不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子

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間に合うの?

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「建設会社はもう決まっていて、六月に着工したいらしい」
「あと三か月しかないじゃないですか!」
「だから設計を急いでる」

 これだけの施設の実施設計を三か月でやるなんて信じられなくて、私は黒瀬さんに聞き返した。
 建設会社の見積もり期間や建築確認申請に必要な時間もあるから実質二か月ちょっとしかない。

(本当に間に合うのかしら?)

 少し不安になる。
 でも、黒瀬さんは思ったよりスパルタだった。
 私にガンガン設計させ、容赦なく直しを入れる。その意図は明確だったが、たまにわからないことを聞くと、ニヤリと口端を曲げて教えてくれた。
 彼が手を入れたところはとたんに美しいものになり、経験値もしくはセンスの違いを感じる。
 それが悔しくて、私は必死で頭を働かせ設計した。
 連日コンビニおにぎりをデスクで食べながら、二十二時過ぎまで働く。せっかく会社に近いマンションを借りていたのに、ここからは遠く、行き帰りに片道一時間かかった。

「そろそろ帰れよ」
「もうちょっと切りのいいところまでやります」

 あまり遅くまでやっていると、黒瀬さんに帰りを促される。
 そういう黒瀬さんはこの事務所の二階に住んでいるので、私より遅くまで仕事をしていることが多い。通勤時間がないのがうらやましすぎる。
 着工を遅らせるわけにはいかないので、だんだん私は焦ってきた。
 でも、やってもやっても終わらない気がした。
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