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第一章 ― 優 ―

なにそれっ!③

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 午後の授業が終わって、ホームルームで先生がまもなく中間テストがあるから気を引き締めるように言う。みんなからブーイングが起こる。
 うわぁ、高校で初めてのテストだ。
 嫌すぎる。
 そういえば、遥斗先輩は授業に全然出ていないってことだけど、テストはどうしているんだろう?
 そもそも授業になんで出ないんだろう?
 遥斗先輩のことはまだ謎だらけだ。
 


 ホームルームが終わってすぐ、私は部室に向かった。
 遥斗先輩の様子が気になっていたから。

「お疲れ様でーす」

 ドアを開けて入っていくと、遥斗先輩はいつもの場所で椅子に座ってキャンバスに向かっていた。
 とりあえず、ぐったりはしてないようで安心した。顔色もよくなっている。

「弁当、うまかった。ありがとう」

 遥斗先輩がそう言ってくれた。

「よかった! そういえば、イチゴどうでしたか?」

 帰りがけにイチゴ狩りに行って大量のイチゴを持って帰ってきたので、デザートに入れていたのだ。

「あぁ、さわやかでうまかった」
「遥斗先輩は果物好きですか?」
「あまり気にしたことはなかったが、お前のお弁当に入っているから、割と好きみたいだと気づいた」
「それはよかったです。じゃあ、またいろんな果物を入れますね」
 
 私がなんだかうれしくて笑うと、遥斗先輩は今朝見せた不可解な表情になって言った。

「あんまり……俺に気を使う必要はない」
「えっ?」
「そんなにお前が俺に一生懸命になる必要はない。弁当も適当に作ればいい」

 先輩は言うだけ言って、ふいっと顔を逸らし、絵を描くのに戻った。
 フリーズしていた私は、言われたことが脳に浸透すると、かぁっとなった。

「なにそれっ!」

 思わず叫んだ。

「なんなんですか!」

 重ねて言うけど、遥斗先輩はしらっとした顔で絵を描くだけだった。

 たぶん、お昼に菜摘ちゃんたちに言われたのと同じこと。私が遥斗先輩に責任を感じる必要はないって言っているんだと思う。
 そんなに私はわかりやすいんだと思う。
 でも……でも、でも、自分のことをそんなぞんざいに言わないでほしい。

「もう遅いですよ!」
「は?」

 私の言葉が意外だったのか、遥斗先輩がこっちを向いた。

「もう遅いんですよ。おせっかいな私に見つかっちゃったんだから。全力でおせっかいしますから!」

 私は一方的に宣言すると、お弁当箱を掴んで、勢いよく部屋を出ていった。
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