上 下
134 / 171
第三章 

すごい!①

しおりを挟む
「おはよー」

 元気よく挨拶した私に、さやちゃんが振り向いて、ぷっと吹き出した。

「おはよー。って、優、もう遥斗先輩と仲直りしたの!?」
「えー、そんなにわかる?」
「そりゃ、わかるわよ。顔が緩みきってるもん」

 さやちゃんにそう言われて、えぇーっと顔を手で押さえて隠す。
 昨日から緩んでいる自覚はある。
 恥ずかしい……。

「あとで詳しく聞かせなさいよ!」
「………わかった」
「お昼はまた屋上ね」

 さやちゃんはにやっと笑った。



 昼休みは予告された通り、屋上で洗いざらい白状させられて──さすがに抱き寄せられたのは黙っていた──二人にキャーキャーはやし立てられる。

「ご飯を一緒に食べるってポイント高いよねー」
「遥斗先輩を餌付けしてると思ったら、逆に食べさせられるなんてねー」
「餌付けって……」
「でも、もうお弁当は持って行かないんでしょ? 餌付けの次の作戦は?」
「餌付けなんてしてないし、作戦なんてないよ!」

 からかう二人に叫んで、口を尖らせる。

 遥斗先輩が平穏無事に絵を描いて過ごせたら、それを見ていられたら、私はそれでいいのに。

 それを一生懸命説明したら、「ふ~ん、それでいいんだ?」とかわいそうな子を見るように見られた。
 なんでよ!




 放課後は、菜摘ちゃんと新聞部に行って、坂本先輩に選んだ写真と記事の文章を見せる。

「おぉ、いいじゃないか! 初めて書いたとは思えないな。これならそのまま使えるよ」

 合格だったみたいで、坂本先輩に褒められて喜ぶ。
 よかったね、と菜摘ちゃんも一緒に喜んでくれる。

「正直、文は俺が作らないといけないかなと思っていたんだが、助かるよ。これなら来月の記事も任せられるな」

 そうだ、来月もあったんだ。また、遥斗先輩に手伝ってもらわなきゃ。
 次の陸上部は、まとめるのが難しそうだなぁ。

 データをメールするように言われたので、部室のパソコンから送ると言って、新聞部を出た。


 部室の前で、真奈美先輩と鉢合わせた。

「こんにちは、真奈美先輩!」
「あら、優ちゃん、こんにちは。ここに来るってことは、もう遥斗と仲直りしたの?」
「はい。おかげさまで」
「なーんだ、心配して損しちゃった」

 拍子抜けしたような顔をしている。
 真奈美先輩も気にしてくれていたんだ。
 なんか申し訳ない……。

「ま、いいわ。せっかく来たからちょっと遥斗の顔見ていくわ」

 一緒に部室の中に入っていく。

「こんにちはー!」
「一週間ぶりー、遥斗」

 真奈美先輩が手を振ると、遥斗先輩が眉をあげた。

「なんか用か?」
「べつにー。様子を見にきただけよ。元気そうね」
「まぁな」

 相変わらずのそっけなさ。

 私は二人の会話を横目にパソコンを立ち上げて、自分のメールを開けた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...