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第二章 ― 遥斗 ―
施しはいらない②
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「あ、やばい。行かなきゃ。お弁当ここに置いておきますね。ネットでいろいろ調べてみてください」
後ろ髪を引かれるような表情で俺を見ると、優は急いで出ていった。
はぁ……。
俺は深い溜め息をついた。
頭に血がのぼって、優を拒否するような態度を取ってしまった。
本当にネットで売ろうと思っていたのか?
確かに、絵の写真を撮っていたが。
俺はのろのろとパソコンの前に移動して、優の言っていた『手作りサイト』と検索してみた。
いくつかのサイトが表示されて、その中には俺でさえ聞いたことがある会社の運営するものもあった。
そのサイトを開いてみて、『絵画』と入れてみると、様々な絵が出てきた。
ほとんどが素人らしく、これを売るか?と思うようなレベルのものもあれば、中にはプロの画家が描いたものもあった。
値段も数百円のものから数十万円のものまで様々だった。
確かに、ここなら俺の絵も売れる可能性はあるのか?
俺が感じたのは被害妄想だったのか?
そう思ったが、優が俺に同情しているのは紛れもない事実で、それを不甲斐なく思った。
先程まで夢中だった水彩画もパステル画も描く気が起きず、慣れた油絵に戻り、心を落ち着けることにした。
しばらくして腹が鳴って、弁当を食べ忘れていたことに気づいた。
筆を置いて、食事にすることにした。
蓋を開けると、優の心尽くしの弁当が目に入る。
たぶん、栄養バランスも考えて、肉も魚も野菜も散りばめられている。
優……こんなに尽くさなくていい。
おせっかいなお前は放っておけないのかもしれないが、俺はたまらない気持ちになるんだ。
弁当を食べ終わると、頭を空にするように油絵に打ち込んだ。
トントン……。
昼頃、ノックの音がした。
優か……?
そう思うが、なかなか入ってこない。
不思議に思って、ドアを開けると、見知らぬ女の子がいた。
緊張して強張った顔をしたその子は、俺を見ると目を見開いて、じっと見ていたが、意を決したように口を開いた。
「あの! 食べ物を持ってきたら抱いてくれるんですか!?」
このタイミングか……。
俺は瞬時目をつぶった。
「あぁ、そうだな。カップ麺10個ぐらいでどうだ?」
「わかりました。いつ来ればいいですか?」
「じゃあ、明日、17時半」
「明日……。じゃあ、カップ麺用意して来ますね」
彼女はそう言うと、さっさと帰っていった。
ドアを閉めると、絵に戻る気になれず、椅子に座り込んで顔を覆う。
結局、俺はこうやって生きていくんだな。
優があれこれ考えてくれていても無駄だ。
もう遅いんだ。
俺はきっとまともには戻れないんだ……。
パタッ
軽い物音がした。
立て掛けて乾かしていた水彩画が倒れた音だった。
優が手放しで絶賛してくれた絵だ。
『そこに出したら、遥斗先輩も定期収入が得られるんじゃないかなって』
もしそうできたら、まともに戻れるだろうか……。
こんなことをすることもなく。
どうしても期待してしまう心が消えない。
それ以上考えたくなくて、俺は絵に逃げた。
後ろ髪を引かれるような表情で俺を見ると、優は急いで出ていった。
はぁ……。
俺は深い溜め息をついた。
頭に血がのぼって、優を拒否するような態度を取ってしまった。
本当にネットで売ろうと思っていたのか?
確かに、絵の写真を撮っていたが。
俺はのろのろとパソコンの前に移動して、優の言っていた『手作りサイト』と検索してみた。
いくつかのサイトが表示されて、その中には俺でさえ聞いたことがある会社の運営するものもあった。
そのサイトを開いてみて、『絵画』と入れてみると、様々な絵が出てきた。
ほとんどが素人らしく、これを売るか?と思うようなレベルのものもあれば、中にはプロの画家が描いたものもあった。
値段も数百円のものから数十万円のものまで様々だった。
確かに、ここなら俺の絵も売れる可能性はあるのか?
俺が感じたのは被害妄想だったのか?
そう思ったが、優が俺に同情しているのは紛れもない事実で、それを不甲斐なく思った。
先程まで夢中だった水彩画もパステル画も描く気が起きず、慣れた油絵に戻り、心を落ち着けることにした。
しばらくして腹が鳴って、弁当を食べ忘れていたことに気づいた。
筆を置いて、食事にすることにした。
蓋を開けると、優の心尽くしの弁当が目に入る。
たぶん、栄養バランスも考えて、肉も魚も野菜も散りばめられている。
優……こんなに尽くさなくていい。
おせっかいなお前は放っておけないのかもしれないが、俺はたまらない気持ちになるんだ。
弁当を食べ終わると、頭を空にするように油絵に打ち込んだ。
トントン……。
昼頃、ノックの音がした。
優か……?
そう思うが、なかなか入ってこない。
不思議に思って、ドアを開けると、見知らぬ女の子がいた。
緊張して強張った顔をしたその子は、俺を見ると目を見開いて、じっと見ていたが、意を決したように口を開いた。
「あの! 食べ物を持ってきたら抱いてくれるんですか!?」
このタイミングか……。
俺は瞬時目をつぶった。
「あぁ、そうだな。カップ麺10個ぐらいでどうだ?」
「わかりました。いつ来ればいいですか?」
「じゃあ、明日、17時半」
「明日……。じゃあ、カップ麺用意して来ますね」
彼女はそう言うと、さっさと帰っていった。
ドアを閉めると、絵に戻る気になれず、椅子に座り込んで顔を覆う。
結局、俺はこうやって生きていくんだな。
優があれこれ考えてくれていても無駄だ。
もう遅いんだ。
俺はきっとまともには戻れないんだ……。
パタッ
軽い物音がした。
立て掛けて乾かしていた水彩画が倒れた音だった。
優が手放しで絶賛してくれた絵だ。
『そこに出したら、遥斗先輩も定期収入が得られるんじゃないかなって』
もしそうできたら、まともに戻れるだろうか……。
こんなことをすることもなく。
どうしても期待してしまう心が消えない。
それ以上考えたくなくて、俺は絵に逃げた。
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