上 下
106 / 171
第二章 ― 遥斗 ―

もうやめた②

しおりを挟む
 翌日は勉強をしたあと、ネットでパステルの技法を検索してみた。
 水彩と一緒に使っているのがやって見たくて、あれこれ試してみる。
 やっぱりパステルの色は好きだな。

 ふと思って、優と初めて出会ったときの朝焼けを思い浮かべて描いてみる。
 ……こうじゃないな。イメージが違う。思った色じゃないな。
 何枚も何枚も夢中になって描いた。

 朝の光。幸せしかないように思える光景。
 それを想像すると、自然と優の顔が思い浮かんだ。

 優……お前は光だ。希望の光。すべてを照らす光。

 いつのまにか、朝焼けのイメージと優が重なって、満足いく絵ができあがっていた。

 そこへ優がやってきた。

「こんにちは」
「あぁ」

 動揺して、言葉少なく挨拶をする。

「あっ、パステルを使っているんですね」
「あぁ、ネットで見たら、おもしろい使い方がいろいろ載っていたから試してみたくなった」
「ベースは水彩画なんですね」

 優がとことこと近くに来て、じっと絵を見る。

「これは朝焼けですか?」
「うん、まぁそうかな」

 最初は朝焼けのつもりだった。それがいつの間にか優のイメージになっていたなんて、本人に言えるはずもない。
 俺は言葉を濁して答えた。

「この絵、できたら欲しいな」

 ぽつりと優がつぶやいた。
 優を想って描いた絵を本人が欲しがるなんて、なんだかおかしい。

「じゃあ、2000円」

 おもしろくなって冗談でそう言うと、案の定、優が膨れた。

「えー、お金取るんですか!?」
「なんでも売れるものは売るんだろ?」

 優のセリフを真似して笑ってみせると、優が財布を取り出すから慌てて止めた。

「冗談だ。お前から金なんてもらえるかよ」
「うー、でも、払いますよ! お母さんからもお金を取っちゃったし」
「いらない」
「でも、人にお金を出させといて、自分は払わないのは……」
「お前からはいらない」
「でも……」

 優には散々世話になっているのに、その上、金を取るなんてできるわけがない。
 それなのに、優はまだ納得していない様子で、くだらない冗談を言わなければよかったと後悔する。 

「あぁーーっ、じゃあ、プレゼントだ! 俺からもらったって言ったらいいだろ!」
「プレゼント……?」

 やけになって叫ぶと、優が赤くなるから、つられて俺も頬が熱くなってしまい、横を向く。

「あ、ありがとうございます」
「別に、習作だ。礼を言われるようなもんじゃない」
「でも、ちゃんとサイン入れてくださいね。先輩が有名になったら高く売れるかもしれないし」
「売るんかよ」
「ふふっ、うそです。売りません。大事にします」
 
 正直、この絵は手元に置いておきたかった。でも、優の部屋に大事に飾られると思えば悪くないと思う。
 そんなやり取りをしていると、時間が経っているのに気づき、ちらっと時計を見た。
 その仕草に優が「じゃあ、これで帰りますね」と言った。

 すまないと罪悪感を覚えながら、その姿を見送った。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない

釧路太郎
青春
 俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。  それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。  勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。  その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。  鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。  そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。  俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。  完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。  恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。  俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。  いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。 この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

世見津悟志の学園事件簿

こうづけのすけ
青春
高校二年生の世見津悟志が紡ぐ、怪奇なことがよく起こるこの学校と地域の伝承伝説に触れてゆく。個性豊かなクラスメイトと、土地を訪ねるごとに関りを持つ人々。世見津悟志が、青春と怪奇な世界とを行き来する学園青春サバイバルサスペンス。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...