリコン野郎って」

 シンが聞こえるように、というか百パー聞かせるためにそんなことを口にした。

「ぶふっ!」

 不意打ち過ぎて、吹いた。
 その次の瞬間、シンが吹っ飛ばされた。
 かと思ったら、俺の腹にも衝撃が走る。
 思ったより、早いな!?
 俺もそのまま吹っ飛ばされた。
 けれど、ダメージは無い。
 俺もシンも、農業ギルドから支給された作業服を着ているからだ。
 すぐに立ち上がって体勢を立て直す。

 そんな俺たちは捨ておいて、ギブリアはウカノさんを見た。
 ウカノさんも、ギブリアを見返す。

「躾のなってない弟だな」

 ギブリアに言われ、ウカノさんはケラケラと笑った。

「失礼だな。自主性を重んじてるだけだよ。
 でも、そっかそっか。
 そこまでは知ってるのか。
 なるほどねぇ」

 なんて言いながら、先に動いたのはウカノさんだった。
 大鎌を振るい、ギブリアの首を取りに行く。
 しかし、ギブリアはその大鎌を堂々と腕で防いだ。

「硬いなぁ」

 傷すらついていない。
 ウカノさんは、距離をとり一撃、二撃と与えるが、やはり防がれてしまう。

「すげぇ、兄ちゃんの鎌に切れないものってあったんだ」

「……え、それ本気で言ってる??」

 シンの言葉に、俺は思わずそう聞いてしまった。

「まさか」

「だよなぁ」

 ウカノさんは、本気を出していない。
 もしも、ウカノさんが本気だったなら、あんな遅い動きではないはずだからだ。
 なによりも、一歩踏み出した時点でギブリアの首が落ちていなければおかしい。
 というか、何も知らなかったとはいえ、あんな人と褥を共にしようとしたとか、ギブリアって人はそれだけで勇者だと思う。
 それはともかく。
 二人の戦闘は、しかし戦闘とは呼べないものだった。
 ギブリアはウカノさんに手玉にとられ、遊ばれている。
 それが分かるからこそ、その光景は滑稽に映った。
 というかウスノのやつ、なんでこんな化け物に喧嘩売ったんだろ、と何度考えたことか。
 正確には、農業ギルドに、だけれど。
 たぶん、知らなかったんだろうなぁ。
 なにしろ、労働階級でしかない農民だ。
 農業ギルドはその集まりでしかない。
 それが、世界共通の一般的な認識なのだ。
 冒険者ギルドと違って、犯罪組織と事を構えるような度胸は無いと思われている。
 そう、たかが農民の集まりだと。

「おや、もう息が上がってきたのか。
 歳なんじゃないの??」

 ウカノさんが煽った時だ。

「これはこれは、懐かしい気配ですね」

 ウカノさんとギブリア、二人の間にその女性は出現した。
 そう、いきなり現れたのだ。
 それは純白の神官服に身を包んだ、美しい女性だった。
 ウカノさんが動くよりも早く、

「お話をしたいところだけど、ごめんなさいね」

 なんて言って、女性が指をパチンと鳴らす。
 すると、ウカノさんの姿が消えた。

「え??」

 これに戸惑ったのはシンだった。
 あのウカノさんが、何も出来ずに消えた。

「貴方もね」

 なんて言って、またパチンと指を鳴らす。
 俺がシンを見ると、彼の姿も消えていた。
 は、はぁあああ?!?!
 なにこれ、なんなん、この状況?!
 女性が俺を見た。

「安心してください。
 転移させただけですから」

「…………」

 逃げた方が良い。
 そう直感した。
 この女性は、ヤバい人だ。

「あらあら怖がらせちゃいましたね」

 気持ち悪い。
 いや、気味が悪い。
 吐き気がする。
 なんだ、この人。
 美しい、確かに、美しい人だ。
 でも、人間じゃない。

「お初にお目にかかります。
 イシュタム・カーリーと申します」

 ニイッと、女性が笑みを浮かべた。
 そして、ギブリアを振り返る。

「我らが主からの命令です。
 ギブリア、この子と少々遊んでやりなさい。
 そうそう、なんならこのままお土産を持ち帰ってきてもいいとのことですよ」

 これに、ギブリアは驚いている。
 しかし、彼がなにか言う前にイシュタムと名乗った女性はこう続けた。

「なにしろ、我々ですら行方を掴ませなかった子が、こうして出てきてくれたわけですから。
 農業ギルドの組織力を甘く見ていました」

 しかし、事態はこれで終わらなかった。
 イシュタムの言葉が終わった直後、俺の眼前の空間が歪んだ。
 かと思ったら、真っ黒い大きな犬が現れた。
 シンが飼ってる犬だった。
 名前は、たしか。

「ハイラ??」

 飼い主たるシンは、何故か『さん』付けで呼んでいる犬だ。
 ハイラは、俺を守るかのように女性に向かって立ちはだかり、吠えた。
 そして、女性の喉元へと噛み付いた。
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