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第二章 ― 遥斗 ―
もうやめた②
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翌日は勉強をしたあと、ネットでパステルの技法を検索してみた。
水彩と一緒に使っているのがやって見たくて、あれこれ試してみる。
やっぱりパステルの色は好きだな。
ふと思って、優と初めて出会ったときの朝焼けを思い浮かべて描いてみる。
……こうじゃないな。イメージが違う。思った色じゃないな。
何枚も何枚も夢中になって描いた。
朝の光。幸せしかないように思える光景。
それを想像すると、自然と優の顔が思い浮かんだ。
優……お前は光だ。希望の光。すべてを照らす光。
いつのまにか、朝焼けのイメージと優が重なって、満足いく絵ができあがっていた。
そこへ優がやってきた。
「こんにちは」
「あぁ」
動揺して、言葉少なく挨拶をする。
「あっ、パステルを使っているんですね」
「あぁ、ネットで見たら、おもしろい使い方がいろいろ載っていたから試してみたくなった」
「ベースは水彩画なんですね」
優がとことこと近くに来て、じっと絵を見る。
「これは朝焼けですか?」
「うん、まぁそうかな」
最初は朝焼けのつもりだった。それがいつの間にか優のイメージになっていたなんて、本人に言えるはずもない。
俺は言葉を濁して答えた。
「この絵、できたら欲しいな」
ぽつりと優がつぶやいた。
優を想って描いた絵を本人が欲しがるなんて、なんだかおかしい。
「じゃあ、2000円」
おもしろくなって冗談でそう言うと、案の定、優が膨れた。
「えー、お金取るんですか!?」
「なんでも売れるものは売るんだろ?」
優のセリフを真似して笑ってみせると、優が財布を取り出すから慌てて止めた。
「冗談だ。お前から金なんてもらえるかよ」
「うー、でも、払いますよ! お母さんからもお金を取っちゃったし」
「いらない」
「でも、人にお金を出させといて、自分は払わないのは……」
「お前からはいらない」
「でも……」
優には散々世話になっているのに、その上、金を取るなんてできるわけがない。
それなのに、優はまだ納得していない様子で、くだらない冗談を言わなければよかったと後悔する。
「あぁーーっ、じゃあ、プレゼントだ! 俺からもらったって言ったらいいだろ!」
「プレゼント……?」
やけになって叫ぶと、優が赤くなるから、つられて俺も頬が熱くなってしまい、横を向く。
「あ、ありがとうございます」
「別に、習作だ。礼を言われるようなもんじゃない」
「でも、ちゃんとサイン入れてくださいね。先輩が有名になったら高く売れるかもしれないし」
「売るんかよ」
「ふふっ、うそです。売りません。大事にします」
正直、この絵は手元に置いておきたかった。でも、優の部屋に大事に飾られると思えば悪くないと思う。
そんなやり取りをしていると、時間が経っているのに気づき、ちらっと時計を見た。
その仕草に優が「じゃあ、これで帰りますね」と言った。
すまないと罪悪感を覚えながら、その姿を見送った。
水彩と一緒に使っているのがやって見たくて、あれこれ試してみる。
やっぱりパステルの色は好きだな。
ふと思って、優と初めて出会ったときの朝焼けを思い浮かべて描いてみる。
……こうじゃないな。イメージが違う。思った色じゃないな。
何枚も何枚も夢中になって描いた。
朝の光。幸せしかないように思える光景。
それを想像すると、自然と優の顔が思い浮かんだ。
優……お前は光だ。希望の光。すべてを照らす光。
いつのまにか、朝焼けのイメージと優が重なって、満足いく絵ができあがっていた。
そこへ優がやってきた。
「こんにちは」
「あぁ」
動揺して、言葉少なく挨拶をする。
「あっ、パステルを使っているんですね」
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「ベースは水彩画なんですね」
優がとことこと近くに来て、じっと絵を見る。
「これは朝焼けですか?」
「うん、まぁそうかな」
最初は朝焼けのつもりだった。それがいつの間にか優のイメージになっていたなんて、本人に言えるはずもない。
俺は言葉を濁して答えた。
「この絵、できたら欲しいな」
ぽつりと優がつぶやいた。
優を想って描いた絵を本人が欲しがるなんて、なんだかおかしい。
「じゃあ、2000円」
おもしろくなって冗談でそう言うと、案の定、優が膨れた。
「えー、お金取るんですか!?」
「なんでも売れるものは売るんだろ?」
優のセリフを真似して笑ってみせると、優が財布を取り出すから慌てて止めた。
「冗談だ。お前から金なんてもらえるかよ」
「うー、でも、払いますよ! お母さんからもお金を取っちゃったし」
「いらない」
「でも、人にお金を出させといて、自分は払わないのは……」
「お前からはいらない」
「でも……」
優には散々世話になっているのに、その上、金を取るなんてできるわけがない。
それなのに、優はまだ納得していない様子で、くだらない冗談を言わなければよかったと後悔する。
「あぁーーっ、じゃあ、プレゼントだ! 俺からもらったって言ったらいいだろ!」
「プレゼント……?」
やけになって叫ぶと、優が赤くなるから、つられて俺も頬が熱くなってしまい、横を向く。
「あ、ありがとうございます」
「別に、習作だ。礼を言われるようなもんじゃない」
「でも、ちゃんとサイン入れてくださいね。先輩が有名になったら高く売れるかもしれないし」
「売るんかよ」
「ふふっ、うそです。売りません。大事にします」
正直、この絵は手元に置いておきたかった。でも、優の部屋に大事に飾られると思えば悪くないと思う。
そんなやり取りをしていると、時間が経っているのに気づき、ちらっと時計を見た。
その仕草に優が「じゃあ、これで帰りますね」と言った。
すまないと罪悪感を覚えながら、その姿を見送った。
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