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もう疑わない②
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予告通り、拓斗が夜更けまで帰ってこない日々が続いた。
でも、朝には顔を見られるし、以前と違って、望晴にはもう不安はなかった。
ただ、彼の目もとのくまを見て、心配になるだけだった。
それからしばらくして、拓斗が興奮して帰ってきた。
「望晴、取れた! コンペに勝ったんだ!」
満面の笑みを浮かべた彼は望晴を抱きしめ、喜びを露わにしている。
こんな彼を見たのは初めてで、よほどうれしいのだろうと望晴までテンションが上がった。
「おめでとうございます! よかったですね!」
「あぁ。はるやの通販システムを受注したんだ」
「はるやの!?」
まさかコンペがはるやのものだとは思いもよらなくて、望晴は驚いた。
それに、拓斗ならそんなことをする必要がないのではないかと思った。
彼女の疑問がわかったのか、拓斗が言う。
「改修するということで、一業者としてコンペで戦ったんだ。前に言っていたAIの接客システムを改良したもので」
「AIがお客様の要望を即座に提案するものですね」
「そうだ。でも、君が味気ないと言っていただろ? だから、AIにキャラ付けをしたんだ」
(なにげなく言っただけなのに、覚えていてくれたんだ)
ささやかなことがうれしくて、望晴は微笑んだ。
興奮した拓斗の話は続く。
「『はるこさん』というキャラが受け答えをするようにして、入学祝い用だと『おめでとうございます』と言ったり、手土産用ならそのお菓子にまつわるうんちくを語ったりするんだ。もちろん、AIを立ち上げなくても普通に買えるが、はるこさんがいたほうがモニターの好感度が高かった」
「ただ機械的に選んでいくよりいいですね」
感心していた望晴を拓斗は意味ありげに見つめた。
「接客は君を参考にした」
「えっ?」
「君の接客は丁寧で押しつけがましくなく、でも、要点は押さえられている。痒い所に手が届くというか。非常に好感が持てる」
急に褒められて、望晴は赤くなった。
拓斗が彼女の頬を両手で挟んだ。
「それをAIで再現したんだ。もちろん、本物に勝るものではないが」
ふっと笑った彼は望晴に口づけた。そして、甘い瞳で見つめる。
「君がいたからできた。君のおかげで勝てたんだ」
「そんな……私は、なにも……」
「ようやく父さんに認めてもらえた気がするよ」
彼の言葉に、長年のわだかまりが解ける兆しを感じて、望晴はうれしくなった。
実際、このシステムを詰める間に、父子で何度か話し合いが行われたようだ。
「望晴は僕がはるやの社長になったら、うれしいか?」
彼がそんなことをつぶやくまでになった。
跡を継ぐことを検討しているようだ。
両親もそれを望んでいるだろう。
でも、今の会社への思い入れもあるだろうと思い、望晴は言葉を選んで返した。
「大好きなはるやの社長が大好きな旦那様なんてすごいとは思いますが、私は今のままでもどちらでも拓斗さんを応援します」
「それは心強いな」
拓斗は綺麗な顔で微笑んだ。
でも、朝には顔を見られるし、以前と違って、望晴にはもう不安はなかった。
ただ、彼の目もとのくまを見て、心配になるだけだった。
それからしばらくして、拓斗が興奮して帰ってきた。
「望晴、取れた! コンペに勝ったんだ!」
満面の笑みを浮かべた彼は望晴を抱きしめ、喜びを露わにしている。
こんな彼を見たのは初めてで、よほどうれしいのだろうと望晴までテンションが上がった。
「おめでとうございます! よかったですね!」
「あぁ。はるやの通販システムを受注したんだ」
「はるやの!?」
まさかコンペがはるやのものだとは思いもよらなくて、望晴は驚いた。
それに、拓斗ならそんなことをする必要がないのではないかと思った。
彼女の疑問がわかったのか、拓斗が言う。
「改修するということで、一業者としてコンペで戦ったんだ。前に言っていたAIの接客システムを改良したもので」
「AIがお客様の要望を即座に提案するものですね」
「そうだ。でも、君が味気ないと言っていただろ? だから、AIにキャラ付けをしたんだ」
(なにげなく言っただけなのに、覚えていてくれたんだ)
ささやかなことがうれしくて、望晴は微笑んだ。
興奮した拓斗の話は続く。
「『はるこさん』というキャラが受け答えをするようにして、入学祝い用だと『おめでとうございます』と言ったり、手土産用ならそのお菓子にまつわるうんちくを語ったりするんだ。もちろん、AIを立ち上げなくても普通に買えるが、はるこさんがいたほうがモニターの好感度が高かった」
「ただ機械的に選んでいくよりいいですね」
感心していた望晴を拓斗は意味ありげに見つめた。
「接客は君を参考にした」
「えっ?」
「君の接客は丁寧で押しつけがましくなく、でも、要点は押さえられている。痒い所に手が届くというか。非常に好感が持てる」
急に褒められて、望晴は赤くなった。
拓斗が彼女の頬を両手で挟んだ。
「それをAIで再現したんだ。もちろん、本物に勝るものではないが」
ふっと笑った彼は望晴に口づけた。そして、甘い瞳で見つめる。
「君がいたからできた。君のおかげで勝てたんだ」
「そんな……私は、なにも……」
「ようやく父さんに認めてもらえた気がするよ」
彼の言葉に、長年のわだかまりが解ける兆しを感じて、望晴はうれしくなった。
実際、このシステムを詰める間に、父子で何度か話し合いが行われたようだ。
「望晴は僕がはるやの社長になったら、うれしいか?」
彼がそんなことをつぶやくまでになった。
跡を継ぐことを検討しているようだ。
両親もそれを望んでいるだろう。
でも、今の会社への思い入れもあるだろうと思い、望晴は言葉を選んで返した。
「大好きなはるやの社長が大好きな旦那様なんてすごいとは思いますが、私は今のままでもどちらでも拓斗さんを応援します」
「それは心強いな」
拓斗は綺麗な顔で微笑んだ。
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