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第一章 ― 優 ―
胸が痛い②
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「だ、大丈夫です! お弁当はちゃんと作ります! あと、1ヵ月じゃ、先輩にモデルしてもらう時間が足りなかったから、延長しますから!」
言うだけ言って、お弁当箱を先輩に押しつけると、私は部室を飛び出した。
すぐにスピードを緩めて、トボトボ歩く。
なにやっているんだろう。私だけ妙に意識しちゃって。
遥斗先輩が誰となにをやろうと先輩の勝手なのに。
ふいにガヤガヤとにぎやかな声に包まれた。
「おー、佐伯妹! 最近、よく会うな」
朝練から戻ってきた野球部の団体の中から声をかけられる。
森さんだった。
他の人はちらちら私を見ながら通り過ぎる。
「あ、森さん、おはようございます。そっちが部室だからですよ」
「ん? なんかあったっけ?」
「正確には部活じゃなくて、写真同好会なんですけど」
「あぁ、だから、いつもそんな大きなカメラを持っているのか。昨日俺たちを隠し撮りしてただろ? おかげで、みんなエラー連発だ」
おかしそうに森さんが笑った。
「隠し撮りじゃありませんよ! 堂々と撮っていました! でも、練習の邪魔になっていたならごめんなさい」
「いや、あれくらいでミスする方が悪い。また邪魔しに来いよ」
私が謝ると、森さんが苦笑して、首を振った。
「おっと、着替えないと。じゃあ、またな」
ポンと頭を叩いて、森さんはさわやかに去っていった。
その清涼感に気分も変わって、私はさっきより元気に教室に向かった。
その日の昼休み。
「あーっ、体操服忘れてきちゃった」
お弁当をつつきながら、午後の体育だるいよねーってさやちゃんが言った言葉で思い出した。
「家に?」
「ううん、たぶん部室に置いてきちゃった」
「なんだ。じゃあ、お弁当食べたら取りに行けばいいじゃん」
「うん。早く食べて、取りに行くわ」
朝、寝不足な上、慌てて出てきちゃったから、パソコンの辺りに置いてきた気がする。
私は残りのおかずをちゃっちゃっと食べると、部室に向かった。
ノックと同時にドアを開けると、遥斗先輩が着替えているところだった。
上半身裸だ。
私は思わず息を呑んだ。
着替えているところに出くわした気まずさではなく、その姿に衝撃を受けて。
「わわっ、ごめんなさい!」
慌ててドアを閉める。
ちょっとしてドアが内側から開いた。
シャツを着た遥斗先輩が開けてくれたのだ。
「なんか用か?」
「た、体操服を忘れちゃって……。あ、あった」
私は袋を拾いあげた。
「し、失礼しました……」
「お前、ノックと同時に開けるの止めろよ」
「……気をつけます。じゃあ、またあとで」
「あぁ」
私はまわれ右をして、その場を走り去った。
溢れそうな涙をこらえて。
先輩の身体は、肋骨がくっきり見えるほど病的に痩せていて、高校生の男の人とは思えないほどの細さ。胸が痛むほど骨と皮ばかりで、明らかに栄養が足りていない身体だった。
言うだけ言って、お弁当箱を先輩に押しつけると、私は部室を飛び出した。
すぐにスピードを緩めて、トボトボ歩く。
なにやっているんだろう。私だけ妙に意識しちゃって。
遥斗先輩が誰となにをやろうと先輩の勝手なのに。
ふいにガヤガヤとにぎやかな声に包まれた。
「おー、佐伯妹! 最近、よく会うな」
朝練から戻ってきた野球部の団体の中から声をかけられる。
森さんだった。
他の人はちらちら私を見ながら通り過ぎる。
「あ、森さん、おはようございます。そっちが部室だからですよ」
「ん? なんかあったっけ?」
「正確には部活じゃなくて、写真同好会なんですけど」
「あぁ、だから、いつもそんな大きなカメラを持っているのか。昨日俺たちを隠し撮りしてただろ? おかげで、みんなエラー連発だ」
おかしそうに森さんが笑った。
「隠し撮りじゃありませんよ! 堂々と撮っていました! でも、練習の邪魔になっていたならごめんなさい」
「いや、あれくらいでミスする方が悪い。また邪魔しに来いよ」
私が謝ると、森さんが苦笑して、首を振った。
「おっと、着替えないと。じゃあ、またな」
ポンと頭を叩いて、森さんはさわやかに去っていった。
その清涼感に気分も変わって、私はさっきより元気に教室に向かった。
その日の昼休み。
「あーっ、体操服忘れてきちゃった」
お弁当をつつきながら、午後の体育だるいよねーってさやちゃんが言った言葉で思い出した。
「家に?」
「ううん、たぶん部室に置いてきちゃった」
「なんだ。じゃあ、お弁当食べたら取りに行けばいいじゃん」
「うん。早く食べて、取りに行くわ」
朝、寝不足な上、慌てて出てきちゃったから、パソコンの辺りに置いてきた気がする。
私は残りのおかずをちゃっちゃっと食べると、部室に向かった。
ノックと同時にドアを開けると、遥斗先輩が着替えているところだった。
上半身裸だ。
私は思わず息を呑んだ。
着替えているところに出くわした気まずさではなく、その姿に衝撃を受けて。
「わわっ、ごめんなさい!」
慌ててドアを閉める。
ちょっとしてドアが内側から開いた。
シャツを着た遥斗先輩が開けてくれたのだ。
「なんか用か?」
「た、体操服を忘れちゃって……。あ、あった」
私は袋を拾いあげた。
「し、失礼しました……」
「お前、ノックと同時に開けるの止めろよ」
「……気をつけます。じゃあ、またあとで」
「あぁ」
私はまわれ右をして、その場を走り去った。
溢れそうな涙をこらえて。
先輩の身体は、肋骨がくっきり見えるほど病的に痩せていて、高校生の男の人とは思えないほどの細さ。胸が痛むほど骨と皮ばかりで、明らかに栄養が足りていない身体だった。
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