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一・旅立ち

4.事故発生!

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 今となっては人間だった時の私は何が趣味でどんな家族構成だったのか、なぜワープ宇宙船に乗ったのか、そういったものを思い出せなくなっていた。なぜ、そんな記憶の欠落が起きたのか分からなかったが、ひとつだけ確かな事があった。私は機械フェチだったという事だ。なんとなく私はアリスのボディを纏いたいという願望があったのだ。

 私たちを乗せた59711便はほぼ二日かかりかけて、地球と火星の中間付近のワープ突入ポイントに到達した。そこから赤色矮星を公転するプロキシマ・ケンタウリbまで四光年ほどをワープするのであるが、生身の人間が耐えられるレベルにするため速度が抑えられるのが常である。だから早い速度でワープする宇宙船に搭乗するには身体組織の一部を機械化する必要があった。

 「わたしはこの船の運行システムを司るヴィクター・バンです。これより亜空間に突入します。乗客の皆様の活動は著しく制限されます。もしサポートが必要になりましたら客室乗務員をお呼びください。予定ワープ航行時間は地球時間で38時間50分、ワープアウト予定地点はプロキシマ・ケンタウリbから800,000キロです。到着されましたら”紺碧の第二の地球”をご覧になれると思います。それでは皆さん、良いワープ旅行を!」

 船内には59711便の全て任されている統括コンピューターの人工音声が響いていた。それを聞きながらモニターで小さくなった三日月のように見える地球を眺めていた。その時何を思っていたのかよく覚えていないけど、本当に私はおかしくなってしまったようだ。ほんの数日前の出来事だというのに!

 その時、アリスが戻ってきた。彼女はワープ突入前の最終チャックをブリッジで受けに行ったという事だった。それで私は彼女とお話をしていたけど、他愛のない内容だというのに思い出せなかった。

 「それでは亜空間に突入いたします。亜空間では人間の行動スピードは著しく低下しますので、必要な時は私にお申し付けください」

 アリスの言葉を聞いて私は安心した表情でその時を待っていた。ヴィクター・バンによるカウントダウンがゼロになった瞬間、モニターの地球は小さな点になり、それと太陽もあっという間に小さな点になってしまった。亜空間に突入し超光速航行を始めた59711便は通常空間ではなしえなかったスピードで空間移動を始めた。

 ただ移動速度は深宇宙探査のドキュメンタリーに出てくる光速ワープ船ほどではないので、さすがに星が飛び交うという感じではなかったけど、星が少しずつ後方に移動するように見えた。確実に59711便は目的地へ向かっていた。

 「どうですか? 星が流れていくのは? こういった光景をもっと見るためには身体の改造をお勧めいたしますわ」

 アリスは唐突にこんなことをいった。

 「改造って、サイボーグ化?」

 「ええ、そうですわ。でも大丈夫ですわ。サイボーグになっても生殖機能は無くなりませんし外観上は人間のままでいられますから。ただ、重力があるところで生活するのが困難になりますけどね」

 アリスはそういって私の横の予備ベットの上で寄り添っていた。ワープ航行中の生身の人間は動くのが難しい圧力のようなものを受ける、いわゆる金縛りのような状態なので、意識ははっきりしていても指を動かくのも難し状況だ。そんな状態が一日半以上も続くのだから堪らなかった。それなのでベットで横になって個室だというのをいいことに、好きな映画ファイルを見ていたけど、それも今となっては何を見たのか思い出せない。

 そんな状態でワープ突入から18時間後。わたしはベットでウトウトしていたとき、それは起きてしまった。突然、大きな衝撃が起きた直後に船内放送が始まったのだ。

 「ヴィクター・バンです! お客様に報告します! 亜空間上で大質量物体に遭遇! ワープ航行が遮断されました! なお通常空間への脱出に失敗した模様です! お客様は直ちに脱出準備行動を取ってください! 繰り返します・・・」

 ヴィクター・バンのただならぬ声に私は眠い頭で考えようとしていたけど、なんら考えが浮かばなかった。しかしアリスだけは違っていた。なにやら準備を始めたのだ。これはあってはならない事だった。
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