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11 (修羅場?)

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 パーティー直後、一同は国王陛下の執務室でも謁見の間でもない場所に招集された。そこは王宮にある一部の者しか存在することをしらされていない秘密の間だった。今回の事態は外部に漏れては困る王室のスキャンダル。そう判断されたからだ。そこは王宮中枢の玉座のある間の地下にあり、薄暗い部屋の中で松明たいまつがたかれていた。ここは別名を「火刑の間」といい、そこで取り決められた事の大半は半永久的に公開されないと噂されていた。だから、スキャンダルで王子などが失脚して処刑が決定されるときぐらいしか使われたことはないといわれていた。もっとも、そんな事態はもう半世紀以上も起きていなかったが。

 その場には騎士団長ツーゼ、カリンの父親もいた。彼の手は震えていることを感じ取ったカリンはこう思った。”もし、あのパーティー会場にいたらハインツ様は殴られていただろう” と。

 カリンの父は騎士団の女性騎士としては厳しい態度であったが、家庭内では溺愛といっていいほど甘やかしていた。特に婚約式から始まる一連の嫁入りの儀式のために必要な品物を、まだ日取りすら決まっていないのに伯爵家として相応しいものを注文していたほどだ。それらの品物に相当の私財を使っていたのは噂になっていた。

 「カリン、大丈夫か?」

 騎士団など世間の多くの者が知らない父の優しい声でカリンにたずねてきた。

 「はい、呆れていますが」

 カリンはあきらめた境地を装っていった。自分の本当の気持ちを偽って。

 「そうか?」

 この「火刑の間」は、現在では枢密院が秘密会を行うためのところであり、高い天井に相当の面積があった。だから先方のシファードルフ家側とは距離があった。この時、国王陛下は官房長官に命じ宰相府や宮内省など関係各所にいろいろと手配している様だった。

 小一時間後。国王陛下が入場してきた。この会議の議長を務めるために。この時すでに国王陛下の裁可が決定していた。事前に聴取した両者の調書で判断したようだ。ハインツの処分は決まっていた。後は形式的に本人たちの意見を聴取したうえで宣告するはずだった。

 「これから王孫ツファードルフ公爵令息ハインツとツーゼ特別伯爵令嬢カリンの婚約契約についての裁可を行う。事前にハインツ側からこの婚約契約をなかったものとしたいと申し入れがあったために行う。一同起立!」

 国王陛下自らが王族の婚姻に関する事で会議を行うのは異例で合った。通常は全て書面のやり取りだけでしか行わないものだから。それにしても、国王陛下は娘夫婦の爵位を言い間違えていたが、それだけ頭の中では違う感情が渦巻いていたのかもしれない。

 「それでは・・・まずはハインツ。そなたは婚約破棄を願い出たそうだが理由を述べよ」

 国王陛下がそう言うと、ハインツは少し震えながら言った。さきほどまでの尋問でカリンという婚約者がいたのを失念していたことを思い出したからだ。

 「陛下・・・申し訳ございません。わたくしはこちらの令嬢と結婚したいと思っていたのですが・・・令嬢カリンの事・・・彼女と婚約していたことを忘れておりました。それで手続きとして婚約破棄をしていただきたく・・・お願いします」

 ハインツは相当汗をかいている様だった。隣にいるローザ嬢は言葉が分からないのできょとんとしていた。一応、通訳をする官吏がいたので、少し遅れてリアクションしているようだった。

 「そなたは・・・まあ、ここで愚痴はよそう。会議を迅速にしたいからな。では、カリン。そちらの意見は?」

 カリンは証言台にむかった。このように緊張するのは試合でもなかったことだ。本当は、色々といいたいこともあったし、自分の気持ちを正直に言いたかったが。事前の打ち合わせ通りの事をいった。

 「わたくしカリンといたしましては、全てそちらのハインツ様のご希望通りの裁可になることを希望します。どのような裁可が下っても一切の異議を申しません。以上です」

 実は内々に裁可の内容がカリン側だけに伝えられていたのでカリンはそう述べた。これが婚約を維持するというものだったら。そういわなかった。後は、双方の弁護代理人が事実関係を整理した書類を提出した。この裁判に近い会議は結果が決まっているので全ては書面を秘密裡に残すための形式的なものだった。

 国王陛下は提出証拠を点検したうえで、ハインツに意見陳述するようにこう促した。

 「ハインツ。そなたはカリン嬢に対して何か述べる事はないか? 申し訳ないと思うのならなにかしら陳謝すること」

 そう述べる国王陛下の手は震えていた。それは国王ではなく祖父として表現できない怒りの感情からくるものであった。
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