騎士団長の幼なじみ

入海月子

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あきらめる?②

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「侯爵様に求められて嫁げるなんて光栄なことだぞ? ……ラディアンくんと将来の約束はしてないんだろ?」

 お父様も私の片想いを知っていて、彼にその気がないのも知っている。

「……はい。そうですね」
「じゃあ、悪いが、明日は二人で出かけるのは中止してくれ。ダンリケ侯爵に顔が立たない」

 はっとした。
 
(もうラディアンと一緒に出かけられないなんて……)

 いつも私の誕生日にはラディアンと一緒に過ごしていた。
 今年ももちろんそうするつもりだった。
 暗黙の了解で私たちは約束すらしてなかった。
 でも、確かに縁談が来ているのに、他の男の人と出かけるなんて許されないだろう。

「はい、承知しました……」

 突然のお別れに衝撃を受けて、胸が痛い。
 私はなんとか絞り出すように声を出し、涙をこらえてうつむいた。


 自室に戻った私は顔を覆った。
 こんなことになるなら、この間、無理にでも迫って、ラディアンのものにしてもらえばよかった。
 せめてそれを良い思い出に侯爵家に嫁いでいくことができたのに。
 もう会えないなんて。
 もう一緒に過ごせないなんて。

「ううん、まだ遅くないわ! 今夜なら……」

 突然ひらめいた。
 ラディアンに告白して思い出をもらおう。それで長年の片想いにケリをつけよう。
 私は心に決めた。

 
 夜になって、ひそかに家を抜け出した私は、隣のブランジ子爵家に行く。
 夜遅い訪問にメイドたちは驚いていたけど、私がラディアンのところを訪れるのはめずらしいことではない。

「ラディアン様はまだお戻りではごさいません」
「いいの。ラディアンを驚かせたくて。誕生日のサプライズよ」
「誕生日なのはマール様のほうなのに?」

 茶目っ気たっぷりに片目をつぶり、秘密よと言うと、みんな笑って納得してくれた。
 妙齢の男女なのに、まるで勘ぐられることがなくて、ひそかに傷ついた。

 私は勝手にラディアンの寝室に忍び込み、ドレスを脱いで、ベッドにもぐり込んだ。
 枕からはほのかにラディアンが匂いがする。
 心臓が早鐘を打つ。
 
(なんて言えばいいのかしら? 誕生日のリクエストって言えばいい?)

 いつもラディアンは誕生日に私の願いを叶えてくれた。
 このところは二人で過ごしたいというリクエストばかりだったけど。
 ラディアンはケーキが美味しいと評判のカフェや花盛りの公園など、私の喜びそうなところを探して連れていってくれた。そして、最後にジュエリーを贈ってくれるのだ。
 節度を保って、夕方には家に送り届けてくれるのがいつも残念だった。
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