81 / 171
第二章 ― 遥斗 ―
まっとうな存在①
しおりを挟む
その日、俺は屋上で朝焼けを描いていた。
土曜の早朝なので、誰もいなくて、ガランとした空間はとても落ち着けた。
何日か前から描いていたので、今日で描き終わりそうだった。
朝の光は好きだ。
暗い空に小さな光が現れて、みるみるうちに闇を明るさで染めていく。そこにはまるで希望しかないように思えた。
……実際の俺には、希望なんてなかったけど。
昼飯を定期的に用意してくれていた沙也加が卒業して、俺は食うものにも困るようになっていた。
バイトは相変わらず長く続かない。
春休みの間、続けられて、まかないを食べられただけマシだった。
学校が休みの日は真奈美のお弁当もないから。
絵を描き続けて、コンクールに出し続けなくてはここを追い出されるという恐怖で、尽きかけている貯金をすべて使うことはできなかった。出品料を出せなくなると困るから。結果、食費を削ることになり、1日1、2食しか食べない日が続いていた。
空腹を抑えながら、絵を描き続ける。
幸せの色でしかないと思われるピンク色の洪水が空を染め上げ、視界を満たす。
その幸せを少しでも取り込みたいと、筆を走らせた。
そのときだった。
カチャ
ドアが開く音がして、誰かが入ってきたようだった。
俺はがっかりした。せっかくこの空間を独り占めできると思っていたのに。
誰だか知らないが、先客がいるのを見て、立ち去ってくれないかな。
そう思うが、立ち去る様子もなく、パシャパシャとシャッター音がする。
正直、隠し撮りをされるのには慣れている。
またか、という感想しかない。
無視して、筆を進めていると、話しかけられた。
「あのー、すみません。突然ですが、写真のモデルになってもらえませんか?」
女の声だった。
モデルになってほしいと言われるのも慣れていた。
チッ
思わず舌打ちをしてしまう。
でも、食料確保のチャンスかと思い直して、振り返らないまま答えた。
「昼飯をいっしゅ、いや、一ヶ月用意するならなってもいいぜ?」
「お昼ごはん?」
思ったより幼い声にチラッと見やると、「うわぁ、綺麗な顔……」と言われた。
声から想像した通り、少し幼い顔をしたショートカットの女の子だった。
一年か?
クリクリの大きな目を見開いて、俺をまじまじと見ている。
土曜の早朝なので、誰もいなくて、ガランとした空間はとても落ち着けた。
何日か前から描いていたので、今日で描き終わりそうだった。
朝の光は好きだ。
暗い空に小さな光が現れて、みるみるうちに闇を明るさで染めていく。そこにはまるで希望しかないように思えた。
……実際の俺には、希望なんてなかったけど。
昼飯を定期的に用意してくれていた沙也加が卒業して、俺は食うものにも困るようになっていた。
バイトは相変わらず長く続かない。
春休みの間、続けられて、まかないを食べられただけマシだった。
学校が休みの日は真奈美のお弁当もないから。
絵を描き続けて、コンクールに出し続けなくてはここを追い出されるという恐怖で、尽きかけている貯金をすべて使うことはできなかった。出品料を出せなくなると困るから。結果、食費を削ることになり、1日1、2食しか食べない日が続いていた。
空腹を抑えながら、絵を描き続ける。
幸せの色でしかないと思われるピンク色の洪水が空を染め上げ、視界を満たす。
その幸せを少しでも取り込みたいと、筆を走らせた。
そのときだった。
カチャ
ドアが開く音がして、誰かが入ってきたようだった。
俺はがっかりした。せっかくこの空間を独り占めできると思っていたのに。
誰だか知らないが、先客がいるのを見て、立ち去ってくれないかな。
そう思うが、立ち去る様子もなく、パシャパシャとシャッター音がする。
正直、隠し撮りをされるのには慣れている。
またか、という感想しかない。
無視して、筆を進めていると、話しかけられた。
「あのー、すみません。突然ですが、写真のモデルになってもらえませんか?」
女の声だった。
モデルになってほしいと言われるのも慣れていた。
チッ
思わず舌打ちをしてしまう。
でも、食料確保のチャンスかと思い直して、振り返らないまま答えた。
「昼飯をいっしゅ、いや、一ヶ月用意するならなってもいいぜ?」
「お昼ごはん?」
思ったより幼い声にチラッと見やると、「うわぁ、綺麗な顔……」と言われた。
声から想像した通り、少し幼い顔をしたショートカットの女の子だった。
一年か?
クリクリの大きな目を見開いて、俺をまじまじと見ている。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない
釧路太郎
青春
俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。
それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。
勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。
その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。
鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。
そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。
俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。
完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。
恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。
俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。
いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。
この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ひょっとしてHEAVEN !?
シェリンカ
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞受賞】
三年つきあった彼氏に、ある日突然ふられた
おかげで唯一の取り柄(?)だった成績がガタ落ち……
たいして面白味もない中途半端なこの進学校で、私の居場所っていったいどこだろう
手をさし伸べてくれたのは――学園一のイケメン王子だった!
「今すぐ俺と一緒に来て」って……どういうこと!?
恋と友情と青春の学園生徒会物語――開幕!
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
世見津悟志の学園事件簿
こうづけのすけ
青春
高校二年生の世見津悟志が紡ぐ、怪奇なことがよく起こるこの学校と地域の伝承伝説に触れてゆく。個性豊かなクラスメイトと、土地を訪ねるごとに関りを持つ人々。世見津悟志が、青春と怪奇な世界とを行き来する学園青春サバイバルサスペンス。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる