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スレ民はにはお見通し♡

裏話18 口喧嘩 中編

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「で、なにが聞きたいんだよ?」

どこか不貞腐れたように、ヤマトは言った。
ようやく、観念したか。
目の前には、寮母さんが出してくれた、キンキンに冷えたアイスティーがあった。
それを一口飲んで、俺はテーブルを挟んで向かい側へ座っているヤマトへ聞いた。

「傷の具合わるいんだろ?」

ヤマトは諦めたように嘆息して、シャツを捲って包帯の巻かれたそこを見せてきた。

「縫ったあとがグロテスクだから、包帯とって見せるのは勘弁してくれ」

なんて、ヤマトが言ってくる。
それを右から左へと聞き流し、俺は包帯をじいっと見る。
多重に魔法がかけられているのがわかった。
傷口を塞ぐためなのか、他にも理由があるのか。
何故か、包帯やその下に貼り付けられているだろうガーゼにも魔法がかけられている。
そして、かすかにあの甘い匂いがした。
死んだじいさんの時に嗅いだ、死前臭。
もしかしたら、これが呪いの臭いなのかもしれない。
しかも、これだけ魔法を何重にかけても漏れ出てしまっているということだ。

「あと、傷に関しては俺に聞かれてもわからない。
糞担任か、ノームか、じいちゃんに聞いてくれ」

わからないわけが無いだろう。
嘘が下手くそになったな、こいつ。

「お前さ、俺が魔族だってこと忘れてないか?」

「忘れてない」

「そうか、それなら話が早い。
なら、俺が魔力の流れを読めるのも知ってるよな」

ヤマトがハッとして俺を見返した。
その顔には怯えがあった。
今朝の楽しそうな顔からは、程遠いそれ。
その顔に、またイライラしてくる。

「お前が言いたくないなら、もう、それはそれでいい。
自分で調べる」

こうなりゃ実力行使だ。
スレ民から聞き方についていろいろレクチャーされたが、イライラの方が勝って吹っ飛んでいた。
俺は、立ち上がってヤマトの横に座った。
ヤマトは、逃げようとしたけれどその動きはとてもゆっくりだ。
寮母さんがそれとなく、こちらを見てくる。

「殴り合いの喧嘩はダメだからね?」

釘を刺される。

「わかってますって」

「……はい」

多分、本気でボコろうとすればこいつの事だ。
これだけ隠したがっているなら、ノームを呼ぶはずだ。
それがない、ということはこれは許容範囲内と考えていいだろう。
ヤマトの首根っこを掴んで、座っていたソファに押し倒す。
両手首を片手でまとめて拘束し、ヤマトの体に乗り上げた。
そのまま、今は降りているシャツを今度は俺が捲し上げる。

「……やめろ」

ヤマトが、俺の手を掴み返してくる。
その手が震えていた。
お構いなく、俺はヤマトの腹に触れようとする。
これで、コイツが何に悩んでいるのかわかる。
そこで、ヤマトがカッと目を見開いて、

「やめろって言ってんだろーが!!
腹に触るな!!」

腹の底から怒鳴り声を出して、俺を蹴り飛ばした。
俺はソファから落ちた。
そこで、俺もハッとする。

え、今、なに、しようとしてた、俺??

俺は、自分の思うよりもずっとキレていたのかもしれない。

「ち、ちょっと!!」

寮母さんが声をあげ、俺たちのことを止めようとしてくる。
しかし、

「執拗いよ、お前?!
傷は見せたんだから、もういいだろ?!
それで満足しろ!!」

「……満足?」

不思議と出てきたのは、そんな言葉と笑いだった。

「もう、いい??」

ははは。
こっちがどんだけ心配してると思ってやがる。

「いいわけねーだろ!!」

「……っ!」

思わず怒鳴り返してしまった。
あきらかに、ヤマトは恐怖に怯えた目をしたが、もう止まれなかった。
近くにあった、壁を蹴りつける。
ビクッとヤマトの体が震えた。
そのままヤマトに近づいて、胸ぐらを掴む。
殴るのをグッと堪える。
本当は殴りたかった。
でも、こいつにはちゃんと言葉にしないと伝わらないと思ったのだ。

「お前さ、俺がどんだけお前のこと心配してるか、わかるか?
わかんねーよな。
春先の事もそうだ。
俺じゃなく、レイドを頼りやがった。
しかも、自分を始末させるためにだ!!
それを知った時、俺がどんな気持ちだったか、わかるか?!
わかんねーよな?!
わかってたら、どっかで相談してきたはずだ!!
でも、お前は絶対俺を頼らない。
誰かを頼っても、利用できるか否かで判断してるだろ!!
なんで、そこまでする!?
他人の為に、なんでそこまで出来る??!!
いつもいつも。
いつもいつもいつもいつも!!」

「……っ」

いろんな言葉を投げつけたかった。
でも、出てきたのは、

「……なんで、どうして、自分を大切にしようとしないんだよ?」

そんな、問いかけだった。
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