165 / 171
第三章
突然の別れ④
しおりを挟む
「優………別れよう」
そう言われて、理解できずにぽかんとする。
「え……?」
「優、別れてくれ」
冗談でも聞き間違いでもなく、真剣な顔で遥斗先輩が言う。
「い、嫌です! なんでですか!?」
先輩の袖を掴んで首を横に振ると、先輩は苦い表情で目を逸らした。
「俺は……やっぱり人間として壊れているんだ。お前のそばにいるのに似つかわしくない」
「どういうことですか?」
嫌われたのではないことはわかって、安心したけど、やっぱり意味がわからない。
さらに問いただすと、先輩は言おうかどうか躊躇した。そして、しばらくして重い口を開いた。
「……母親が亡くなったと聞いたとき、ぽっかり穴が空いた感じと共に、ホッとしたんだ。実の母親が死んだというのに、心が乾いてて涙のひとつも出ない」
先輩が唇を噛む。
溜め息をついて続けた。
「それに、多分母はアル中になっていたんだと思う。母親のことを思えば病院に連れていくべきだった。でも、俺は関わりたくなくて放置したんだ。いつかこんなことが起こるかもしれなかったのに。こんな欠陥人間にお前を幸せにできるはずがない。お前のそばにいる資格がないんだ、俺は」
俯き加減でそう言う先輩の頬を両手で摘んで、思いきり横に引っ張った。
先輩が驚きに目を見開く。
怒った。すごく怒っている。勝手に決めつけている先輩に。そんなことで別れようと言い出した先輩に。
先輩を睨みつけて怒鳴る。
「もうっ、またそれですか! 私の幸せは私が決めるって言ったでしょ? 私がなにが嫌いでなにが好きか、なにで幸せを感じるか、それはぜんぶ私が決めることです! それは大好きな先輩にだって決められません!」
先輩は私の勢いに絶句していた。
私が手を離すと痛かったのか、先輩は頬に手をやった。
その上から手を重ねて、じっと先輩の目を見つめた。
「………お母さんだって大人なんだから自分で病院に行けたと思います。例えば、先輩はあのスナックのママがお母さんを病院に連れていかなかったことをひどいと思いますか?」
私が聞くと、先輩は首を振って否定した。
「ほら、先輩と同じですよ。そばにいて、うすうすわかっていた。病院に連れていったらよかったかもしれない。でも、そこまで先輩が責任を感じることもないんです」
「それでも……」
先輩が言い募ろうとするので、かぶせて言葉を続ける。
そう言われて、理解できずにぽかんとする。
「え……?」
「優、別れてくれ」
冗談でも聞き間違いでもなく、真剣な顔で遥斗先輩が言う。
「い、嫌です! なんでですか!?」
先輩の袖を掴んで首を横に振ると、先輩は苦い表情で目を逸らした。
「俺は……やっぱり人間として壊れているんだ。お前のそばにいるのに似つかわしくない」
「どういうことですか?」
嫌われたのではないことはわかって、安心したけど、やっぱり意味がわからない。
さらに問いただすと、先輩は言おうかどうか躊躇した。そして、しばらくして重い口を開いた。
「……母親が亡くなったと聞いたとき、ぽっかり穴が空いた感じと共に、ホッとしたんだ。実の母親が死んだというのに、心が乾いてて涙のひとつも出ない」
先輩が唇を噛む。
溜め息をついて続けた。
「それに、多分母はアル中になっていたんだと思う。母親のことを思えば病院に連れていくべきだった。でも、俺は関わりたくなくて放置したんだ。いつかこんなことが起こるかもしれなかったのに。こんな欠陥人間にお前を幸せにできるはずがない。お前のそばにいる資格がないんだ、俺は」
俯き加減でそう言う先輩の頬を両手で摘んで、思いきり横に引っ張った。
先輩が驚きに目を見開く。
怒った。すごく怒っている。勝手に決めつけている先輩に。そんなことで別れようと言い出した先輩に。
先輩を睨みつけて怒鳴る。
「もうっ、またそれですか! 私の幸せは私が決めるって言ったでしょ? 私がなにが嫌いでなにが好きか、なにで幸せを感じるか、それはぜんぶ私が決めることです! それは大好きな先輩にだって決められません!」
先輩は私の勢いに絶句していた。
私が手を離すと痛かったのか、先輩は頬に手をやった。
その上から手を重ねて、じっと先輩の目を見つめた。
「………お母さんだって大人なんだから自分で病院に行けたと思います。例えば、先輩はあのスナックのママがお母さんを病院に連れていかなかったことをひどいと思いますか?」
私が聞くと、先輩は首を振って否定した。
「ほら、先輩と同じですよ。そばにいて、うすうすわかっていた。病院に連れていったらよかったかもしれない。でも、そこまで先輩が責任を感じることもないんです」
「それでも……」
先輩が言い募ろうとするので、かぶせて言葉を続ける。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる