全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

文字の大きさ
上 下
142 / 171
第三章 

誤解しちゃうよ?

しおりを挟む
 翌日はいたって平和だった。
 廊下を歩いているとヒソヒソ話されるのは日常になったけど、クラスのみんなは変わりなく、むしろ『大変だね……』と同情的なのが助かる。
 もちろん、菜摘ちゃんもさやちゃんも変わらずどころか、一緒になって憤慨したり、たまに暴言を吐いてくる人を撃退してくれたりと本当に心を救われている。

「この話題に飽きるのを待つしかないね……」

 菜摘ちゃんが悔しそうに言ってくれるから、「ごめんね」と言うと、「優が悪いんじゃないでしょ!」と頬を引っ張られた。
 そのままむにっと上に口角を上げられて、「優は笑ってなさいよ」と無理やり笑顔を作らされる。

「変顔~!」

 さやちゃんが笑うから、私もおかしくなって、笑いながら二人に抱きついた。

「ありがと!」




 放課後、部室に行く。
 今日もホームルームが長引いて、ちょっと遅めだ。
 トントンとノックして名乗ると、遥斗先輩がドアを開けてくれる。
 私が中に入るとすぐ、じっと見つめて「今日はなにもなかったか?」と聞いてくれる。
 それがうれしくて笑顔になる。

「はい! 全然なにもなかったです」
「そうか、よかった」
 
 溜め息をついて、先輩は絵に戻っていった。

「ここには相変わらず?」
「まぁ、来ることは来るが少し減ったかな?」
「そうですか……」

 なんとなく先輩のあとをついていって、描きかけの絵を見る。
 先輩は川辺でスケッチした絵を元に風景画を描いている。あの私が描かれていたスケッチだ。
 油絵の中にも私がいる。
 まだ茶色い線で、もにょもにょっとした塊だけど。

 あのときは楽しかったなぁ。
 遥斗先輩もすごくリラックスしてて、柔らかい表情がいっぱい見られた。
 また行きたいなぁ。

 そう思うけど、好きと自覚すると、そんなに気軽には誘えなくなってしまった。

 参考にしたいと言うから、私の撮った写真も提供している。
 役に立っているようで、なんかうれしい。

 水彩画のときも思ったけど、先輩の手は魔法みたいで、筆を動かすたびに、水面のキラメキが追加されていって、綺麗で不思議。
 特別な色を使っているわけじゃないのにね。


 穏やかな時間を過ごして、私が帰ろうとすると、また送ってくれると言う。

「大丈夫ですよ。今日は誰も来なかったし、落ち着いてきたのかも」
「散歩がてらに行くだけだ」

 日頃、散歩なんてしないくせに、そんな風に言ってくれるから、お言葉に甘えてしまう。
 一緒に帰れるのはうれしいから。

「日が長くなってきましたねー」

 18時過ぎなのにまだ明るい。
 のんびりと歩きながら、家へと向かう。

「そうだな」

 6月に入って、だんだん湿度が高くなってきたけど、今日はわりとさらっとした天気だった。

「あ、紫陽花が咲いてる! そっか、そんな季節か」
「季節の花の絵も描いた方がいいか?」
「そういえば、そうですね! 本当は季節先取りがいいのかもしれないけど」

 手作りサイトで売りに出している絵のことだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...