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第参章:この世界で二人生きていくためには

082.キュリットロスの心

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 「それはね、シフォンヌも離れるのが寂しいのだよ。なんだって、わたし達は五十年も相棒だったんだから。死の危険を幾度も掻い潜ってきた仲だから、彼女最後のミッションの時も・・・まあ、長くなるから折りを見て話すわ」

  「それにしても、この世界の魔道士ってどんな存在ですか? わたしが生まれた国では軍隊とか警察といった組織があって、その上に政府といった機関があったのですが、ここでは魔道士の方がそういった事をやったりしているようですが」

  「この世界にも数多くの諸侯が統治している領土があるわよ。でもね破局戦争ではそういった存在がエゴを生み出して暴力の温床になったとして権限が縮小されたのよ。そのかわり、イザコザがあったりトラブルがあったりしたら対処するこの世界全体をほぼ管轄する存在のひとつが魔道士というわけなの。
  まあ、仕事内容はいなくなった家畜を探す事から、暴君の除去までやったりすることもあるわよ」

  「暴君の除去ですか? そんな事をしてもいいのですか?」

  「場合によってはね。そういう依頼が来たときに妥当と判断した時に実行するわよ。実際にシフォンヌは二度ほど実行しているわよ。しかも彼女は最小限の犠牲で済ませたわよ」

一行の後ろの方に歩くネコ耳老婆ことシフォンヌがそんなにすごい女魔道士と聞いてアサミは意外だった。彼女は腰が曲がり歩くのもやっとの状態にみえたからだ。いくら、生まれた時から老人はいないといっても若いときは想像しずらかった。

  「いまのシフォンヌは老いてしまったけど、若いときは本当にやり手だったんだよ。報酬だって小国を幾つか買える位もらっていたのよ。まあ、その報酬の大半を恵まれない人々に分け与えたから残っていないけどね。
  彼女の最大の能力が潜入捜査と後方工作の巧さだったんだ。それで様々な人々の危機を救ってきたんさ。でも、最後のミッションで相打ちになって瀕死の重傷を負って引退したのさ」

  キュリットロスはアサミの心にそう語ってきた。そのときアサミは気になっていた。それほどすごい魔道士だったというのに、なぜ瀕死の状態に陥ってしまったんだろうかと。

  「キュリットロスさん。シフォンヌおばさんの最後のミッションに参加していなかったのですか?」

  「実はねえ、わたしは無力化されてしまったんだよ。相手の術中に嵌ってね。だからわたしも彼女と同じように酷い損傷を受けてしまってね。自己再生能力をもってしても前の状態に戻るまでには十年もかかってしまったわ。
  それでシフォンヌとまた相棒になりたかったのだけど、あのように身体を動かすのもやっとの状態なので諦めたのよ」

  「それじゃあ、さっきシフォンヌおばさんが言っていたように、なんで新しい相棒を選ばなかったのですか?」

  「シフォンヌにも何人か候補の女魔道士を紹介してもらったよ。いまのあなたよりも遥かに能力を持った娘もいたのさ。でも、何故か波長があわなかったのよ。もしかすると、あなたが今日此処に来るから待っていてという事だったかもね」

  「そんなにわたし、能力はありませんよ。まだ一度も魔道士の仕事をしていませんし・・・」

  「それは大丈夫よ。誰だって最初は何も出来ないんだから。それに潜在能力がなければあなたを相棒にしようとは思わないさ」

  キュリットロスに励まされたが、アサミは何かが起こる前触れだから自分が選ばれたのではないかと思っていた。
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