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(7)ナオミ人形娘を作る

073・計画発動

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 その日、綾音と玲奈が通う学校の二年生60名は「若草物語」観劇のためにバスに乗った。バスはほかの学年もあったので全部で6台が校庭内にいた。バスは「帝都電鉄観光バス」と大手鉄道会社の関連企業名が書かれており、それなりに綺麗なバスだった。そのバスの後ろには覆面パトカーもいた。

 覆面パトカーは首都警視庁所属で、この学校の女子生徒のなかには大企業の幹部や国会議員など、この国の上級国民の子女が多数含まれているための措置だった。また一般には報道されていないが各地で若い男女が集団失踪する事態が起きており、万が一に備えてのものだった。

 「なんですか、あの人たちは、顔が怖い」

 玲奈が見た先には屈強な男たちの姿があった。いづれも首都警視庁警備局所属のSPたちだった。

 「仕方ないわよ。なんだって物騒なんだから」

 二人の担任の内之倉麻理は玲奈の視界を遮るように入った。麻理もいきなり予定が変更された事に戸惑っていた。予定では全学年がクラシックコンサート観覧のはずだったのに、「警備上の問題」を理由に学年別に会場が変更されたからである。二年はなぜか「等身大の人形劇」という説明であった。

 「先生、等身大の人形劇ってまさかアニメの魔法少女のぬいぐるみショーみたいなものですか?」

 生徒の一人にそう質問されたが麻理も今朝知ったばかりで十分な説明が出来なかった。この時期、政府によって陰謀論の流布を防止するという理由でネットの検索エンジンの利用が制限されていて、劇団・ドーラーミラージュの事を調べてもあんまりわからなかった。

 「着ぐるみ美少女ばかり出るんじゃないかしらね。実は先生は大学時代に魔法少女マロンの着ぐるみショーのアルバイトでステージに立ったことがあるわ。こうやってマジカルアタック! なんてね」

 「先生って、マロンだったの?」

 「マロンじゃないわよ。脇の女の子よ。わたしはマジカル・ドリアンよ」

 「ドリアン? なんかイメージに合わないわ! ドリアンってぽっちゃりよ!」

 「そうよ、あの頃はぽっちゃりだったのよ!」

 「じゃあ先生ってすごく痩せたんだあ!」

 そんな会話をしていたのは、父親がアニメのプロデューサーだという二階堂志穂だった。玲奈はそういえば志穂の父親の代表作って魔法少女マロンだというのを思い出していた。

 一行は出発し学年ごとに覆面パトカーが後ろについていた。二年生のばす二台は首都循環高速のインターチェンジに向かっていたが不測の事態が発生してしまった。なぜかデモ隊が行進していたのだ。

 「ちょっと、事前に届け出があったか? 調べろ!」
 
 覆面パトカーに乗務していた警部は部下に端末を操作させた。

 「あのデモ隊は・・・おそらく外国人および国内難民排斥を訴える極右集団”黄金プラン”ですね。おかしいなあ・・・って、バスの方が間違っている!」

 「そんなはずねえだろ!」

 警部がそう思ったのは、警備上の理由で事前にカーナビにセットしたコースを行くようにしていたはずで、デモ隊と遭遇しないように設定しているはずだった。しかも覆面パトカーも同じように表示されていた。
 
 この黄金プランは政権の別働隊という噂があった。大衆の不満を政権からそらすために存在していると。このとき、さらに非常事態が発生した。黄金プランのデモ隊に抗議する人々が四方八方から押し寄せてきた。

 「なんだよ! とにかく本部に!」

 警部は連絡を取ろうとしたが、なぜか通信が途絶してしまった。

 「連絡が取れません!」

 部下は焦って反応しないタブレットを端末のパネルをたたいていた。そのとき、覆面パトカーはデモ隊に囲まれていた。

 「どういうことなんだ? デモ隊がなぜ?」

 警部は何が起きているのかわからなかったが、デモ隊は覆面パトカーを持ち上げてそのままトラックの中へと押し込んでしまった! これから何が起きるのか想像もできなかった。

 「先生、なんかデモ隊が前にいますわ」

 玲奈はいつの間にかデモ隊と並走しているのが不安に思った。そのとき、歩道の方から反対派が入り込んでくるのがわかった。それには生徒たちが動揺しはじめた。

 「生徒の皆さん、大丈夫です。あなたたちを襲うことはありません。それに護衛の方が後ろにおられますので不測の事態が起きても大丈夫です。もしデモ隊に囲まれてもこのバスは防弾仕様になっていますから中にいたら問題ありません!」

 運転手はそういったが、道に抗議する人々が入り乱れてそれらしき車両が見えなかった。しかし、デモ隊がいないところまで来ると、覆面パトカーらしいものが見えて生徒たちは安心した。

 「ほうら、大丈夫よ! さっきの怖い人たちがいるからね」

 麻理先生はクラスでも気の弱い生徒をなだめていたが、覆面パトカーがすり替わった事に誰も気づかなかった。乗車しているのは制服警官であったが、それが”鵺の会”が放った工作員であった。ここから二年生60名と引率教師4名を人形娘に改造する計画が発動された。
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