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第二章 ― 遥斗 ―

知られたくなかった事実②

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 休み明けの金曜日、暗い気持ちのまま絵を描いていると、「おはよーございます!」と優が普通に来たから、びっくりした。
 でも、目が合うと赤くなって目が泳いだから、やっぱり昨日のは認識しているようだ。

「お弁当です。また帰りに取りに来ますね」

 それでも、いつも通りに弁当を渡してくれる。
 律儀だな。

「あぁ、ありがとう」
 
 心からそう言った。


 優が去ると、俺は弁当を開けた。
 大雑把に詰め込まれていたものから、花だらけになり、最近は彩りよくなってきた優の弁当。

 昨日は、金もなく食欲もなかったから、ほぼ一日ぶりの食事だ。
 卵焼きが甘い。

 ふと優の言っていた『好きなものだらけのお弁当』という言葉を思い出す。
 あのとき想像した弁当箱は空っぽだったけど、今ならみっちり詰まった弁当を思い浮かべられる。
 
 まずはこの卵焼き、醤油味の唐揚げ、ブリの照り焼き、ブロッコリー、あぁ、デザートのフルーツもいいな。なんにしようかな。
 優の弁当で初めて食べるものも多かった。

 今日のフルーツは、オレンジだった。
 鮮やかな断面が目にまぶしい。

 ぽたり……

 せっかくの卵焼きがちょっと塩辛くなった。
 それ以上塩辛くならないように、急いで顔を拭う。
 そのまま、腕を目に押し当てた。

 もう優は来ないと思っていた。

 俺は……どうしたらいい……?
 どうしたらよかったんだ……?

 今さら後悔しても遅い。
 純真無垢な優と、汚れている俺。
 それは変えられない。

 優に気づかされてしまった心の柔らかいところが痛んでしょうがない。

 ギュッと目を閉じ、心に蓋をする。
 考えれば考えるほどつらくなるから。
 

 落ち着くために、教科書を持ってきて、目を通す。
 ここにいる必須条件として成績上位をキープするというものがあるから、一日何時間かは勉強をしている。
 昔からテストは得意だから、教科書を読めばだいたいわかる。
 それなのに、授業を受ける意味ってなんだろう? ここに書いていない内容を教えてくれるのだろうか?
 でも、授業に出ていたときは、そんな気配はなく、教科書通り教えてくれるだけだった。

 数学の問題を解く。
 俺は数学が好きだ。
 数学には必ず答えがあるから。正しい手順で計算すれば、正しい公式を使えば、必ず正しい答えが出るから。
 人生もこうだったらいいのに。




 夕方、優が弁当箱を取りに来た。

「明日から5連休ですねー。これ、ゴールデンウィーク中のオヤツにでもしてください」

 そう言って、昨日焼いたというクッキーをくれた。

「……ありがとう」

 うだうだ悩みまくっていた俺は、優になにか言いたかったが、なにを言っていいのかわからず、ただ帰っていく姿を見送った。

 そして、ゴールデンウィークが始まった。
 俺にとっては、地獄の始まりだった。
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