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 俺マキシムはジャンヌに片思いしているのかもしれないと思っている。彼女が全然本気にしていないようにも感じるからだ。でも、大貴族どもの前で婚約を宣言してしまったので、後に引けなくなっていた。

 「王太子殿下、申し訳ございません。取り込み中ですのでお引き取りください」

 看護師長に追い出されてしまい、俺は病院を後にした。護衛の者に何か手づたう事があれば手伝えという指示を出した。それといつものように「デート代」として銀貨50シリングを義援金として事務員に渡した。いつもならもう少し長い時間すごせたかもしれないが、仕方ない事だった。いつも彼女は仕事だから。休みの日にデートらしいことといえば、せいぜい湖畔でお茶ぐらいしかしたことがなかった。ましてや男と女の関係になんかなったことはなかった。

 それなのに、俺の耳に届くジャンヌの噂は酷いものだ。将来の王妃としての権力と財力を狙ったとか、ウソの換言でマリアンヌを追い出したとかである。まあ、そういわれても仕方ないが、彼女に責任はない。フツーの婚約破棄ならそう想像されるだろうから。

 そうそう、マリアンヌがジャンヌをイジメたというのは事実だ。マリアンヌはジャンヌが働いている病院について意見を述べたときに、ジャンヌが反抗的な態度をとったので、取っ組み合いのケンカをしたのだ。よくよく事情を聴くと双方とも誤解していたので、両者とも悪いといえた。でも、俺が糾弾したのはマリアンヌだけだったが。

 そのとき、マリアンヌを追い出し、新たな婚約者にジャンヌを据える事も頓挫しかかったとき、大きな危機が俺を襲おうとしていた。
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