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二年生になりました(笑)

裏話4 ブラン&レイド視点

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 一年生の女生徒、ディアナと共にヤマトが寮を出ていくのを見送った後。
 まだ難しそうな表情をしているブランへ、レイドが問いかけた。

「それで、さっきのは一体なんなの??」

「さっきの??」

 ブランがすっとぼけて返す。

「ディアナちゃんの生徒手帳を確認したやつだよ」

 ブランは、レイドの言葉に盛大に息を吐き出した。

「……はぁ」

「ため息は、幸せが逃げるよ??」

 レイドの言葉に、ブランは心底嫌そうな顔をした。

「そんなことで幸せが逃げるなら、ヤマトアイツやお前はどんだけため息吐いてんだよ?」

「ま、たしかに。
 傍から見たら、俺や彼の生い立ちは幸せとは言えないよなぁ。
 まぁ、それは良いとして、答えは?」

 レイドに再度問われ、ブランは頭をガシガシと掻きながら答えた。

「……ヤマトが魔族の中でも一目置かれてるのは知ってるよな?」

「一応ね。魔族の、それも有力貴族の人達から随分熱烈なアピールを受けてるとかなんとか」

 魔族は基本実力主義の種族だが、そればかりでは色々回らない。
 主に、政治とか諸々。
 なので、貴族というものが存在する。
 貴族になれるのは、文武両道で力を示した優秀な者と決まっている。
 文字通り、選ばれし者が魔族にとっての【貴族】という存在なのだ。
 なので、魔王に次いで貴族とは憧れの対象であった。
 人間の種族と違い、公爵家とかそういう【家】ではなくあくまで個人に爵位は与えられる。
 ちなみに、人間やほかの種族に説明する時は、【政治家】だと言ったと方が納得されやすい。
 基本、血筋は重要視されない魔族だが、しかし、強い人からは強い子が生まれ易いという事実もある。
 そのため、

「そこまで知ってるなら話が早い。
 そのアピール、っつーよりお近づきになるためのプレゼントがひっきりなしに贈られてくるんだよ。
 年越しイベントでテレビに出たのが切っ掛けで、有力貴族からだけじゃなく、その貴族の娘さん、まぁお嬢様達からもな。
 実力を広めさせるために出させたんだが、そのせいで一目惚れしたお嬢様達が予想以上にいた。
 その子たちからのプレゼントってわけだ」

「おおー、ヤマトってばモテモテだ。
 羨ましいなぁ」

 レイドの言葉に、ブランは心底嫌そうに続けた。

「……そのプレゼントのチェックを俺がしてるんだが」

「検閲か。
 まるで、ブランが正妻か彼女みたいだな」

「……冗談でも笑えないぞ、それ。
 あと、ヤマトは彼女いるだろ。
 ヤマトに彼女がいるってことも、プレゼントの贈り主たちに伝えたんだけど。
 まぁ、それを伝える前からあったんだけど」

 段々と、ブランの言葉の歯切れが悪くなる。

「なに、カミソリや小指でも贈られてきたか??」

 レイドが冗談で言ってみる。
 すると、ブランが頭痛が痛そうな、なんとも言えない顔になった。

「異物混入したチョコレートが贈られてきてたんだよ」

「異物混入?」

 そこで、ブランは寮母に聞こえないように声を落とし、異物の詳細を口にした。

「そ、アンダーヘアー」

 さすがにこれには、レイドもドン引きしてしまう。

「それは、嫌がらせにもほどがあるな」

「違う違う。嫌がらせじゃないんだ。
 これ、古い魔術のひとつだよ。
 早い話が媚薬なんだ。
 いにしえの惚れ薬のひとつ」

「うわぁ、うっわぁ」

「しかも、ちゃんと効果があるときた。
 さすがに食わせるわけにはいかないだろ、アイツに」

「あ、あー、うん」

「プレゼントですらそんな強硬手段とってくるんだ。
 実際にヤマトのとこまで来る奴がいても不思議じゃないだろ」

 ブランの説明に、レイドは納得がいった。

「つまり、ブランはディアナちゃんが、魔界からわざわざ来たヤマトの熱烈なファンかもしれないと疑ってたわけか。
 それで、生徒手帳で諸々チェックしたと」

「偽装も疑われたからな。
 なんなら、この学園に不法侵入してることも考えられるし。
 ディアナが魔族じゃなければの話だけどな」

「で、その疑いは晴れたの??」

 ヤマトとディアナを二人っきりにしたのだから、疑い自体は晴れているのだろうことはわかったが、あえてレイドは聞いてみた。
 ブランは答えた。

「まぁ、白寄りのグレーってところか」

 と、そこでレイドは気づいた。

「あれ?
 でもそれなら、ヤマトの場合、鼻がいいから臭いでわかるんじゃ……」

 そう、ヤマトは毒の有無がわかるほど鼻がいい。
 実際、それで生徒会長の命を救っている。
 レイドの指摘に、ブランはまたも頭痛が痛そうな顔をした。
 そしてまた、盛大にため息を吐き出して、説明した。

「一回、手違いでヤマトの所にそのチョコが届いたことがあるんだ」

「へぇ」

「で、アイツ宛てだったってこともあって、ヤマトの奴、普通に開封して食おうとしたんだけど、まぁ、臭いで躊躇った。
 悪くなってるかもって気づいたんだが」

「だが?」 

 レイドが先を促す。

「とりあえず、味見しようとした」

「マジか。
 あ、でもなんとなくヤマトの気持ちはわかるかも。
 アイツ、【食】に対して物凄く執着してるから。
 多分だけど、過去に飢餓を体験したんだろうな」

 レイドの言葉は、真実その通りなのだろうとブランは思った。
 実家のことや、去年のこと。
 去年、寮を追い出されてから、ヤマトがすぐに行ったのが食料の確保だった。
 なんとなく、慣れてそうだとは思った。
 あの頃は農家出身だからだと考えていた。
 いや、農家出身ということもあったんだろう。
 けれど、たしかにヤマトは【食】に執着しているようにも見える。
 毒入りだとわかっていて、それでも失礼だからとわざわざその毒入り紅茶を口にする程度には、執着しているようにも見えた。

「……どんな体験だよ、それ」

 普通の家庭に育ったブランには想像もつかない過去だった。
 去年のゴタゴタで、発作を起こし、パニックになったヤマトを見るまでは考えもしないことだった。
 聞かれたレイドは、

「本人に聞けば?」

 あっけらかんと返した。
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