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揺れる①

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 次の週末は生理になったので、木佐さんにそれを伝えたら、「じゃあ、映画を観に行こう」と言われた。
 なにが『じゃあ』なのか、わからない。

「出かけられないほど、しんどい?」

 私が押し黙ると心配そうに聞かれて、慌てて否定した。

「いいえ、わりと生理痛はないほうです」
「それはよかった。じゃあ、土曜日に迎えに行くよ」

 そう言われて、つらいから出かけられないと言えばよかったと思う。でも、あとの祭りだ。
 その後のやり取りで、おもしろいと話題のミステリーを観に行くことになった。

 映画館に行くなんて、久しぶりだった。
 話題作とあって、席はほぼ埋まっていたけど、木佐さんが席を予約してくれていたので、真ん中の見やすい席で観ることができた。
 ポップコーンとシェイクを買って入ったのに、映画が始まると、それを食べる余裕もなく、のめり込んだ。
 そして、ミステリーだからと油断していた私は、化粧が落ちるほどボロボロに泣いてしまった。
 もともと涙もろいけど、登場人物の心情が切なくて切なくて、感情移入しすぎたのだ。

「かわいいな、宇沙ちゃんは」
 
 こんなに泣きはらした状態の女の子を連れてるなんてめんどくさいだろうと思うのに、木佐さんは笑って、私の頭を自分に引き寄せ、顔を隠してくれた。
 木佐さんは買い物をして、ご飯を食べて帰るつもりだったみたいだけど、そのまま車に戻り、目がパンパンに腫れている私を家に連れ帰って、ピザを取ってくれた。
 保冷材に濡れタオルを巻いて渡されたので、有難く目に当てる。

「ありがとうございます」
「どういたしまして」
 
 木佐さんに手を引っ張られて、脚の間に座らされ、後ろから抱っこされた。
 なんでこんな体勢に?と疑問に思ったけど、お腹に手を当てられて、温めてくれてるのかもしれないと思った。

「切ないけど、いい映画だったね」
「はい。犯人の気持ちを思うと、胸が痛くて、どうして他の手はなかったのかなって……」
「あんなに自分を犠牲にできるって、すごいよね」

 ぽつぽつと感想を言い合っていると、思い出してしまって、また涙がにじんできた。
 木佐さんは笑って、私の頭をなでると、頬にキスをした。

「宇沙ちゃんがかわいすぎて、ムラムラする」
「なんですか、それ!」

 彼の発言にピタッと涙は止まった。 
 でも、ピザの宅配が来るまで、私たちはそうしてくっついていた。
 生理中特有のシクシクするお腹の痛みが、木佐さんの体温で軽くなった気がした。

 
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