6 / 30
6. 海……!
しおりを挟む
翌朝、ニヤニヤしている宿の主人に見送られ、出発する。
朝から不機嫌な顔でレクルムは馬車に乗り込んだ。
対象的にサアラはニコニコしている。
「今日は海に着きますか?」
「うん。夕方には着けるんじゃない?」
「やったぁ!」
サアラは海を本当に楽しみにしているようで、晴れやかに笑った。
急遽寄ることにしてよかったと彼は思う。
それでも……カルームに寄ったとしても、あと二日したら王都に着いてしまう。
(マジか……)
胸が痛んで、サアラの笑顔から目を逸らす。
王宮魔術師である以上、自分にできることはほとんどない。
なんとかしてやりたいとは思うが、かと言って、さすがに逃がすわけにはいかない。
ようやく王宮魔術師になれたのだ。それを棒に振ることなどできない。
また、これ以上遠回りしたとしても情が湧くだけでつらくなるだろう。
居たたまれなくて、レクルムは目を閉じた。
そんな彼の気も知らず、サアラは外の景色を楽しんでいた。
レクルムが言っていたとおり、景色は変わっていき、荒野からだんだん緑が多くなっていった。途中から大きな河と並行して馬車は進む。鳥の大群がいたり、魚が跳ねたりするたび、サアラは歓声をあげた。
海が近づいてくると、川幅は広くなっていった。
鳥の種類もシラサギからカモメのような海鳥に変わっていき、初めて見るそれらに、サアラは目を丸くして、眺めていた。
『あれはカモメという鳥よ。海にはもっと沢山いるわよ』
レクルムのペンダントが教えてくれる。
彼女はおしゃべりなだけでなく、物知りでもあるようだった。
『そんなの、わたしだって知ってるわ!』
カーテンがなぜか対抗してきた。
そこへ、ふわぁと風が入り込んでくる。
『これが潮の香りよ!』
(潮の香り……)
サアラはよりいっそうワクワクしてきた。
遠く進行方向に、青い水面が見えてくる。
それは河よりも青く波が立ってキラキラしていた。
「あれが海?」
「そうだね」
海辺で生まれ育ったレクルムには懐かしい匂いと光景だった。
義理の両親に育てられた街もこんな感じだった。
レクルムは、赤ん坊の頃、街道のど真ん中で捨てられていたのを行商をしている両親に拾われた。
その少し先に馬車の残骸があったので、盗賊に襲われたのかもしれないということだった。
おくるみの中にあったのが今つけているペンダントで、両親と彼を繋ぐものはそれしかなかった。
拾ってくれた夫婦には子はなく、レクルムを自分の子のように大切に育ててくれた。
彼に魔術師の素質があると知ると、無理をして高い費用を払い、魔法学校にまで通わせてくれた。
その優しい義理の両親も、彼が学生の間に行商の途中で盗賊に襲われて亡くなった。
遺産は親戚で分けられ、彼にはなにも残らなかったが、彼はそれでいいと思った。
ただ、貴族ばかりの魔法学校だけは、蔑まれ、虐げられても無表情で返し、歯を食いしばって、飛び抜けた成績で卒業した。
そこで、教授の推薦もあり、なんとか王宮魔術師になることができたのだ。
(なんだか無駄にいろいろと思い出してしまうね)
潮の香りを嗅ぐと連鎖的に記憶がよみがえってくる。
レクルムが物思いに耽る中、サアラはうれしそうに海を眺めていた。
「海がキラキラしてて綺麗ですね」
「うん、僕も海は好きだな」
ふっと視線を遠くにやると、レクルムは口許を緩めた。
その柔らかな表情に、サアラの心臓がトクッと跳ねた。
(鼓動が早い……?)
そういえば、昨夜からなんだか胸がもやもやして息苦しい気がする。
身体の調子でも悪いのかしらと、サアラは小首を傾げた。
『そういえばねー』
レクルムが同意したので思い出したのか、ペンダントがまたしゃべりだした。
『レクルムはちっちゃい頃、けっこう活発な子で、海でお魚やカニを捕まえて、服をビショビショにしてお母さんに怒られてたわ』
(今はこんなに落ち着いてるのに、そんな時代もあったんだ)
サアラがクスッと笑うと、「なに?」とレクルムがいつもの無愛想な顔に戻って、彼女を見返した。
(あぁ、もったいない……)
そう思いながら、サアラは「なんでもありません」と首を振った。
馬車は夕刻になる前にカルームの街へ着いた。
まずは宿に入る。
レクルムは、部屋を二つと言いかけて、不安げなサアラに気がついた。
(どうせ、あと二日だ。それくらい付き合ってあげてもいいよね)
「ツインはある?」
言い直した彼の言葉にサアラは視線をあげ、ぱあっと顔を明るくした。
(こんなことぐらいで喜んでくれるなら、安いもんだ)
宿に荷物を置くと、レクルムはサアラに提案してみた。
「まだ時間が早いから、海まで行ってみる?」
「はい! 行きたいです!」
犬だったらブンブン尻尾を振ってそうな勢いで、サアラは頷いた。
宿の主人に道を聞いて、海辺に行ってみる。
まだシーズンではないが、そこは海水浴でも有名な場所らしく、白い砂浜に海の青が映えていた。
「わあ……!」
一面砂浜と海しか見えない開放感あふれる光景に、サアラが感嘆の声をあげた。
たたっと砂浜を海へと駆けていく。
日が傾いてきていて、まもなく夕暮れだ。
綺麗な夕焼けになれば、彼女はさらに喜ぶだろうなとレクルムは後ろから見守った。
途中で靴に砂が入ったらしく、サアラは靴を脱いで裸足になって歩いた。
靴下を履いていないのを見て、あぁ、靴下もなかったか、とレクルムは頭の中にメモを取った。
ゆっくり彼女のあとをついていく。
海は穏やかで風が心地よい。
レクルムは目を細めた。
サアラは波打ち際まで進んでいって、恐る恐る海の中に脚をつけた。
「ひゃあ、つめた~い!」
はしゃいだ声をあげ、サアラは脚をバタバタさせる。
そのうち慣れたのか、スカートをまくって、もう少し深いところに行って、腰をかがめて水面を覗き込んだ。
(なにかいるのかな?)
レクルムが近づくと、「小さいお魚がいっぱいいます! あと貝も!」と彼を振り返ってうれしそうに笑った。
(まぶしい……)
陽の光が彼女を照らし出し、その真珠色の髪の毛を輝かせる。
正視できなくて、彼は目を逸らせた。
「それはよかったね」
視線を逸らせた先になにか動くものがあった。
「カニだ……」
「えっ、どこ?」
バシャバシャと波を立てて、急いでサアラが駆け寄ってくる。
その音に驚いて、カニは逃げてしまった。
「そんな勢いで来たら逃げてしまうよ」
「あああ~、見たかった……」
がっくりするサアラに、「砂浜をよく見ていればいくらでもいるよ」と教えてやると、そろりそろりと彼女は探索を始めた。
「ふっ、あははっ」
その姿がおかしくて、ツボに入ってしまって、レクルムはめずらしく声をあげて笑った。
「レクルムさん! 静かにしててくれないとカニが逃げちゃう!」
頬を膨らませて、サアラが振り向いた。
カニ探しをしながら、サアラは貝がらを発見し、今度は貝がら探しに夢中になる。
綺麗な貝がらを見つけるたびに、「見てください~!」とレクルムに見せに戻ってくる。
(僕も貝がら探しは好きだったなぁ)
二枚貝はすぐ見つかるけど、巻き貝はなかなか見つからなくて、発見したときはとてもうれしかった。
家に帰って、喜んで義母に見せびらかしたものだった。
今のサアラのように。
そのうち日が暮れてきて、空がオレンジピンクに染まってきた。
それを映して、海もピンク紫に染まる。
「うわぁ、綺麗……!」
いつの間にかそばに戻ってきていたサアラが空を見上げる。瞳がキラキラしている。
その横顔を見て、ポロッと言葉が漏れた。
「そうだね。君の瞳のように綺麗だ」
驚いてぱっと振り向き、サアラが彼を見た。
気味悪がられることはあっても、瞳の色を褒められたことはなかったから、びっくりしたのだ。
「本当に同じ色だね」
自分がなにを言ったのか、気づいておらず、レクルムは彼女の瞳と夕焼けを見比べて、感心した。
サアラはふいに恥ずかしくなり、バシャバシャとまた海の中に入っていった。
満潮になってきたのか、先ほどよりも深くなっている。
「あまり奥まで行くと危ないよ?」
レクルムが声をかけると、サアラは「大丈夫ですよー」とスカートを捲し上げて、彼を振り向いた。
スカートから綺麗な脚がニョキっと露出して、彼が視線を逸した瞬間───
ザッパーン
「きゃあ!」
大波が後ろからサアラを襲った。
不意をつかれた彼女は思いっきり転んだ。
「大丈夫!?」
ジャブジャブとレクルムは彼女の元へ急いだ。
頭からびしょ濡れになってペタンと座り込んだサアラは呆然としていた。
彼女の腕を掴み、立ち上がらせようとしたとき、またもや大波が来て、二人に襲いかかった。
「うわっ」
今度はレクルムまで波をかぶってしまい、全身濡れた。
手を繋いだまま、ずぶ濡れになった二人は顔を見合わせた。
「ふっ……」
「あっ、あははっ」
お互いの姿がおかしくて、思わず笑いが漏れた。
二人は年相応の顔で笑い転げた。
くしゅんっ
サアラのかわいいクシャミの音で、レクルムは我に返った。
「宿に帰って、シャワーを浴びよう。風邪をひくよ」
彼女の腕を引っ張り、今度こそ立たせて、二人は宿に戻った。
宿の主人が呆れた顔をして、タオルを差し出してくれた。
部屋に戻ると二人は風呂場に直行した。
レクルムはサアラの服の上からシャワーをかけて、海水を流すとともに冷え切った身体を温めてやった。自分もざっと洗い流す。
「それじゃあ、先に使いなよ」
シャワーを彼女に渡すと、レクルムは先に脱衣所に出た。
貼り付いた服をなんとか脱ぎ、タオルで身体を拭くと着替える。
「ふぅ……」と溜め息をついて、ソファーに腰を下ろすと、ほどなくサアラが風呂場から出てきた。
タオルを身体に巻きつけただけの格好で。
「な、に、してるの!」
レクルムが詰問すると、彼女は申し訳なさそうに、「あの……着替えが……」と言った。
「あぁ、着替えがなかったね。ごめん」
迂闊だったとカバンを開けると、真っ先に彼女の下着が目に入った。
出し入れはサアラに任せていたけど、彼女のカバンが必要だなと今更ながら思った。
朝から不機嫌な顔でレクルムは馬車に乗り込んだ。
対象的にサアラはニコニコしている。
「今日は海に着きますか?」
「うん。夕方には着けるんじゃない?」
「やったぁ!」
サアラは海を本当に楽しみにしているようで、晴れやかに笑った。
急遽寄ることにしてよかったと彼は思う。
それでも……カルームに寄ったとしても、あと二日したら王都に着いてしまう。
(マジか……)
胸が痛んで、サアラの笑顔から目を逸らす。
王宮魔術師である以上、自分にできることはほとんどない。
なんとかしてやりたいとは思うが、かと言って、さすがに逃がすわけにはいかない。
ようやく王宮魔術師になれたのだ。それを棒に振ることなどできない。
また、これ以上遠回りしたとしても情が湧くだけでつらくなるだろう。
居たたまれなくて、レクルムは目を閉じた。
そんな彼の気も知らず、サアラは外の景色を楽しんでいた。
レクルムが言っていたとおり、景色は変わっていき、荒野からだんだん緑が多くなっていった。途中から大きな河と並行して馬車は進む。鳥の大群がいたり、魚が跳ねたりするたび、サアラは歓声をあげた。
海が近づいてくると、川幅は広くなっていった。
鳥の種類もシラサギからカモメのような海鳥に変わっていき、初めて見るそれらに、サアラは目を丸くして、眺めていた。
『あれはカモメという鳥よ。海にはもっと沢山いるわよ』
レクルムのペンダントが教えてくれる。
彼女はおしゃべりなだけでなく、物知りでもあるようだった。
『そんなの、わたしだって知ってるわ!』
カーテンがなぜか対抗してきた。
そこへ、ふわぁと風が入り込んでくる。
『これが潮の香りよ!』
(潮の香り……)
サアラはよりいっそうワクワクしてきた。
遠く進行方向に、青い水面が見えてくる。
それは河よりも青く波が立ってキラキラしていた。
「あれが海?」
「そうだね」
海辺で生まれ育ったレクルムには懐かしい匂いと光景だった。
義理の両親に育てられた街もこんな感じだった。
レクルムは、赤ん坊の頃、街道のど真ん中で捨てられていたのを行商をしている両親に拾われた。
その少し先に馬車の残骸があったので、盗賊に襲われたのかもしれないということだった。
おくるみの中にあったのが今つけているペンダントで、両親と彼を繋ぐものはそれしかなかった。
拾ってくれた夫婦には子はなく、レクルムを自分の子のように大切に育ててくれた。
彼に魔術師の素質があると知ると、無理をして高い費用を払い、魔法学校にまで通わせてくれた。
その優しい義理の両親も、彼が学生の間に行商の途中で盗賊に襲われて亡くなった。
遺産は親戚で分けられ、彼にはなにも残らなかったが、彼はそれでいいと思った。
ただ、貴族ばかりの魔法学校だけは、蔑まれ、虐げられても無表情で返し、歯を食いしばって、飛び抜けた成績で卒業した。
そこで、教授の推薦もあり、なんとか王宮魔術師になることができたのだ。
(なんだか無駄にいろいろと思い出してしまうね)
潮の香りを嗅ぐと連鎖的に記憶がよみがえってくる。
レクルムが物思いに耽る中、サアラはうれしそうに海を眺めていた。
「海がキラキラしてて綺麗ですね」
「うん、僕も海は好きだな」
ふっと視線を遠くにやると、レクルムは口許を緩めた。
その柔らかな表情に、サアラの心臓がトクッと跳ねた。
(鼓動が早い……?)
そういえば、昨夜からなんだか胸がもやもやして息苦しい気がする。
身体の調子でも悪いのかしらと、サアラは小首を傾げた。
『そういえばねー』
レクルムが同意したので思い出したのか、ペンダントがまたしゃべりだした。
『レクルムはちっちゃい頃、けっこう活発な子で、海でお魚やカニを捕まえて、服をビショビショにしてお母さんに怒られてたわ』
(今はこんなに落ち着いてるのに、そんな時代もあったんだ)
サアラがクスッと笑うと、「なに?」とレクルムがいつもの無愛想な顔に戻って、彼女を見返した。
(あぁ、もったいない……)
そう思いながら、サアラは「なんでもありません」と首を振った。
馬車は夕刻になる前にカルームの街へ着いた。
まずは宿に入る。
レクルムは、部屋を二つと言いかけて、不安げなサアラに気がついた。
(どうせ、あと二日だ。それくらい付き合ってあげてもいいよね)
「ツインはある?」
言い直した彼の言葉にサアラは視線をあげ、ぱあっと顔を明るくした。
(こんなことぐらいで喜んでくれるなら、安いもんだ)
宿に荷物を置くと、レクルムはサアラに提案してみた。
「まだ時間が早いから、海まで行ってみる?」
「はい! 行きたいです!」
犬だったらブンブン尻尾を振ってそうな勢いで、サアラは頷いた。
宿の主人に道を聞いて、海辺に行ってみる。
まだシーズンではないが、そこは海水浴でも有名な場所らしく、白い砂浜に海の青が映えていた。
「わあ……!」
一面砂浜と海しか見えない開放感あふれる光景に、サアラが感嘆の声をあげた。
たたっと砂浜を海へと駆けていく。
日が傾いてきていて、まもなく夕暮れだ。
綺麗な夕焼けになれば、彼女はさらに喜ぶだろうなとレクルムは後ろから見守った。
途中で靴に砂が入ったらしく、サアラは靴を脱いで裸足になって歩いた。
靴下を履いていないのを見て、あぁ、靴下もなかったか、とレクルムは頭の中にメモを取った。
ゆっくり彼女のあとをついていく。
海は穏やかで風が心地よい。
レクルムは目を細めた。
サアラは波打ち際まで進んでいって、恐る恐る海の中に脚をつけた。
「ひゃあ、つめた~い!」
はしゃいだ声をあげ、サアラは脚をバタバタさせる。
そのうち慣れたのか、スカートをまくって、もう少し深いところに行って、腰をかがめて水面を覗き込んだ。
(なにかいるのかな?)
レクルムが近づくと、「小さいお魚がいっぱいいます! あと貝も!」と彼を振り返ってうれしそうに笑った。
(まぶしい……)
陽の光が彼女を照らし出し、その真珠色の髪の毛を輝かせる。
正視できなくて、彼は目を逸らせた。
「それはよかったね」
視線を逸らせた先になにか動くものがあった。
「カニだ……」
「えっ、どこ?」
バシャバシャと波を立てて、急いでサアラが駆け寄ってくる。
その音に驚いて、カニは逃げてしまった。
「そんな勢いで来たら逃げてしまうよ」
「あああ~、見たかった……」
がっくりするサアラに、「砂浜をよく見ていればいくらでもいるよ」と教えてやると、そろりそろりと彼女は探索を始めた。
「ふっ、あははっ」
その姿がおかしくて、ツボに入ってしまって、レクルムはめずらしく声をあげて笑った。
「レクルムさん! 静かにしててくれないとカニが逃げちゃう!」
頬を膨らませて、サアラが振り向いた。
カニ探しをしながら、サアラは貝がらを発見し、今度は貝がら探しに夢中になる。
綺麗な貝がらを見つけるたびに、「見てください~!」とレクルムに見せに戻ってくる。
(僕も貝がら探しは好きだったなぁ)
二枚貝はすぐ見つかるけど、巻き貝はなかなか見つからなくて、発見したときはとてもうれしかった。
家に帰って、喜んで義母に見せびらかしたものだった。
今のサアラのように。
そのうち日が暮れてきて、空がオレンジピンクに染まってきた。
それを映して、海もピンク紫に染まる。
「うわぁ、綺麗……!」
いつの間にかそばに戻ってきていたサアラが空を見上げる。瞳がキラキラしている。
その横顔を見て、ポロッと言葉が漏れた。
「そうだね。君の瞳のように綺麗だ」
驚いてぱっと振り向き、サアラが彼を見た。
気味悪がられることはあっても、瞳の色を褒められたことはなかったから、びっくりしたのだ。
「本当に同じ色だね」
自分がなにを言ったのか、気づいておらず、レクルムは彼女の瞳と夕焼けを見比べて、感心した。
サアラはふいに恥ずかしくなり、バシャバシャとまた海の中に入っていった。
満潮になってきたのか、先ほどよりも深くなっている。
「あまり奥まで行くと危ないよ?」
レクルムが声をかけると、サアラは「大丈夫ですよー」とスカートを捲し上げて、彼を振り向いた。
スカートから綺麗な脚がニョキっと露出して、彼が視線を逸した瞬間───
ザッパーン
「きゃあ!」
大波が後ろからサアラを襲った。
不意をつかれた彼女は思いっきり転んだ。
「大丈夫!?」
ジャブジャブとレクルムは彼女の元へ急いだ。
頭からびしょ濡れになってペタンと座り込んだサアラは呆然としていた。
彼女の腕を掴み、立ち上がらせようとしたとき、またもや大波が来て、二人に襲いかかった。
「うわっ」
今度はレクルムまで波をかぶってしまい、全身濡れた。
手を繋いだまま、ずぶ濡れになった二人は顔を見合わせた。
「ふっ……」
「あっ、あははっ」
お互いの姿がおかしくて、思わず笑いが漏れた。
二人は年相応の顔で笑い転げた。
くしゅんっ
サアラのかわいいクシャミの音で、レクルムは我に返った。
「宿に帰って、シャワーを浴びよう。風邪をひくよ」
彼女の腕を引っ張り、今度こそ立たせて、二人は宿に戻った。
宿の主人が呆れた顔をして、タオルを差し出してくれた。
部屋に戻ると二人は風呂場に直行した。
レクルムはサアラの服の上からシャワーをかけて、海水を流すとともに冷え切った身体を温めてやった。自分もざっと洗い流す。
「それじゃあ、先に使いなよ」
シャワーを彼女に渡すと、レクルムは先に脱衣所に出た。
貼り付いた服をなんとか脱ぎ、タオルで身体を拭くと着替える。
「ふぅ……」と溜め息をついて、ソファーに腰を下ろすと、ほどなくサアラが風呂場から出てきた。
タオルを身体に巻きつけただけの格好で。
「な、に、してるの!」
レクルムが詰問すると、彼女は申し訳なさそうに、「あの……着替えが……」と言った。
「あぁ、着替えがなかったね。ごめん」
迂闊だったとカバンを開けると、真っ先に彼女の下着が目に入った。
出し入れはサアラに任せていたけど、彼女のカバンが必要だなと今更ながら思った。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~
三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた!
しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様!
一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと!
団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー!
氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?
yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました*
コミカライズは最新話無料ですのでぜひ!
読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします!
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。
王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?
担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。
だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!
【R18】夫を奪おうとする愚かな女には最高の結末を
みちょこ
恋愛
前々から夫に色目を使っていた侍女が、事故に見せかけて夫の唇を奪った。その日を境に侍女の夫に対する行動はエスカレートしていく。
愛する夫は誰にも渡すつもりはない。
自分の立場も弁えない愚かな女には、最後に最高の結末を与えよう。
※タグを確認した上でお読みください。
※侍女のソフィアがヒーローに度の過ぎた行為をする回に関しては、△マークを入れさせて頂きます。
※本編完結しました。後日番外編投稿したい(願望)。
※ムーンライトノベル様でも公開させて頂きました!
私に構ってくる騎士団長が媚薬を盛られたので手助けした結果。
水無月瑠璃
恋愛
マイペースで仕事以外ポンコツな薬師のリゼット、女嫌いで「氷の騎士」の異名を持つテオドール。歯に衣着せぬリゼットと媚びる女が嫌いなテオドールは1年前から時折言葉を交わす仲に。2人の関係は友人とも、ましては恋人とも言えない。
2人の関係はテオドールが媚薬を盛られた夜に変わる。
予告なくR18描写が入りますので、ご注意ください。
ムーンライトノベルズでも掲載しています。
氷獄の中の狂愛─弟の執愛に囚われた姉─
イセヤ レキ
恋愛
※この作品は、R18作品です、ご注意下さい※
箸休め作品です。
がっつり救いのない近親相姦ものとなります。
(双子弟✕姉)
※メリバ、近親相姦、汚喘ぎ、♡喘ぎ、監禁、凌辱、眠姦、ヤンデレ(マジで病んでる)、といったキーワードが苦手な方はUターン下さい。
※何でもこい&エロはファンタジーを合言葉に読める方向けの作品となります。
※淫語バリバリの頭のおかしいヒーローに嫌悪感がある方も先に進まないで下さい。
注意事項を全てクリアした強者な読者様のみ、お進み下さい。
溺愛/執着/狂愛/凌辱/眠姦/調教/敬語責め
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる