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第二章 ― 遥斗 ―

日常の崩壊③

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 深夜に呼び出されて迷惑極まりないと思うのに、和田先生はおくびにも出さないで「久住くん、最近どうしちゃったの?」と優しく聞いてくれた。
 でも、若くて人の良さそうな和田先生に母のことなど言えるはずもなく、付き添われて家に帰ると、母が「ハル!」とうれしそうに抱きしめてきた。

 その異常さに気づいてくれたのは、和田先生の旦那さんだった。

 何度も補導され、和田先生に迎えに来てもらい、先生もなにか家に帰りたくない理由があるのを察してくれたらしい。
 母に断りを入れて、なんと自宅に招いてくれたのだ。
 母は俺には興味がないので、「遥斗くんを預かります」という先生の電話に「どうぞ」と返したらしい。
 
 和田先生の旦那さんも先生で、高校で歴史を教えていると紹介された。和田先生だと紛らわしいので、郁人先生と呼ぶことにした。

 和田先生が郁人先生に俺のことを説明するときに、『いつも家に送っていくと、お母さんが涙ながらに抱きついて迎えてくれるのよ』と言うと、中三の男を抱きしめるのはおかしくないかと違和感を覚えたらしい。

 女性の和田先生に話しにくいかもしれないからと、郁人先生が俺の話を聞いてくれた。
 と言っても、俺は話そうと口を開いては口ごもり、口を開いては口ごもりと、声が出せず、最初の日は結局なにも話せなかった。
 
 郁人先生は、なにか感じるところがあったようで、ぐしゃぐしゃと俺の頭をなでて、無理しなくていいと言ってくれた。
 迂闊にも涙が滲んだ。

 夜を徘徊するうちに、ネットカフェという便利なところを見つけた。そこだと補導に怯えることもなく、金が続くうちは快適に過ごせた。秋口になり、夜が冷えてきたので、この発見は助かった。

 和田先生はちょくちょく理由を作っては自宅に招いてくれた。

 そうしているうちに、進路のことを決めないといけない時期が来た。
 漠然と美術コースのある高校に進みたいと思っていたが、そもそも高校に行けるのかどうかわからない。母がどういうつもりなのか、費用は出してもらえるのか、なにも話をしていない。

 今の切実な気持ちは、働けるところがあれば働いて、あの家から一刻も早く出たいというものだ。
 そうは言っても、今の世の中、中学を卒業したばかりで雇ってくれるところなんて、いくらもないだろう。

 和田家に行ったとき、問われてそんな話をしたら和田先生が「久住くんは勉強もできるのに、そんなもったいない! 推薦でどこでも入れそうなのに」と反対した。
 確かにテストは得意だ。だいたい学年で5番以内に入っている。
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