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結婚の挨拶
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「入籍した!? マジか! なんでそんなことに?」
開店前の店に啓介の声が響いた。
翌日仕事に行った望晴は開店準備をしていたら、啓介に目ざとく婚約指輪のことを突っ込まれた。
そこで、京都での出来事を話したのだ。
鳩が豆鉄砲を食らった表情の見本のような顔で、啓介が叫んだ。
無理もないと思う。自分でもまだ不思議だったから。
「とりあえず、おめでとう、でいいのか?」
「う~ん、特に今までと変わりないので、どうでしょう?」
「お互いに恋愛感情はないのか?」
そう聞かれ、望晴はなんて答えたらいいかわからなかった。
前までは即座に『ない』と返せた。でも、自分の気持ちに自信がなかった。
確実に惹かれてはいる。が、それが恋愛感情なのかどうかはわからない。
(だって、あんなにかっこいい人に優しくされて、抱かれて、惹かれないわけがないわよね)
でも、拓斗にその気がないのは明白だった。彼は便宜的に結婚を決めたのだ。
「ない、ですね……」
「そうか……。でも、一緒に暮らすうちに変わるかもな。なんせもう夫婦なんだからな」
夫婦という言葉に、望晴は赤くなった。
(変わるのかしら)
拓斗が自分にあきるか、他に好きな人ができるまでの暫定的な関係のはずだ。ただ、昨日の拓斗の様子から、少し違うのかもしれないとも思った。望晴はペーパー上の夫婦を求められたのかと思っていたが、拓斗は普通の夫であろうとしているのかもしれない。
「じゃあ、次はいよいよ両親へのご挨拶か?」
そう言われて、望晴ははっと気づいた。
「由井さんのお父さまにご挨拶!?」
急展開すぎたからしかたないにせよ、当然、藤枝にも結婚の挨拶をしていない。
彼女の慌てた様子に、啓介があきれて言った。
「なんだ、そんな重要なことを忘れてたのか?」
「だって、急な話だったんですもの」
でも、いくら偽造結婚だとしても、ご両親へ挨拶しないわけにはいかない。
望晴はその夜、拓斗が帰ってくるなり、問いかけた。
「由井さんのお父さまへのご挨拶はどうしましょう?」
上着を脱ぎながら、彼は顔をしかめた。
「父には母から言ってもらうからいい」
「そういうわけにはいかないでしょう?」
どうやら彼は父と折り合いが悪いようだ。めんどくさそうにしている。
「それより、君ももう『由井』だけど?」
身を引き寄せられて額と額をつけて言われて、望晴は頬を赤らめた。
でも、はぐらかされるものかとキッとにらんで返した。
「……じゃあ、拓斗さん。大人のマナーとして挨拶はしたいです!」
「ごまかされなかったか」
ふっと笑った拓斗は甘い瞳で見つめてきた。
「望晴、君は真面目だな。相談しとくよ」
彼女を離した拓斗は服を着替えにいった。
残された望晴は、いきなり呼びすてされて、やけにドキドキする胸をそっと押さえた。
開店前の店に啓介の声が響いた。
翌日仕事に行った望晴は開店準備をしていたら、啓介に目ざとく婚約指輪のことを突っ込まれた。
そこで、京都での出来事を話したのだ。
鳩が豆鉄砲を食らった表情の見本のような顔で、啓介が叫んだ。
無理もないと思う。自分でもまだ不思議だったから。
「とりあえず、おめでとう、でいいのか?」
「う~ん、特に今までと変わりないので、どうでしょう?」
「お互いに恋愛感情はないのか?」
そう聞かれ、望晴はなんて答えたらいいかわからなかった。
前までは即座に『ない』と返せた。でも、自分の気持ちに自信がなかった。
確実に惹かれてはいる。が、それが恋愛感情なのかどうかはわからない。
(だって、あんなにかっこいい人に優しくされて、抱かれて、惹かれないわけがないわよね)
でも、拓斗にその気がないのは明白だった。彼は便宜的に結婚を決めたのだ。
「ない、ですね……」
「そうか……。でも、一緒に暮らすうちに変わるかもな。なんせもう夫婦なんだからな」
夫婦という言葉に、望晴は赤くなった。
(変わるのかしら)
拓斗が自分にあきるか、他に好きな人ができるまでの暫定的な関係のはずだ。ただ、昨日の拓斗の様子から、少し違うのかもしれないとも思った。望晴はペーパー上の夫婦を求められたのかと思っていたが、拓斗は普通の夫であろうとしているのかもしれない。
「じゃあ、次はいよいよ両親へのご挨拶か?」
そう言われて、望晴ははっと気づいた。
「由井さんのお父さまにご挨拶!?」
急展開すぎたからしかたないにせよ、当然、藤枝にも結婚の挨拶をしていない。
彼女の慌てた様子に、啓介があきれて言った。
「なんだ、そんな重要なことを忘れてたのか?」
「だって、急な話だったんですもの」
でも、いくら偽造結婚だとしても、ご両親へ挨拶しないわけにはいかない。
望晴はその夜、拓斗が帰ってくるなり、問いかけた。
「由井さんのお父さまへのご挨拶はどうしましょう?」
上着を脱ぎながら、彼は顔をしかめた。
「父には母から言ってもらうからいい」
「そういうわけにはいかないでしょう?」
どうやら彼は父と折り合いが悪いようだ。めんどくさそうにしている。
「それより、君ももう『由井』だけど?」
身を引き寄せられて額と額をつけて言われて、望晴は頬を赤らめた。
でも、はぐらかされるものかとキッとにらんで返した。
「……じゃあ、拓斗さん。大人のマナーとして挨拶はしたいです!」
「ごまかされなかったか」
ふっと笑った拓斗は甘い瞳で見つめてきた。
「望晴、君は真面目だな。相談しとくよ」
彼女を離した拓斗は服を着替えにいった。
残された望晴は、いきなり呼びすてされて、やけにドキドキする胸をそっと押さえた。
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