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マウント取ってタコ殴りすることには定評あるんだぜ?知ってたろ??

裏話6

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 ノームからの助言を担任のアールと、住居を提供している生徒会長へ話してみたが、案の定渋られた。
 それもそうだろう、賢者の新しい本体がいまだ逃走中なのだから。
 どこにいるか、もしくはここを見つけられてしまったのか、まるで分からないままだ。
 賢者の欠片が残した言葉により、ヤマト(体の方)が狙われているのは確実だ。
 おいそれと外になど出せない。

 「ヤマトはどうだ? 外に出たくはないか?」

 聞いた瞬間、ヤマトの表情が明るくなる。
 しかし、すぐに曇った。
 ぶんぶん、と首を横に振る。

 「我慢しなくていいんだぞ?
 どうしたい??」

 ブランが訊ねる。
 やはりヤマトは首を横に振った。

 「ぼくが遊ぶと、ウスノが可哀想だって、怒られるから遊ばない」

 「ウスノ??」

 誰だ? とブランと生徒会長が顔を合わせる。
 しかし、その名前を口にした途端、ヤマトの顔が真っ青になる。
 頭を押さえて、うずくまる。
 目を見開いて、なにかを思い出しているのか、叫ぶ。
 
 「あ、あぁ、ああああああああぁぁぁ?!?!」

 「おいっ!?
 落ち着け、大丈夫、大丈夫だから!!
 …………っ、ヤマト!!」

 ブランが名前を呼んで、落ち着かせようとする。
 続いて、生徒会長のアンクも手を伸ばして背中を撫でようするが、二人の手からヤマトは逃げる。
 そして、

 「ごめんなさい、ごめんなさい!! いい子でいます!!
 ずっとずっと、いい子でいます。
 ウスノの分も頑張ります。ウスノの代わりに頑張ります。
 もう二度と、ウスノには近づきません! タケルにも近づきません!!
 この家にも、近づきません!誓います。だから、だから!!
 ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!
 ゆるしてください。なんでもします。
 だから、痛くしないで、おとうさん」

 ヤマトは、癇癪よりももっと酷いパニック状態になってしまった。
 誰に対して謝っているのか。
 何に対しての謝罪なのか。
 ヤマトの事情を知らない二人にはわからない。

 ヤマトは叫んでいる。謝罪を口にしている。
 ガタガタと体を震わせながら、ごめんなさいを繰り返している。

 「ウスノ、ごめん。ごめんなさい。守れなくて、ごめんなさい。
 こんな時のための身代わりなのに、役立たずでごめんなさい」

 この一連の流れを、担任のアールだけは冷静に観察していた。
 しかし、ある程度のところで指を鳴らして、眠りの魔法を発動させる。
 ヤマトがフラフラと体を揺らす。
 やがて、力が抜けてその場に倒れ込む。
 それをアールが抱きとめた。
 
 「ずいぶんな扱われ方してたんだな、こいつ」
 
 アールが静かに呟く。

 「不可抗力とはいえ、何が原因でパニックを起こすかわからないな、こりゃ。
 というか、よく今まで生きてこれたな。
 逆に感心する」

 アールは眠らせたヤマトをヒョイっと持ち上げると、ベッドまで運んだ。
 念の為に、もう少し強めに魔法を掛けておく。
 これでしばらくは起きないはずだ。
 居間に戻ると、酷く疲れた表情のブランとアンクがぐったりしていた。

 「なんなんすか、あれ」

 それに答えたのは、生徒会長ことアンクである。

 「おそらく、記憶のフラッシュバックだろう。
 彼は、思った以上に問題のある家庭で育ったらしいな」

 「どうして、そんなのが今更?」

 「さて、退行している三歳の時期になにかしらあったから、とかではないかな?
 それでも、あんな風に三歳児が謝るのは異常という他ないが」

 そこに、大人のアールが口を挟んだ。
 
 「本当に幸せな家庭で育ったんだな、お前ら」

 ブランとアンクの視線が、担任に集まる。

 「大人の癇癪で理不尽な扱いを受ける子供の謝り方だ、アレは。
 言わせられてたか、テレビや本で覚えた言葉を必死に並べてたかは知らないが、ゆるしてください、なんでもします、誓います、はそういう子供から出る言葉だ」

 加えて、ウスノという存在。
 おそらく、ヤマトの実家で大切にされてきたであろう存在。
 身代わり、という言葉から考えて、ヤマトはウスノの身代わり要員だったのだろう。
 さらに、差別的なものをヤマトの父が持っていて、それ故に長男であるはずのヤマトへ辛く当たっていた。
 そして、ウスノのことは守るかのような扱いだったようなので。
 ここから導き出されるのは、

 「それと、多分だが、ヤマトは双子だ」

 そんな答えだった。
 
 
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