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実家帰省編

裏話1

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 さて、春休みである。
 春休みに入る前に、ブランや生徒会長から、彼らの実家に遊びにこないかというお誘いを受けたが、全て丁重に断った。
 これから農家は繁忙期に入っていくのだ。
 春は、田んぼの季節である。
 あと畑。
 雪も例年通り溶けてくれた。

 ブランや会長は、俺が実家に帰ることになにか言いたそうだったが、春の繁忙期は毎年のことだ。

 「春休みが終わっても、しばらく週末の度に実家帰ることになるんで。
 冬にあった交流試合、春にも別の学校とやるみたいですけど、出られませんからね」

 念の為にそう釘を刺す。
 少し前から、春先にも別の学校と交流試合をやるから遠回しに出てみないかと言われていたのだ。
 ここでキッパリ言っておく。
 春先の農家の子供にそんなものに出る暇はない。
 だから部活の練習を田植えで休んだりしても白い目で見ないで欲しい、とは何かしらの部活動をしている農家の子供は思っている。
 とくに、それこそ部活を指導すべき顧問とかに対して思っている。
 俺の幼なじみなんて吹奏楽部に中学時代入ってて、田植えを理由に休もうとしたら鼻で笑われて、つるし上げられたとか言ってたし。
 ま、楽器を大人になってまでやっている、続けている人というのはある程度収入が安定した家で育った人が多い。
 だから、わからないのだ、というのが幼なじみの言葉だった。
 アイツのこと宥めて無かったら、きっとあいつ顧問の首を絞めてたと思う。
 それくらい、人をイラつかせている。という事実がある。
 まぁ、今は関係ないけど。
 
 「それは残念」

 会長はそう言って引き下がった。
 ブランは、しかしなにか言いたそうだった。

 「お前、実家に帰って大丈夫なのか?」

 そう聞かれる。

 「親との仲は良い、とは言えないけど。
 仕事だからなぁ。
 でも、今年は従兄弟のとこにも手伝い行くから、オードブルとか寿司とか食べられるはずだし。
 実家の方も、他から手伝いの人達来てくれるらしいから帰る度にご馳走食える率高いんだよ」

 これには、ブランも会長も首を傾げる。
 ま、わからないだろうなぁ。
 ちなみに、幼なじみの家にも手伝いに行く予定である。


 さて、そんなわけで実家に帰ってきたわけだが。
 防犯意識皆無な田舎だ。
 鍵が開けっ放しで、戸を開けたら実家に侵入していた、野良猫と野良狸が出ていった。
 家には誰もいない。
 軽トラと、弟の自転車が無い。
 あと耕運機も無い。
 土詰めって言ってたから、ハウスのとこかな?
 俺は茶の間でジャージに着替える。
 ビニールハウスは、先週立てたって連絡が来てた。
 タオルタオル、これでいっか。
 あとは、水筒、水筒。あ、あったあった!
 勝手知ったる我が家だ。
 ものの位置も変わっていない。
 準備を整えて、いざ出勤だとなった時、来客があった。
 ごめんくださいも、なにもなく、その客はズカズカと家の中に入ってきた。

 あー、田舎だなぁ。
 
 「おや、タケル、いたんか」

 近所に住んでる、大叔父さんだった。
 近所と言っても、山一つ向こう側になるけど。

 「ヤマトです。お久しぶりです。おじさん」

 「おー!! ヤマトの方か!」

 タケルと言うのは、弟のことだ。
 ちなみに、年子だというのに俺と弟は双子のようによく似ている。
 なので、家族からも他人からも名前を間違われることが多々あった。
 さすがに母親は弟が推しなので見分けられる。
 あと、幼なじみもだ。
 だが、親父と爺ちゃんはダメだ。
 当てずっぽうで名前を言って、素で間違う。
 覚える気がまるで無い。
 たぶん、家にいる弟のこと呼ぶ時も未だに俺の名前で呼んでいる気がする。
 いや、確実に呼んでる。

 「爺ちゃんなら居ませんよ?」

 「そっかー。ついさっきドラゴンが罠にかかってたから締めて来たんだ。
 軽トラに積んである。
 どこ食いてぇ?」

 「……尻尾」
 
 ついつい答えた。
 
 「よし、じゃあ刃物かせ、切り取って作業小屋に置いておく」

 「やった! おじさんありがとう!!」

 あ、一応いま電話して親父には伝えておくか。
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