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誤った判断の償い
法務大臣の理論
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宝石を盗んだ罪はあったが、男に四人を殺し多額の金銭を奪ったとして処刑を命令したのは法務大臣の鷲尾平三郎であった。彼は世襲政治家で、いわゆる裕福な家庭で育った。また正義感はそれなりにあったので、死刑になるような犯罪者を多数生かしておいている現状はおかしいという認識をしていた。そのため、裁判員裁判で死刑が確定した死刑囚は早期に執行すべきだとしていた。そこで鷲尾は裁判員裁判で確定して、世論も大多数が執行を支持しているような死刑囚をドンドン死刑執行命令書を出していた。医師一家四人強盗殺人事件で控訴取り下げによって確定してから半年後に男、俗名は竹林真琴を処刑した直後に鷲尾はこんなことを記者会見で言っていた。
「私は刑事訴訟法475条第1項(注1)に定められた職務を全うしただけだ。まあ心境は穏やかでなかったが、社会正義の実現するのに極刑はやらざるを得ないことだ。
判事と裁判員の諸君をはじめ司法の慎重な判断を尊重すべきことである、だから行政の担当大臣である私も法律の規定があるから拒絶することなく命じたのだ。それに法律通りに確定から半年経過するまでに執行しなくちゃいけないんだから、当然第2項(注2)をしなくちゃいかねえだろ。再審請求もなく控訴取り下げで確定させたような死刑囚は自分で早く償いたいといっているんだろうから、その心意気に応えるのも被害者とその遺族のために必要なことだろう。だから人数が多くなっても社会が求めてのことだから当然だろ、それは!」
それに対し、ある記者が「そういわれますけど鷲尾大臣。多すぎないと思われませんか? 令和になってから大半の死刑執行命令はあなたがされているのですから、それはまさに死に神ではないですか? もう大臣になってから二十人以上も死刑執行命令書に署名しているのだから」と質問した事に逆上し、こう言い放った。
「私は司法の判断を尊重し法律に従って死刑を執行させているのだ! それを死に神に連れていかれたというのは違うではないか! あなたが言い草は執行された死刑囚に対する侮辱でしかない! そんな軽率な質問を平気でするなんて態度が世の中の風紀を悪くしているんじゃないか!
死刑にしなければならないような罪を犯したんだから、それに対する償いをしてもらったわけだ。死んで犯罪に対する報いを受けなければならなかったんだから、当然だと思う。犯罪行為によって人を殺めたんだから死をもって償うのは当然だろう。私も同じ立場なら潔く受け入れるぞ、法廷闘争という延命措置なんかせずに。
それに執行を命令した死刑囚は私だけでなく社会全体が死刑にする事を受け入れているのだから、その判断に間違いなどあるはずない。死刑制度はそのためにあるんだからな」
その一連のやり取りは、死刑制度は存続すべしという世論にとって歓迎され、死神と揶揄した記者は糾弾された。しかし、鷲尾がそういった四か月後、四人殺しの真犯人が判明し鷲尾の誤った判断で処刑を命じた事が確定した。それに対し鷲尾は次のような弁明をした。
「先ほど、死刑執行命令を出した竹林真琴さんですが、裁判所の判断は出ていませんが、どうやら誤った命令だったかもしれません。本人に謝罪したいと思いますが彼はおりません。謹んで・・・」
そこまで言ったところで鷲尾は記者たちの前で吐血した、そして・・・カメラの前で不帰の旅路についてしまった。大動脈解離による突然死だった。誰も何もすることは出来ず、記者たちや護衛の者も血まみれになった。その様子はテレビの生中継で全国民が目撃してしまった。誤った判断をした法務大臣は公約通りに死をもって償ってしまった。
吐血によって彼の自筆による声明文は何が書かれ何を言いたかったか分からなくなってしまった。これを見た多くの視聴者は突然死んだことに対し、竹林死刑囚の祟りだとか、間違った死刑執行命令に署名した誤った判断に対する償いなどと噂したが、ある恐ろしい考えがあった。もしかすると無辜と言い切れないまでも冤罪によって処刑されたことに加担した全ての者が罰せられなければならないのではないかと? すると、あと何人が・・・死ぬことになるのか?
(注1)刑事訴訟法475条第1項 「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」
(注2)刑事訴訟法475条第1項 「前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。」
「私は刑事訴訟法475条第1項(注1)に定められた職務を全うしただけだ。まあ心境は穏やかでなかったが、社会正義の実現するのに極刑はやらざるを得ないことだ。
判事と裁判員の諸君をはじめ司法の慎重な判断を尊重すべきことである、だから行政の担当大臣である私も法律の規定があるから拒絶することなく命じたのだ。それに法律通りに確定から半年経過するまでに執行しなくちゃいけないんだから、当然第2項(注2)をしなくちゃいかねえだろ。再審請求もなく控訴取り下げで確定させたような死刑囚は自分で早く償いたいといっているんだろうから、その心意気に応えるのも被害者とその遺族のために必要なことだろう。だから人数が多くなっても社会が求めてのことだから当然だろ、それは!」
それに対し、ある記者が「そういわれますけど鷲尾大臣。多すぎないと思われませんか? 令和になってから大半の死刑執行命令はあなたがされているのですから、それはまさに死に神ではないですか? もう大臣になってから二十人以上も死刑執行命令書に署名しているのだから」と質問した事に逆上し、こう言い放った。
「私は司法の判断を尊重し法律に従って死刑を執行させているのだ! それを死に神に連れていかれたというのは違うではないか! あなたが言い草は執行された死刑囚に対する侮辱でしかない! そんな軽率な質問を平気でするなんて態度が世の中の風紀を悪くしているんじゃないか!
死刑にしなければならないような罪を犯したんだから、それに対する償いをしてもらったわけだ。死んで犯罪に対する報いを受けなければならなかったんだから、当然だと思う。犯罪行為によって人を殺めたんだから死をもって償うのは当然だろう。私も同じ立場なら潔く受け入れるぞ、法廷闘争という延命措置なんかせずに。
それに執行を命令した死刑囚は私だけでなく社会全体が死刑にする事を受け入れているのだから、その判断に間違いなどあるはずない。死刑制度はそのためにあるんだからな」
その一連のやり取りは、死刑制度は存続すべしという世論にとって歓迎され、死神と揶揄した記者は糾弾された。しかし、鷲尾がそういった四か月後、四人殺しの真犯人が判明し鷲尾の誤った判断で処刑を命じた事が確定した。それに対し鷲尾は次のような弁明をした。
「先ほど、死刑執行命令を出した竹林真琴さんですが、裁判所の判断は出ていませんが、どうやら誤った命令だったかもしれません。本人に謝罪したいと思いますが彼はおりません。謹んで・・・」
そこまで言ったところで鷲尾は記者たちの前で吐血した、そして・・・カメラの前で不帰の旅路についてしまった。大動脈解離による突然死だった。誰も何もすることは出来ず、記者たちや護衛の者も血まみれになった。その様子はテレビの生中継で全国民が目撃してしまった。誤った判断をした法務大臣は公約通りに死をもって償ってしまった。
吐血によって彼の自筆による声明文は何が書かれ何を言いたかったか分からなくなってしまった。これを見た多くの視聴者は突然死んだことに対し、竹林死刑囚の祟りだとか、間違った死刑執行命令に署名した誤った判断に対する償いなどと噂したが、ある恐ろしい考えがあった。もしかすると無辜と言い切れないまでも冤罪によって処刑されたことに加担した全ての者が罰せられなければならないのではないかと? すると、あと何人が・・・死ぬことになるのか?
(注1)刑事訴訟法475条第1項 「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」
(注2)刑事訴訟法475条第1項 「前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。」
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