全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第一章 ― 優 ―

気になる人①

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「しまったなぁ、まさか写真部が廃部になっていたなんて」

 学校案内にあんなに立派な暗室が載っていたから、てっきり写真部があると思っていたのに。と言っても、私はデジカメだから、暗室は関係ないけど。

 私、佐伯優さえきゆうは屋上への階段を駆け上がりながら、つぶやいた。
 入学したばかりの高校の校舎には、日曜日なので、当然誰もいなくて、私の足音だけが響いていた。
 家から徒歩10分という立地のここは、ちょっと偏差値高めの私立高だったけど、こんなに近いからまずは目指すしかなくて、受かったときはほっとした。4歳上のお兄ちゃんのときにはできていなかった新しい高校で、当時1時間かけて他の高校に通っていたお兄ちゃんにはとても悔しがられた。

 今日はなぜか日が昇る前に目が覚めた。外を見ると快晴で、ふと朝焼けを撮ろうと思い立って、ここに忍び込んでいた。屋上ならきっと見晴らし抜群だ。こんなに簡単に入れるなんて、セキュリティが不安になるものの、今回は助かる。

 4階分の階段を登るとさすがに息が切れて、ゼェゼェしながら屋上のドアを開けた。
 途端にまぶしい朝の光が射し込んで、一瞬なにも見えなくなる。

(陽が昇りきっちゃったかな?)

 パチパチとまばたいて目を慣らすと、まだ朝焼けは残っていて、今ならまだ間に合うとカメラを構えた。
 
(あれ? 先客がいる)

 朝焼けの方を向きイーゼルを立て、絵を描いている人がいた。長めの髪のひょろりと背の高い男の人。制服を着ているから上級生かな。
 その姿は淡紅色の光に照らされて、長い影が伸びていた。
 綺麗……。
 思わずシャッターをパシャパシャと切る。
 露出や絞りを調整しながら、連写する。
 本当は三脚を立てるつもりだったけど、その暇がないから手ブレしないことを願って脇を固定してカメラを構えた。
 あっという間に日が昇ってしまって、辺りがすっかり明るくなる。

 いいのが撮れたかなぁ。
 カメラのモニターを見てみるけど、明るすぎてよく見えない。でも、一枚くらいはいい出来のものがあるといいな。
 
 勝手に撮ってしまったから断りを入れようと被写体になった人に近づく。

「あのー、すみません。突然ですが、写真のモデルになってもらえませんか?」

 彼はまったく私に気づいていなかったようで、ビクリと肩を震わせた。

 チッ

 舌打ちが聞こえた。
 
(え、なんで舌打ち? そんな失礼なこと言った?)

 彼は振り返らないまま答えた。

「……昼飯をいっしゅ、いや、一ヶ月用意するならなってもいい」
「お昼ごはん?」

 まったく想定していなかった答えが返ってきて戸惑う。
 私は今撮った写真のモデルのつもりだったんだけど。まぁ、でも、男の人にツテはないからモデルになってくれるのは有り難いかも。
 でも、お昼ごはん…?
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