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第一章 ― 優 ―

お出かけ①

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 こうして遥斗先輩と並んで歩いているのが不思議な気がする。だいたい先輩を屋外で見るのも、最初に屋上で会って以来だ。

 今日は快晴で、お出かけ日和だ。
 穏やかな風が吹き抜けて、遥斗先輩が目を細めた。
 それを見て、連れ出してよかったと思う。

「遥斗先輩、私、自転車で来たんですけど、二人乗りして行きます?」
「自転車には乗ったことがない」
「え、あ、そう、なんですね。じゃあ、歩いて行きましょう。そんなに遠くないし、気持ちのいい天気だし」
「あぁ、悪いな。お前は自転車で先に行ってもいいんだぞ?」
「いえ、全然! お散歩も好きですし、歩いていきます」

 遥斗先輩としゃべっていると、こうしてたまに想像さえしたことのない話が出てくる。

(この歳で自転車に乗ったことがない人がいるなんて……)

 胸がつかえて苦しくなる。

「家にお兄ちゃんの自転車があるんですけど、今度練習してみます?」
「いやいい。特に不便は感じてない」
「でも、バイトに行くときとか便利ですよ?」
「…………」

 先輩がむぅっと黙り込んだから、またやっちゃったと慌てる。
 もっと自然に先輩の気分を害さないように話せたらいいのに。

 

 会話もなく足を進めると、川が見えてきた。
 思わず駆け出す。
 水面も新緑もキラキラ光って、とても綺麗だ。

「ね、先輩、綺麗でしょ?」

 振り返って同意を求めると、先輩の顔が緩んだ。柔らかい表情で、美しい景色を眺める。

 あっ、シャッターチャンス!

 私は慌てて首から下げていたカメラを構えた。
 先輩を正面から撮ったのは初めてだった。
 いつも横顔か後ろ姿だったから。

 調子に乗って、パシャパシャ撮っていたら、「荷物ぐらい置かせろ」と文句を言われた。

 たしかに。

 私たちは堤防を下りていって、クローバーが群生しているところにビニールシートを敷いて、荷物を置いた。

「こんなものまで持ってきていたんだな」
「ピクニックみたいでいいでしょ?」

 先輩はそれに答えず、川の方を向いた。
 川からの風が長めの先輩の髪をふんわりとなでていく。

 絵になるなぁ。

 タイトルは、水辺に佇む美青年。

「お昼過ぎたし、お弁当食べますか?」

 そう声をかけたら、先輩が振り向いて、微笑んだ。
 そのリラックスした麗しい笑みに心を撃ち抜かれて、心臓が止まるかと思った。

 ……不意打ちは止めてほしい。

 動揺を隠すように、私はカバンを漁って、ウェットティッシュを取り出した。
 手を拭いて、お弁当を広げる。
 ちゃんと水筒と紙コップも持ってきた。

 ビニールシートに上がってきた先輩にウェットティッシュを渡すと、お弁当の蓋を取った。

「ジャーン! 今日はサンドイッチでーす。おいしそうでしょ? 先輩の好きな唐揚げもありますよ」

 やっぱりピクニックはサンドイッチよね?
 玉子やハムやチーズの彩りもばっちりで、成長しているよねー、私。

「いただきまーす」
「いただきます」

 私は真っ先に玉子サンドを手に取った。
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