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心当たり②

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「もしもし、颯⽃さん?」

「なんだ、めずらしいな。なにかあったか?」



 初めての⼀花からの電話だった上、その硬い声になにか感じたようで、颯⽃が尋ねてきた。

 ⼀呼吸置いてから、⼀花は話し出す。



「嫌がらせしている相⼿って、綾部物産に関係ある⽅ですか?」

「なぜそれを? なにかされたのか!?」



 鋭い声になった颯⽃が彼⼥の⼼配をしてくれる。

 正解だったと知って、⼀花はわなわなと震えた。

 こんなに腹を⽴てたのは久しぶりだ。



「取引先から切られました。綾部物産の意向だということで」

「なんだって? くそっ! 申し訳ない。……俺たち、少し距離を置いたほうがいいかもな」



 颯⽃も⼀緒になって怒った上に謝ってくれて、⼀花は落ち着いてくる。

 距離を置くもなにも、このところ会ってもいないし、もともと距離は遠いわとおかしくなる。

 恋⼈のふりをやめようということだと思うが、⼀花は逆のことを提案した。



「いいえ。むしろ、もっとイチャイチャしましょう。近いうちにその⽅の出席するパーティーなんてないですか? ⾒せつけて煽って、ボロを出させてやりましょう!」



 なんなら直接⽂句を⾔ってやりたかった。

 そんなことをしても颯⽃の⼼は⼿に⼊らないと。

 それほどまでに⼀花は嫌がらせ犯に憤っていた。



「ハ、ハハハッ」



 ⼀花は真剣に⾔ったのに、颯⽃はおかしそうに笑い始めた。

 ⽿もとを軽やかな声がくすぐる。



「君はやっぱりおもしろいな」



 笑いを含んだ声で⾔われて、⼀花はふくれる。

 彼⼥は本気で怒っているのだ。

 

「おもしろくなんかありません! それよりどうなんですか? パーティーはあるんですか!?」

「あぁ、ある。ちょうどおあつらえ向きのパーティーが来週にな。取引先の創業記念パーティーだが、うちのホテルでやるからいろいろ融通も利くし、もとから俺は出席予定だ」

「いいですね。そこに乗り込みましょう!」



 嫌がらせをしているのは、綾部物産の社⻑令嬢ではないかと颯⽃は考えていたが、今までは明確な証拠がなかったそうだ。

 しかし、今回、綾部物産からの指⽰があったことで、その線は濃厚になった。

 来週のパーティーは綾部物産とも取引のあるいずみ産業創業三⼗周年記念パーティーだから、その令嬢も来るはずだという。颯⽃の出席するパーティーは把握されているようだから、そういう意味でも必ず来るだろう。

 ⼀花と颯⽃は詳細を打ち合わせして、そのパーティーに臨むことにする。

 数々の嫌がらせに加え、とうとう仕事にまで影響が及んで、⼀花はうんざりしていた。



(もう終わらせたいわ!)



 それは颯⽃との恋⼈のふりを終了することでもある。

 ⼀気になにもかも終わらせたいと願う⼀花だった。
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