29 / 171
第一章 ― 優 ―
なんか新鮮だな④
しおりを挟む
その日は、同好会のメンバーが全員集まって、写真の話になったから、初めてちゃんと同好会活動っぽい。
「すこーい、キレイ!」と真奈美先輩が私の写真を褒めてくれて、うれしかった。
「そういえば、先生、このパソコンってネットに繋いでいいんですか?」
「あぁ、いいよ。WiFiに自動接続になっているはずだ」
「わぁ、便利! 遥斗先輩も調べものに使ったら?」
「特に調べるものはない」
「でも、画家の絵とか技法とか調べたくなりません? あと描いてみたい景色とか」
遥斗先輩が図書館でそうした本を借りているらしいことは、そこに置いてあるから知っている。
「……その観点はなかったな」
ぼそりと言って、遥斗先輩がこちらに目を向けた。
ちょっと興味が出てきたみたいだ。
「今、どんな展覧会が来ているかも見られますよ、このサイトで。あ、上野にマネが来てるんだ」
「へー、いろんな展覧会があるのね」
真奈美先輩がパソコンを覗き込むと、遥斗先輩もパソコンを覗いてきた。
「思ったより絵の解説があるんだな」
上野の美術館のホームページをスクロールしながら、遥斗先輩がつぶやいた。
「展覧会に興味があるなら割引券とか招待券とかありますよ?」
「佐伯は絵も好きなのか?」
遥斗先輩がちょっと考え込んだところで、和田先生が聞いてきた。
「はい、描けないけど見るのは好きです。叔父さんがギャラリーをやっているから、美術館の招待券とかよくもらって、昔から絵は結構見ているんです。写真もですけど」
「写真を始めたのはその叔父さんの影響なのか?」
「そうですねー。叔父さんのギャラリーでやっていた写真展ですごく好きな作品があったんです。私もあんな写真を撮りたいと思って」
「そうか、頑張れよ」
和田先生がそう言ってくれる。
私は笑顔で頷いた。
そのあと、真奈美先輩を残して、和田先生と私は部室を出た。
「佐伯、ちょっとだけいいか?」
「はい」
先生が廊下で立ち止まったので、私も立ち止まる。
ちょうど運動部の部室のエリアで、部活動の真っ最中のこの時間は、人気がなかった。
「………遥斗は佐伯が思っている以上に金がないんだ」
「え?」
「展覧会の入場料どころか、そこに行く交通費も下手したら出せない」
「え……。でも、バイトしているって」
「それでも、食費や生活用品で消えていくだろう」
都内に行くのは電車で数百円しかかからない。それでも……?
あ、ご飯がないって、買えないってことでもあるのか……。
そう思うと、さっきの話題は遥斗先輩にとっては残酷だったのかな。
「すこーい、キレイ!」と真奈美先輩が私の写真を褒めてくれて、うれしかった。
「そういえば、先生、このパソコンってネットに繋いでいいんですか?」
「あぁ、いいよ。WiFiに自動接続になっているはずだ」
「わぁ、便利! 遥斗先輩も調べものに使ったら?」
「特に調べるものはない」
「でも、画家の絵とか技法とか調べたくなりません? あと描いてみたい景色とか」
遥斗先輩が図書館でそうした本を借りているらしいことは、そこに置いてあるから知っている。
「……その観点はなかったな」
ぼそりと言って、遥斗先輩がこちらに目を向けた。
ちょっと興味が出てきたみたいだ。
「今、どんな展覧会が来ているかも見られますよ、このサイトで。あ、上野にマネが来てるんだ」
「へー、いろんな展覧会があるのね」
真奈美先輩がパソコンを覗き込むと、遥斗先輩もパソコンを覗いてきた。
「思ったより絵の解説があるんだな」
上野の美術館のホームページをスクロールしながら、遥斗先輩がつぶやいた。
「展覧会に興味があるなら割引券とか招待券とかありますよ?」
「佐伯は絵も好きなのか?」
遥斗先輩がちょっと考え込んだところで、和田先生が聞いてきた。
「はい、描けないけど見るのは好きです。叔父さんがギャラリーをやっているから、美術館の招待券とかよくもらって、昔から絵は結構見ているんです。写真もですけど」
「写真を始めたのはその叔父さんの影響なのか?」
「そうですねー。叔父さんのギャラリーでやっていた写真展ですごく好きな作品があったんです。私もあんな写真を撮りたいと思って」
「そうか、頑張れよ」
和田先生がそう言ってくれる。
私は笑顔で頷いた。
そのあと、真奈美先輩を残して、和田先生と私は部室を出た。
「佐伯、ちょっとだけいいか?」
「はい」
先生が廊下で立ち止まったので、私も立ち止まる。
ちょうど運動部の部室のエリアで、部活動の真っ最中のこの時間は、人気がなかった。
「………遥斗は佐伯が思っている以上に金がないんだ」
「え?」
「展覧会の入場料どころか、そこに行く交通費も下手したら出せない」
「え……。でも、バイトしているって」
「それでも、食費や生活用品で消えていくだろう」
都内に行くのは電車で数百円しかかからない。それでも……?
あ、ご飯がないって、買えないってことでもあるのか……。
そう思うと、さっきの話題は遥斗先輩にとっては残酷だったのかな。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
神様自学
天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。
それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。
自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。
果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。
人の恋心は、どうなるのだろうか。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる